井出正介・高橋由人「アメリカの投資銀行」1977
日本経済新聞社刊である。刊行時点(1977年)で著者たちは野村総合研究所勤務。井出さん(1942-)はこの時点でニューヨーク事務所勤務(写真は文京シビックセンター)。その後、青山学院大学で教壇に立たれた。高橋さん(1940-)は金融調査室長だったが、1992年には野村証券の副社長に就任されている。今から振り返ると、この本はおそらくは、野村證券がアメリカの投資銀行と伍してゆく、そのことの意味を社内外に示す、そうした啓蒙の書であったように思える。
アメリカの歴史制度的背景として(p.39)、商業銀行がユニットバンキングが基本で相対的に小規模であること。また商業銀行に対する、大口融資規制や長短分離規制、株式保有の禁止。生命保険などが直接貸し付けることへの規制が存在すること。などが、投資銀行による有価証券引き受けという直接金融方式を発達させたと指摘している。とはいえ引き受けた証券を、速やかに投資家にはめ込む能力が、投資銀行の勝負どころという(p.32)。
業務の説明はなかなか詳しい。公募(p.42-)と私募(p.57-)を比較して私募の重要性を説明しているところ(私募には、発行会社、投資家それぞれを発掘する意味があること。日頃からの投資家とのネットワーク、リレーションが試されること。などを投資銀行の業務と絡めて説明している)。
プロジェクトファイナンスのところ(p.90)。石油危機後の大規模資源開発ブームの後、流行語になったとしている。その本質を、プロジェクト自体が将来もたらすキャッシュフロー、もしくはプロジェクト自体の資産としての価値のみにもとづいて調達する点にある。としている(この表現はポイントをついている)。特徴付けるものを、ノンリコース、オフバランスシート、既存の財務制限条項との抵触回避と続けている(いずれもその通りなのだが、これらの説明が省かれているのは少し残念。ノンリコースの意味は、さきほど本質としたことだが、プロジェクトそのものだけを担保に資金を調達するということ。このように担保を特定の資産に限定することである。オフバランスシートは、この事業を実施しようとする会社のバランスシートからは切り離して、特定の事業プロジェクト自身が独立して、資金を調達するスキームを作ること、このことをオフバランスシートと言っている。こうした一連の説明の省略からは、本書が出た時点で著者たちが時代の先端を走っていたことを感じさせる)。
そしてエクスチェンジオファの説明(p.110以下)。一方で既発行証券を買い戻し、他方で新たに別の証券を発行する。その目的は財務指標の改善のほかいろいろあるとする。
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