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青春歲月在北大  2012

 《青春歲月在北大  哲學系1957級同学回憶録》社会科学文献出版社, 2012年。内容はタイトルの通り、1957年に北京大学に哲学系で入学した人たちの回顧録である。記名されているのは40名ほど。(なお冒頭写真は成城学園前駅から小田急線新宿方面を臨んだもの。2019年11月8日。)
    一般に歴史をみるときに、個人の日記であるとか、新聞、その当時の写真・小説・映画などが役にたつことがある。この回顧録は、卒業後50年後のもの。50年の時を経て記載はなおかなり詳細なものが多く、大学時代の経験がかなり鮮明に記憶されていることに感心する。
    彼らはまさに1950年代後半、「大躍進」の掛け声のもと、農村に入っている。あの馬寅初(マー・インチュ)の形骸にまさに触れた世代である。最初本書を手にしたとき、そのとき考えていた馬寅初のことや、「大躍進」時の学生生活が読み取れることを期待したが、本書の内容はその期待を裏切らない。
 50年代末の「飢え」が忘れることができない思い出として語られている。エネルギーの損耗をふせぐため、体育課が一時閉鎖されたこと、しかし合唱隊、舞踏隊など文化活動は、活発だったとしている。入学後の政治運動について触れるものも多い。文革時とは違うのだろうが、学内で反右闘争が展開され、学生たちは教員に批判をぶつけているし学生同士の批判も記録されている。
 また在学中に、農村に下放されている(1958年から9ケ月近く、教育と労働の結合が言われている。人民公社の設立や人民食堂などを体験し、農業を実体験している)。下放では、共産風をふかし実験田を主導し、しかし実際は成果が上がらず農民から教えられたことが書かれている。下放は2回経験している人もおり、鉄路の補修に駆り出された経験を語る人もいる。
 勉強としてロシア語の学習が重視されたこと。留学生がいて、留学生との交流があったこと。講義を系を超えて自由に聞くことができるなど、かなり自由な雰囲気が保たれていたこともわかる。中国哲学史のほか、西欧哲学史もあったこと。人気のある教員の話は機知に富み、教室に笑いがあったこともわかる。内外でダンスの集まりがあり、学生が出版する学内出版物もあるなど。勉強のよくできる学生は高学年になると、原書を通読するレベルであったことも読み取れる。時間が経って美化されている面はあるだろうが、政治ばかりで灰色の学生生活という印象を裏切る記述もある。
 哲学系の教員についても、多くの記述があるが、中国の哲学史に知識がない今の段階の私には、名前を見てもそこに記述されている内容の意味が十分読み取れないのは残念だ。中国哲学史を講じていた馮友蘭(フォン・ヨウラン 1895-1990 コロンビア大学で学位。中国哲学史の研究者として知られる。文革初期に唯心主義を知るには馮友蘭が必要だと毛沢東が発言して、ある意味保護された。ただその後、批林批孔運動のなかで四人組の意向に沿った文章を発表し、問題視されている。)。西洋哲学史を講じていた任華(レン・ホア 1911-1998   ハーバードで学位)など。なかでも馮はすでに右派とされていて批判のまとだったようだが、多くの学生の記憶に残っている。政治闘争について、それを頭から無駄だったとするものもある。その立場を立場を別に学問の場に政治を持ち込む、左傾、反右闘争への反省はかなり共通している。
 また入学に至った経緯などを見ると、貧しい境遇から北大に上り詰めた学生も少なくない。それは革命が行われてこうした学生への支援制度ができ、奨学金も支給される仕組みができたからだともいえる。
 基本は1957年から62年卒業までの学生時代を語るのだが、入学前から筆を起こし最近までの自らの歩み、家族のことなどを書いている人も少なくない。国家として北京大学哲学系にどのような境遇の人を選抜し、卒業後の仕事の配分をどうしたのか(少なくない人が辺境の指導者になったようにみえまた同じく大学院に進み研究者の道に進んだものも多いように見える)、またそれぞれの人が文革を含めどのような人生をその後歩んだのかは気になるところ。なお名前からその人生がわかるものとして、科学技術と社会との哲学的考察を進めたとされる慇登祥(イン・ドンシアン 1939-)、農業経済の研究者として著名な陸學藝(ルー・シュエイー 1933-2013)を執筆者のなかに見つけているが、ほかにも指摘するべき人がまじっているのかもしれない。

#北京大学 #馬寅初     #中国 #大躍進

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