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ゴールドマン(GS)は落ち目なのか

1984年にアメリカから帰国。まもなくして東京にあるスイスの証券会社で働き始めた。所在地は有楽町電気ビル。そこに所狭しと銀行員があふれていた。外資系というのはスペースをとるところなのに狭い。間もなく新霞が関ビルに引越をした。そこの19階を占拠していた。東側には株式・債券・外為のディーリングルームがあり壁を隔てて調査部があった。西側は管理部門と支店長室だった。西側にはいったことがなかった。

激しくディールを行う稼ぎ頭のトレーダーがいるディーリングルーム。そことはまったく違い静かなところ。調査部はパティションで仕切られていて誰が何をしているのか見えない。パソコンの音だけが聞こえる。そこでは証券アナリストが株式の調査をしていた。

何を調査するかというとどこが儲けていてるのか。株を買うのか売るのかというレポートを出していた。レポートを読むのは海外の投資家だった。配属されたわたしは日々慌てており、わからない日々を過ごしていた。

3年必死にくらいついてようやくマーケットの動きが感覚的にわかるようになってきた。調査部ではなにやら学者が読むような本を勧められた。ディーリングルームの人たちが読んでいるのはマイケル・ルイスの「ライヤーズ・ポーカー」だった。この本の中に書かれているのは東京でも結構当てはまる内容である。

あるオンラインイベントでゴールドマンサックス(GS)について話題になった。ここ十年で最悪の業績を計上した。多角化を狙った路線も苦戦している。一般消費者をとりこんで資産運用をしようとしている。ただその数は伸びることなく競合とは差が開くばかり。何が起きているんのだろうか。GSは苦戦から抜け出す道はあるのか。そしてGSというのはそれほど落ち目なのか。そういった疑問に対する答えを文章で書いてみます。

ひとことでいうとそれほど苦戦はしていない。まだまだGSは投資銀行としては健在であること。その理由は儲け、高度人材、そして高給にあるということです。GSはそれほど落ち目ではありません。

儲けを表す指標は経常利益。GSの2021年度の利益は$21bn。現在の為替レート132円として約2兆8000億円を稼ぎだしている。利益をこれだけ出しているので会社としては十分でしょう。赤字とは程遠い。

人材は相変わらずアイ・ビー・リーグの優秀な人材が集まるところ。その人たちがマンハッタンをめざしてやってくる。そこでは学士だけでなく多くは有名なビジネススクール卒業生が働き手としてやってくる。そういった高度な人材が集まってくる故にこれだけの利益を出すことができます。

ただ最近は競合のJPMorgan ChaseやMorgan Stanleyといったところに苦戦を強いられているという。その理由としては一般消費者向けにiPhoneのアプリを使った資産管理分野での苦戦。アドバイスをする仕事でなかなか業績が伸びない。JPMorganの顧客数6600万人に比べてGSは1500万人しか登録者を獲得できていない。顧客ベースで遅れをとる。

ハーバード大学卒業といったエリートが一般顧客に対してスマホのアプリで資産運用のアドバイスをする。光景としてやや変ということもありましょう。アプリのとなりにはMetaやTwitterのアプリがあるなんて。バリバリのスーツを着たエリートが民間人に何を話すんだろう。

報酬はよくて新卒での平均年収は$100,000といわている。22歳で1300万円をもらえる。悪くはない。アナリストで数年働いてその後にビジネススクールにいくという選択肢はいまでもある。こき使われることは必至です。現在でもGSは銀行員に給与とボーナスで2兆円を支払っているとのこと。お金の好きなアメリカ人にとっては働きがいのあるところ。つまり価値のあるところでしょう。

わけのわからないまま数年過ぎたある冬の夜。わたしはスイス銀行の支店長の家に招かれました。神谷町にある3F建てのマンションでした。そこに支店長は一人で住んでいた。二人の英語を話すお手伝いさんを雇っていました。わたしはどういうわけかその家の中にしばらくいて飾ってある食器を見ていました。ひとつくらい支店長から許可を得てもらっていっても文句は出ないだろう。

そうやって時間が過ぎて霞が関から地下鉄に乗りました。1時間ほどして自宅に戻った。なんともレオパレスのロフト付き1DKというのは差がありすぎる。都内にマンションがほしい。支店長のマンションは月300万円。わたしのところはその60分の1くらいの家賃だった。都内に住んで高給。理想だったけど興味はなかった。ある程度切り詰めて生活したことが少しだけ役に立っている。