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銀行産業banking industry

 財務管理論の主役はもちろん企業です。財務管理論あるいは企業金融論で扱うのは企業が、お金をどのように扱っているかという問題ですからこれは当然です。しかしもう一つの視角として、そのお金を預かっている銀行を主人公の相手役として、その視角から企業金融の問題を考えることができます。
 なおここで銀行産業と書いたのは、これが大きな企業グループであり、一つの産業ともいえるからです。この銀行が行っている業務は3つに分けることが日本では一般的です。それは預金業務、貸付業務、そして為替業務です。銀行とはこれら三業務を国から免許を受けて、行っている業態だと理解されます。
 それを順に見てゆきます。預金業務は、個人や企業のお金を預かることですが、その預金は「決済性預金」とその他の預金に分かれています。
  決済性預金の代表は、企業や事業者が小切手・手形を振り出すために開設する「当座預金」で無利息という特徴があります。
 「普通預金」は、現在、低金利ということで利息はわずかですが、しかしつきます。こちらは、資金の出し入れが自由ですので、決済性預金として使われています。
  このほか期間を決めて預かる「定期預金」「定期積金」があります。こちらは理屈からいえば、目に見える利息があるべきですが、実際は低金利を反映して、利息は恥ずかしいほどわずかになっています。
 銀行などの金融機関の破綻から預金者を守る仕組みとして、預金保険制度があります。この仕組みでは、決済性預金で無利息なものを、全額保護。それから有利息であるものを貯蓄性預金として、一金融機関一人当たり元本1000万円まで破綻日までの利息を含め保護という考え方が基本になっています。そのため普通預金のように形だけ有利息のものが、決済性預金といえるものなのに全額保護でないなど、現状は矛盾がいろいろあります(このほか外貨預金は譲渡性預金は保護の対象外ですが預金保険の状況により支払うとされていたり、現在の制度設計は複雑です。)。この預金保険制度に対して、銀行などの金融機関は預金保険料を支払っています。
   預金保険制度で保護されている金融機関をみることで、銀行数そして金融機関数を確認します。2022年1月17日現在で、都市銀行5行、信託銀行13行、地方銀行62行、第二地方銀行37行、その他(ゆうちょ銀行含む)17行です。以上がいわゆる銀行。このほか保護対象金融機関には、信用金庫254、信用組合145、労働金庫13、連合会3、その他1を含みます。
 直近(2021年度)の全国銀行総合財務諸表(単体 ゆうちょ銀行除く)で預金(譲渡性預金以外)と譲渡性預金は以下のようになっています。参考までに2011年度の数値を右欄に上げます
 預金951兆5361億円(2021年度)            cf.   616兆7119億円(2011年度)
    当座預金     767,873億円  8.1%           366,6285億円 5.9%
      普通預金    5,655,453億円  59.4%         2,793,779億円  45.3%
      貯蓄預金        70,677億円    0.7%               70,406億円 1.1%
      通知預金    139,538億円   1.5%               69,932億円    1.1% 
      定期預金          2,519,502億円  26.5%         2,669,826億円  43.3% 
   定期積金            5,688億円  0.1%    9,006億円 0.1%
     その他      356,624億円 3.7%             187,878億円 3.0%
 譲渡性預金 59兆1139億円                  48兆2796億円

 つぎに貸付業務を見る前に、預金口座の維持手数料の問題を考えておきます。理論的には、銀行は貸付利息と、預金の利息の大きさの差で収益を上げる業態だといえます。しかし今日本の銀行は、低金利を口実に預金利息をほとんどはらっていません。
 小切手の習慣がある海外では、預金を通じて小切手支払いができることに、口座維持手数料などを求める習慣があります。高度成長期に、高い貸出利息を取れた日本の銀行は、長い間、預金を集金の手段と考えコストを考えずに預金口座を増やしてきました。しかし、低成長期には入り、近年、企業は資金余剰の傾向を示しています。貸出利息も低下しました。このような情況ですので、無原則にとくに低収益の口座を増やす必要は無くなっています。近年、残高が少ない口座から、銀行が口座維持手数料が取ろうとしている背景は理解できなくはありません。

 貸付業務に入ります。まず、当座勘定には当座貸越という仕組みがあります。当座勘定を開設するときに、当座貸越契約を結ぶことで、不足金額を自動的に貸し付けを受けられるというものです。この利息はかなり高いのですが、金融機関と交渉を要しないことが企業側にはメリットになります。
 つぎに手形ですが、伝統的に比重があったのは、約束手形(複名の商業手形)の割引と言われるものです(手形割引)。しかし商取引が電子化するなかで、商業手形の振出そのものが減っています。手形割引は縮小し、企業が短期の運転資金を必要とする場合、単名手形を振り出し、金融機関が満期までの利息を差し引いて(つまり割引の形式をとって)資金を用立てることが一般的です(手形貸付)。手形は満期まで数ケ月と短期ですから、手形を使った金融は短期になります。手形を使った場合の利息は、企業の信用力が反映します。
 長期間の貸出の場合は、証書貸付という方法をとります。ただし手形が書き換えられる形で手形貸付が更新されて、長期化することも実際には起こっています。証書貸付は通常、担保をとり(物的担保)、保証人を要求し(人的担保)、そして借入企業の信用力に応じた利息を要求することになります。保証人に代えて、信用保証協会や保証会社による保証が選択されることもあります。
 他方で、財務諸表類への信頼性が高い大企業向け貸出では、無担保貸出もあります。こうした貸出の安全性を担保する仕組みが貸付契約に付加されるさまざまなコベナンツ条項(財務上の約束)です。
 ただ資金の需給の問題もあります。資金が過剰である場合、貸出する金融機関が競争する場合などでは、信用力に応じた利息より下がる場合も、条件を緩める場合もあります。
 資金が不足している状況では、企業は、資金を確保することを優先して余剰に借りるということもしました。しかし社会的に資金が過剰に存在する近年、企業は返済を優先して、バランスシートを小さくすることを好むようになりました。それでも、企業買収、災害などをにらむと、非常に大きな資金需要が突発的に生ずる可能性(リスク)が残ります。
 直近(2021年度)の全国銀行総合財務諸表(単体 ゆうちょ銀行除く)で貸出金の構成は以下のようになっています。参考までにここでも2011年度の数値を右欄にあげます。
 貸出金 627兆5204億円(2021年度)   458兆2542億円(2011年度)
  割引手形  10,321億円 0.2%   25,052億円 0.5%
       手形貸付  164,327億円    2.6%         194,852億円 4.3%
       証書貸付   5,450,641億円  86.9%      3,783,794億円  82.6%
     当座貸越   649,913億円 10.3%         578,840億円  12.6% 

シンジケートローンそして証券化
 企業側がバランスシートを小さくしつつ、突発的な資金需要に備えるために使われるのがコミライン(融資枠)という手法です。一定期間あるいは一定条件で、融資枠を確保する。その代わりに手数料を支払うというものです。これを受け付ける金融機関の側もまた、リスクを下げるためにシンジケート(協調融資)方式をとります。つまり複数行で融資を請け負うことでリスクを減らすのです。債券の発行を私募で行うのと、この形はとてもよくにています。この方式は、大きな金額の融資で一般化するようになりました。
 他方で、金融機関が取り組み始めたのは、個人向けの住宅ローンという極めて満期までの期間が長い融資ですが、ここでも長い融資期間の間に生ずる期限前償還リスクや、債務不履行リスクなどへの対策が問題でした。そこで米国で生み出されたのが証券化という手法で、貸付債権を売却する一方、それを証券化して、機関投資家のお金をこの証券に動員するというものです。基本的な考え方は、貸付債権というアセットが生み出すキャッシュフロー、そこに着目して証券を生み出すというものです。証券化の手法は、様々なところで応用されていますが、貸付債権を証券化する動きは、機関投資家と銀行が直接結びつき、大衆からの預金に依存しない銀行につながるという意味で、銀行業務の変質=投資銀行化につながる可能性があります。
 シンジケートローンや証券化は、いずれも銀行業務のホールセール化、投資銀行化を示すようにも見えます。しかしそこに限界はないのでしょうか。

 最後に為替業務です。確かに為替は、遠隔地への送金を実現する方法です。振込、送金など。ここで銀行など金融機関は手数料をとっています。

 金融恐慌を経て、決済性預金というものをベースにした銀行が、過度にリスクを追求しない(債務過剰に陥らない)ので望ましいという考え方が一方では台頭しています。また企業のガバナンスで収益性だけでなく、社会とか環境といったファクターが重視されるように変化が生じたことに対応して、投融資にこれら社会や環境といったファクターをどう生かしてゆくかという問題も浮上しています。銀行業務がオンライン化する、現金支払いが縮小してゆくことも見えています。銀行など金融機関が今後どのように変身してゆくかは要注目です。
    地域に密着した業務を行うために、銀行など金融機関はこれまで多数の店舗と人員を維持してきました。この考え方は今後も有効かが問われています。2021年度全国銀行総合財務諸表により2022年3月末現在の都銀、地銀、第二地銀、信託銀行等の店舗数、役員数、職員数を示します。その下段は2012年3月末時点の数値です。
  2021年度      店舗数(海外店舗数)  役員数  職員数
  都銀5行       2,798 (145)           75     86,773
  地銀62行                       7,841 (   17)         784      124,690
  第二地銀37行                2,708 (     1)         463        33,887
  信託銀行4行                  272 (     9)                        53        21,860 
  その他2行                           46 (    0)                        21          4,305
  計全国銀行110行         13,665 (172)                    1,396      271,575

  2011年度      店舗数(海外店舗数)  役員数  職員数
  都銀6行        2,510 (119)                             91       92,859
        地銀64行        7,504 (  15)                           945  132,888
       第二地銀42行     3,129 (    1)                          552        47,395
        信託6行        282 (    9)                            74        21,548
       その他2行       62 (    0)                            24           3,438
       計全国銀行120行  13,487 (144)                        1,686    298,128    
 


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