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キッシンジャー前国務長官の説で世界戦争を防ぐ

いまからかなり前。わたしが中学生のころだった。フォークソングというのが流行っていて日常のいたるところで聞くことができた。わたしにとってフォークの代表格といえば吉田拓郎と井上陽水だった。そして次から次へとギターによる魅力的な音色で視聴者を魅了する人たちが現れた。わたしは聞くだけでは飽き足らず自らフォークギターを買って歌う練習をした。ギターを弾きながら歌を練習すること。これは中学生から高校生になるまで続いた。

よく歌ったのが「戦争を知らない子供たち」という楽曲だった。戦争が終わって僕たちは生まれた。戦争というのは1945年に終戦した第二次世界大戦のことを指した。それから朝鮮戦争が起きベトナム戦争へと広がった。この戦争によってアメリカ兵の多くが負傷した。アメリカ国内には二度と戦争をしたくない。戦争には出兵したくないという空気が広がった。映画もたくさん作られた。

あるオンラインイベントで第三次世界戦争を防ぐにはという話題で話をする予定がある。話は5月27日に100歳の誕生日を迎えるヘンリー・キッシンジャーの本に基づく。彼はある新聞記者から8時間に及ぶインタービューを受けた。その中で戦争を防ぐにはどんな理論が必要か。その方法は何か。それらを語っている。

彼の理論は抑制と均衡(Check and balance)という理論に基づいている。方法は状況分析、目標設定、そして結びつけとアプローチをとる。これを聞くと経営コンサルタントが使う手法によく似ている。さて彼の理論にどこかつけ入るところはないか。それを横暴にもやってみることにした。これはわたしの勝手な解釈であることをお断りしておく。この文章は別にしてまずは彼のことを深く理解した方がいいことはここに書いておく。

3点あげてみた。ひとつは戦争回避には外交と武装であるとしていること。次に抑制と均衡の理論を核兵器による抑止と核軍縮に通用してきたこと。バランス・オブ・パワーという概念を展開してきた。どこまで科学的な立証ができるかということ。それぞれどういうことだろうか。

まずキッシンジャー博士はニクソン大統領のときに国務長官として各国の首脳と直接会って話をしている。外交経験も46年という長さを誇り外交については彼より詳しい人はいない。これは前置きとしてある。彼は外交による話し合いをとことんまですること。これが戦争回避の方法だという。交渉の話題は武力の均衡を主眼としている。双方が同じ武力を持ち合わせていれば均衡状態をつくれる。

外交手段には武力を主眼としたものでありほかのテーマに対しては懐疑的だという。ジャネット・イエレン財務長官は回避には経済や気候変動に対処への協調を提言している。それに対しては疑問視している。

わたしは気候変動は戦争回避のための与件ではないということには同意見である。気候変動で大戦は起きない。しかし経済の武装化というのはありえるのではないか。

中国が経済成長をして対外貿易を増やした。基軸通貨であるドルの外貨預金保有高が世界一だという。それをもとに新興国に貸付をしている。新興国側は中国からお金を借りてインフラ整備ができる。道路、港湾、橋などといった交通に不可欠な設備を建設している。

ただ新興国の借金が返済できなくなっても中国は借金をライト・オフ(帳消し)にすることはなくいつまでも返済義務を課す。それをファイナンスによる武装化というひともいる。これはあてはまるのではないか。

次に彼の理論は核軍縮には貢献してきたといえる。核の保有量が同じならば均衡を保てる。そのためバランス・オブ・パワーが働きお互いを攻撃することはなくなる。抑止力としての核兵器になろう。これは外交の交渉テーマとしては間違ってはいない。ただし核兵器だけが武器ではなくなってきた。相手を破壊する武器というのはなにもミサイルだけではなかろう。そしてそれを配備した大陸弾道弾や潜水艦の保有量だけでなくそれを操縦するノウハウであったりもする。そういったノウハウは博士のことだから織り込み済みであろう。そこで出てきたのが人工知能である。

問題は博士も指摘している通りに人工知能の登場である。この人工知能が次の戦争には重要な鍵をにぎるという。ひとつまちがえば規模はエスカレートしてお互いが壊滅してしまうことになりかねない。ただ人工知能がどこまで人類の破壊能力があるかはまだわからないのではないか。

わたしにとって彼の理論と実践のなかでどうしてもわからないところがある。それは彼の理論が正しいとしてそれを実践できるリーダーがアメリカの共和党にいるかどうか。だれでもできるような仕事ではなかろう。どのような訓練が必要なのか。

あるいはどこまで科学的に立証できるのであろうか。量的な均衡と抑制はできた。しかし質的な側面はどうやって計測するのであろうか。質的な側面は少数の専門家によって戦略会議を行いながら評価する。それがよくわからない。

「戦争を知らない子供たち」という楽曲はどういうわけかわたしの耳に長く残った。高校まで毎日のようにギターを弾きながら歌ったものだった。歌詞というよりもどちらかというとメロディーが好きだった。よく口ずさんだしいまでも思い出すことができる。

ただしもし間違っても戦争が起きてしまったらこの歌はどんな歌になってしまうだろう。いつまでも知らないままの子供たちがいる世の中であってほしい。戦争を経験した人たちは口をそろえて戦争だけは二度としてはいけないという。知っている人がいうのだから間違いないであろう。知らない人がかなり増えると起きてしまうかもしれない。

キッシンジャー博士はナチス政権によって13人の親族がホロコーストの犠牲になった。その経験から戦争を防ぐには双方の理解と粘り強い交渉以外に手段はないと確信したという。そこから均衡と抑制という理論を打ち出している。

博士はいう。「わたしはずっとこのことを考えて一生を過ごしてきた。(二度に渡る大戦の影響を受けてきた)わたしの一生は苦しみに満ちていて決して楽しいものではなかった。」