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営業・金融証券・労働分野の対語表現 pair words in a business world   

営業用語 marketing area 
 求められてもいないセールスの電話(訪問)。これをcold callという。専門用語でいう不招請勧誘unsolicited callにあたります。期待していないnot expecting(迷惑だ)という意味をこめてcold。これに対して期待している場合はwarm callです。こうした対語(a pair of words)は対比して覚えるといいですね。
 おそらくこのセールスの話から転用でしょうが、授業で教師が学生に予告なく(期待してないのに)指名して発言を求めることもcold callといいます。確かに頼んでいませんね。
 2007年9月30日に施行された金融商品取引法では店頭為替証拠金取引に限定して不招請勧誘の禁止が盛り込まれました。一般に不招請勧誘に対して、批判が強いことを電話営業する事業者は十分考慮する必要があります。
 coldとwarmに組み合わされる経営用語にpushとpullがあります。営業活動の在り方で、pushからpullへの転換が説かれて久しいですね。顧客主導pull型のサプライチェーン(pull-based supply chain)という販売手法では、顧客によって購入されただけが補充され無駄な在庫が発生しないというメリットもあります。これに対して需要予測を生産者が建てる生産者主導push型のサプライチェーン(push-based supply chain)では、見込み発注による無駄な在庫が生じやすいとされています。お客さんに望まれるだけでなく、無駄な在庫が発生しないという意味でもpushよりpullが望ましいとされているわけです。
このように不招請勧誘cold callという営業手法は、在庫コスト(営業コストでもいいが経費の固定費的な部分)の増加につながると批判されました。
 しかしpull型で生産者は寝て待っているわけではありません。むしろそこでこそ、顧客ニーズを発見しそれを生産して市場に供給するという役割が重要になるのです。営業マンの役割はこのような顧客ニーズを発見しそれに合った商品の開発することに転換するべきではないでしょうか。
 営業活動の対語。しかしpush型が有効な場合もあります。両者を特性に応じて使い分けるべきだとされています。
 push strategies 実演試食販売 割引販売など 時折の購入で ブランドロイヤルティが低い商品に有効
 pull strategies クーポンや無料サンプルの配布など ブランドロイヤルティが高く顧客はすでにブランド間の違いを認識している場合に有効 
    よく似ているのは、新商品販売の際の価格戦略です。市場浸透を優先して価格を下げる戦略は、市場浸透戦略penetration strategiesですし、商品開発に要した費用の開発を優先し、また新商品への市場のニーズを利用して、高い価格で始める戦略を、スキミング戦略skimming staretegiesといいます。

金融業務における対語finance area
 金融業務の基本用語にも対語が多くあります。多くは互いに対義語(antonyms  反対語、反意語ともいう)になっています。
 私がいつもひっかかるのはWall Street に対するMain Streetです。この場合、Wall Streetはbig businessやinvestment bankersを表し、main streetはlocal business and bankingを表します。あるいはWall Streetはプロの投資家の場所で、main streetは個人投資家の王国だという言い方もあります(cf.Dave Kansas, The Wall Street Journal. Complete Money & Investing Guidebook, Three Rivers Press, 2005, p.46)。main streetが地方都市の中心部を意味するという言葉の感覚が、ピンときませんね。なおmain streetはイギリス英語ではhigh streetでいいでしょうか。商業銀行は、high streetに店舗を構えているという言い変えでいいでしょうか。
Wall Streetに対応するイギリス英語は何かは迷います。古い洋書の世界にはロンドン取引所のある場所として、あるいは証券業者が集まる場所としてChange AlleyあるいはExchange Alleyという言い方がありましたがさすがに今は見かけません。
 それとロンドンのシティといったときに、イギリスの大企業を私たちは思い浮かべません。つまりロンドンのシティはすぐれて国際金融センターとして見なされ意識されるのではないでしょうか(William M.Clarke, How the City of London Works, 5th ed., 1999, pp.47, 116-119.)。つまりは金融の仕組みの違いから、Wall Street-Main Streetというアメリカ英語にうまく対応するイギリス英語の対語はありませんが、main streetに限ればhigh streetを言い換えに使っても間違いではないでしょう。
 この問題の一つの側面、つまりメインストリート金融を正面から扱った書籍は内田聡氏の『アメリカ金融の再構築』昭和堂, 2009年4月です。内田氏の著書を読んで意識させられたのは、その対抗軸にあるマネーセンターバンクmoney center banks(big four banks and major banks)の問題です。つぎのような問題をたててみました。巨大銀行money center banksが地域金融(main street finance)に取り組むときに、どのような限界があるのか。その限界がはっきりすれば、main street financeの存在意義が明確になるのではないでしょうか。
 この答えとして昔からある指摘は、規模そのものが邪魔になるというものです。皆さんはどういう答えを用意されますか。規模が大きい方がコストが安くサービスがよいなら、そこにすべてが流れるはずです。そうならないとしたら、その理由は何か。
    鈴木芳徳先生はつぎのように説かれています。「いうところのMain Streetは、伝統的でやや退屈で窮屈な、そして『職人芸』に敬意を払う、地元の企業・銀行からなる『実体経済real economy』を意味する。これに対して、Wall Streetというのは、元来は『舗装された街路』をいい、『金融街』、或いは投資銀行が支配する全米的な規模での文化的価値の総体を意味する。」同著『現在価値と株式会社』白桃書房, 2009年9月, pp.137-138.)
なおそこで鈴木先生がwall streetが舗装された街路とされている根拠は不明です(NYの中心部は舗装されていて、田舎のメインストリートは舗装されていない時代があったということでしょうか)。私の知る限りではwall streetの名称は植民者の居住地を囲んでいた木のwallに由来しています。

銀行業務における対語banking area
 銀行業務には2つのタイプがあるという。リレーションシップ・バンキングとトランザクション・バンキングである。
 日本では、中小企業向け融資では財務情報など定量的情報があてにならないことから、定性的判断(経営者の人となり ビジネスセンスなど)が重視されることから、リレーションシップが大事だという言い方がある。これに対して、対中小企業に対してもトランザクションバンキングが可能だということが、大手行の中小企業向け融資で喧伝され、財務諸表を用いたスコアリングモデル化が可能であるかに議論された。
 2005年4月に東京で開業した新銀行東京は、このビジネスモデル(トランザクションバンキング)の応用であったが、スタート時点からうまくゆかなった。これを推進した東京都、側面で支援した行政、旗振りを演じた経済学者たちの責任は重い。

リレーションシップバンキング :長期継続的な取引に基づく定性情報を重視
               した融資手法
トランザクションバンキング: 財務諸表等の定量情報に基づき一時点かつ
              個々の取引の採算性を重視した融資手法

 なおrelationship bankingは辞書の上では次のように書かれていて顧客との関係のなかで顧客のニーズを発見してそのニーズを満たすことで積極的マーケッティングを行うこととされている。cross-sell(抱き合わせ販売)という手法に近い。顧客の関係性を重視して、様々な金融業務を行うことを指しているように見え、日本における中小企業の金融の視点とはかなり説明がずれているように感じる。
relationship banking: concept in financial services marketing whereby an account officer or customer service representative tries to meet all of a customer's needs, or to the extent permitted by regulation. relationship banking is an attempt to advance the sales culture in bank marketing beyond order taking to a more pro-active form of direct selling. instead of selling financial services one at a time, an account officer attempts to gain an understanding of the consumer's needs and offer services that fulfill those needs. 以下略 from Dictionary of Banking Terms, 4th ed., Barron's:2000, pp.385-386 青木武「中小も大手もこぞってリレーションシップバンキング」『金融財政事情』2010年12月20日, pp.36-37

Dictionary of Bankingにはtransaction bankingの項目はなかったがPalgraveのDictionary of Financeにはtransactional bankingの記述がある。業務を分割して一件ずつは量が大きいことで採算が取れるという説明になっている。議論としては、証券業者をみるときに、投資情報も提供するfull service brokerと売買仲介に業務を限定するdiscount brokerとを分けることがあるが、そこと対応しているようにも見える。

A model of Banking where a financial institution focuses primarily on providing clients with specific transactional services and support, often attempting to be the low-cost provider on a volume basis of checking, deposits, trade execution, and lending. Dictionary of Finance, Palgrave Macmillan: 2010, pp.518-519
relationship banking: a model of banking where a financial institution attempts to provide its clients with a full range of products and services and to engage in a continuous and detailed dialog about business requirements in order to create a long-term business relationship. A client choosing a relationship bank may expect rapid response, competitive pricing, and assistance as required. ibid., p.431

証券業務における対語stock brokers area
 IPO(新規公開増資initial public offering)に対してSPO(seasoned public offering IPO以降の)=公募増資という言い方も、学会では定着しました。seasondは年季を経たということでしょうが、耳慣れない言葉ですね。
 投資用語は独特ですから、そもそもこの分野に入るためには用語に慣れる必用があります。
 たとえば売り(short)と買い(long)。ask(売り手の呼び値)とbid(買い手の呼び値)。opening(始値)とclosing(終値)。
 成長株(growth stock 成長期にある株式で景気変動とは無関係に一定の成長を見込める)に割安株(value stock)。ついでに循環株cyclical stock(経済成長あるいは景気予測に連動して動く)と防衛株defensive stock(不景気のときも投資対象になる)のニュアンスはわかるだろうか(Dave Kansas, op.cit., Three Rivers Press, 2005, pp.26, 28)。
 投資分析あるいは投資戦略は、テクニカル投資(technical investing)とファンダメンタル投資(fundamental investing)に大別されます(Dave Kansas, op.cit., Three Rivers Press, 2005, pp.66-69)。
 テクニカル投資は、チャート図表分析を重視するのでchartistsと呼ばれることもある。チャートのパターン分析を重視する。価格の上限を示す抵抗線resistanceや下限を示す支持線supportの発見とか、三尊天井head and shouldersの発見など。また売買量volumesを弱気強気のサインとして重視。
 ファンダメンタル投資は、現在の株価の妥当性を判断する上で投資価値の分析を重視するもの。これも幾つかのタイプに別れる。割安株投資家(value investors)は株価が割安かどうかの分析を重視。これに対して成長株投資家(growth investors)は、企業の収入の成長を重視するもの。
 今後も強い成長が見込める株式に投資するもので、そのなかでも積極的に動くのはモメンタム投資家(momentum investors俊発的投資家 モメンタムはそのときの市場の勢いのこと モメンタム投資とは相場の勢いに乗る戦略であり、後追い戦略、順張り投資といえる)と呼ばれる。
 ところで割安株投資(value investing)が成立するのは、株価が理論的な価格に時間差はあっても収斂すると考えるから。これに対するのが逆張り投資(contrarian investing)。逆張りは、感情的な行き過ぎが市場を支配しているとして、市場の方向とは、逆の投資をすること。値が下がっているときに下げすぎだと判断し、値が上がっているときには上げすぎを判断するというように。これは割安株投資と似ている。
 これに対して後追い投資(順張り投資momentum investing)とは、市場で上昇している株に買いをいれ(買い乗せ)、落ちている株には売りを入れるもの(売り乗せ)。市場の勢い(momentum)に乗る戦略を指す。
 なお市場効率仮説を信ずる立場からすると、モメンタム投資は成立しにくい。市場はただちに行き過ぎを修正して、理論的に想定される株価に収斂すると考える。しかし、実際の市場は、市場参加者の感情に支配されやすい。モメンタム投資の余地が多いにある。投資戦略での積極的(active)と受動的(passive)。

 資産運用としてさまざまな株式、債券を組み合わせるといった形での投資は一般にポートフォリオ投資(portfolio investment)といわれます。株式については、ある程度の持分を保有して、業務提携あるいは相手方の経営に関与するといった投資があります。これは戦略投資(strategic investment)と呼ばれ、portfolio investmentとは区別されます。別の言い方では、前者はindirect investment。後者はdirect investmentです。企業買収における投資はstrategic investment or direct investmentです。
 バイサイド、セルサイドという言葉も頻出します。運用会社内にいるのがバイサイド、証券会社側がセルサイドです。バイサイドアナリスト、バイサイドトレーダーというように使います。いわゆるトレーデイングコストの問題を気にするのはバイサイドトレーダーだといえます。そうした視点からバイサイドトレーダーは、セルサイドのトレーダーやアナリストを評価します。またセルサイドアナリストの分析は、所属する証券会社の営業戦略の影響を受けていることがあります。

株式市場で使われる対語stock market area
 取引所については、auction driven型、quote driven型という市場の分け方がある。auction drivenというのは顧客の注文が主導する市場ということである。quote型はmarket makerと呼ばれる業者が常に義務としてquote(呼び値)を出しているもの。quote型は市場の流動性を確保するのでいいように見えるが、実際はquoteを出す業者がリスクを避けるために安すぎる買値、高すぎる売値を提示する。したがってquote型は、みかけほど理想的ではない。
 取引の在り方はコンピューターが登場して、floor based tradingしかしscreen based tradingの移行するとともに議論は変化した。取引所が売買情報を集まる場所である側面が注目されるようになった。伝統的取引所でなくても、売買情報を集められるものや情報を作り出せるものが売買の中心に立てることは明らか。伝統的取引所でなくても、通信情報を扱う情報ベンダーが、たとえば指数情報の作り手になれる、証券業者の中にも、自らを取引所に仕立てるものも現れた。売買の中心的担い手である、機関投資家への対応が必要である。
    機関投資家のニーズは、大量の高速取引(HFT:high frequency trading)をローコストで執行することにある。匿名性の高い取引を求めてもいる。これらのニーズに対応したものがダークプールdark poolsと呼ばれる非公開市場private marketsである。大手の証券会社に加えて、公開市場public marketsを運営する伝統的取引所も、市場として生き残るためにダークプールの提供を進めている。
 現在は取引のシステムを意味する取引dealer platformの選択が重要な意義をもつようになった。dealer platformについての争点はsingle dealer platformかmulti dealer platformかである。価格の透明性の点で、複数のdealerの価格を投資家が比較できるmultiが望ましいと思えるが、quoteの問題と同じで、単純にmultiがいいとは言えずdealerの力が問題だという考え方もある。

企業買収における対語mergers and acquisitions
 企業買収でホワイトナイト(白馬の騎士white knight or white squire)は経営陣を救いに来る友好的買収者だが、その対語はブラックナイトblack knight。なお、企業買収でいうgreenmailerというのは、買収するぞと脅して市場で集めた株をその企業から高値で買い戻させて儲ける手法。これは何か都合の悪い事実をつかんで相手を脅して金をとる「脅し」「ゆすり」blackmailから派生している。

黄犬契約yellow dog contractとunion shop
    金融用語とはいえないが、最近50年以上前に受講した「労働法」の講義で学んだ黄犬契約yellow dog contractという言葉を時々思い出す。黄犬は臆病な犬とか、野良犬のことであろうか。黄犬契約とは、労働組合に入らないあるいは脱退することを条件とする雇用契約のことである。
    反対に、入ること雇用条件とする組合との協定をユニオンショップunion shopという。個人的な意見としては、入る入らないは個人の自由であるようにも思うし、他方、労働者の団結権を守る立場からはユニオンショップが正しいようにも思う。しかしユニオンショップでは、組合から除籍されると、雇用契約からも外されるという問題が生じる。組合の団結権は、労働者の働く権利より上なのだろうか?こうしたユシ制度に対して、労働者の側から様々な苦情が実は出ている。これに対して、組合に入る入らないを雇用契約の条件としない、オープンショップopen shopもある。私は個人的にはオシ制度が好きだが、問題は就職希望先がどういう制度であるかが就職前には分からない点にある。
 労働者の雇用条件の決定・変更を考えると、労働者の利益を代表する組合が存在して、雇用条件の決定・変更を雇用者と組合が協定できることは、雇用者にとっても円滑な労使関係を形成するうえでメリットがあることが分かる。ユニオンショップには、雇用者からみても積極的な意義があることも理解しておきたい。
 なお労使が激しく対立するのはストライキの場面である。ストライキ中であるにもかかわらず、雇用に応じる者をスト破り(strikebreaker, blackleg, scab)と呼ぶ。ここでも団結権と、労働者の働く権利との対立がみられる。

originally appeared in Feb.16, 2014.
reposted in Aug.7, 2021


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