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孟小書「逃不出的幻世」『十月』2014年第3期

孟小書「逃不出的幻世」。「逃げ出せない幻(まぼろし)の世界」。この小説は以下のような「現代的」な内容。また文章としても読みやすい。

主人公は西安の学校でアニメ(動画)デザインを学んだ22歳の女の子。パソコンで毎日、映画を見ていて寝不足気味。おもちゃのデザインの仕事をしたいと思っているが、今は、北京の自宅で母親と同居中。父親は離婚して別居中。母親はなにをするでもなく一日中連続テレビドラマを見ている。

明け方まで映像をみていると、たまたま蘇州のアニメ会社から面接試験の案内があった。離婚した父親から28歳の女性と再婚することになったとの連絡が入った。吐き気がしたけど、「オメデトウ」と返した。

母親が、離婚した父親の再婚で泣き叫ぶ前に、ペットの子ザル(小猴子)を抱いて、カバンを持って蘇州に飛びたつことにした。蘇州の夏は暑く、湿度が高い。
蘇州のアニメ会社の会場で主人公は、同じく面接に来た「白慕雲」という1m85の長身の男性と出会い好感を抱く。
白慕雲は不採用だったが、主人公は連絡を待てとの扱い。白慕雲に主人公は多分採用だからお祝いしようと食事に誘われ応じる。

翌日、主人公は白慕雲に誘われるまま、金鸡湖畔の大観覧車(摩天轮)で遊んだりして過ごした。その夜、母親から沢山の連絡が入る。父親の再婚とその婚礼の時間。母方の叔父がガンで末期で今日入院したこと。阿杰(ペットの名前)が腎結石の疑いがあること。阿蘭という人が実家で亡くなったので趟家に一緒に告別に行って欲しいこと。
主人公は多くの人が北京で彼女を必要としていると、さらに翌日に北京に戻る判断をして白慕雲に電話を入れる。

北京に戻ると北京の暑さはむせて呼吸困難になるほどだった。用事を済ませた夜、白慕雲から電話があり、主人公は白慕雲と一緒にいる自分を夢に見る。次の日、アニメ会社から再試験の通知があり、主人公は午後、子ザルとともに再び蘇州に旅立つ。蘇州の駅には、白慕雲が待っていてくれた。主人公は白慕雲の胸に飛び込みたい気持ちになった。

翌日、蘇州の雨は細く、空気は清新だが、湿度が高い。午後面接試験を受ける。白慕雲は面接後、待っていてくれた。主人公は考える。この試験に落ちた時、なおこの地にとどまる理由はあるだろうか。白慕雲は主人公を芝居に誘う。その芝居は主人公はすでに北京でみたものだった。芝居を見ながら白慕雲は「君が好きだ」といって手を絡ませる。劇がはねたあと、二人は蘇州の街を散歩する。春の光が二人を祝福しているようだった。

主人公は、白慕雲の自宅に誘われる。「誰なの」と女の人の声。白慕雲には自閉症の母がいた。父親はほとんど家にいないようになったがそれ以来、母はずっと家にいると白慕雲は説明した。母は耳が聞こえないが、(父親がいなくなった)事情は分かっているようだと。
主人公はここにもう一人の自分がいると思って、大声で泣き出したくなった。

1日置いて、アニメ会社から不採用通知が届いたが、主人公はむしろ幸いだと思った。主人公は白慕雲には断わらずに蘇州を離れる。その後、白慕雲からは20余通の電話などがあった。最後のメールは「君は僕を愛したことがあった?」。主人公は「いいえ」と返した。3ケ月後、二人で遊びに行ったアミューズメントセンターのはがきが主人公あてに届いた。署名も日付けもなくこうあった。「僕は時をとめることはできるけど(我留得住时间)、君をとめることはできなかった(却留不住你)。」

コメント:主人公は西安でアニメデザインを学んだ北京在住の女の子。蘇州に仕事の面接で飛び、そこで出会った、同じく就職活動中の若い男性に少し心が動く。彼女自身の家庭は、両親が離婚して母親と同居中。ちょうど、父親の再婚の連絡が入ったところ。そうした北京の生活から逃れようととする気持ちが働く。しかし蘇州の男性の家を訪ねると、彼は自閉症の母と同居中で、どうもその原因は両親の不仲にあることが見える。どうも蘇州も安住の地ではない。蘇州の仕事が、決まらなかったことに主人公は、むしろほっとした気持ちで蘇州を離れるのであった。これは中国での離婚の増加、若者の就職活動などを背景とした作品。興味深いのは、登場人物は皆仕事をしていないということ。普段はパソコンやテレビを見て生活している。ふと気が付くのは、現代の中国社会と日本社会との類似性、そして違いである。

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