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胡鞍鋼《中國崛起之路》2007にみる「全面的な小康社会の実現」に到る経済目標の変遷

 胡鞍鋼《中國崛起之路》北京大學出版社,2007  pp.323-332, 372-388(王京濱訳『国情報告 経済大国中国の課題』岩波書店,   2007 pp.161-191 王訳は原書をかなり大胆に編集している。しかしこの大胆な編集については、どこにも明記されていない。その意味で王訳については、かなり問題を感じるが、ここでは中国における全面的小康社会の実現に到る経済目標の立て方の変遷を見る資料という意味で資料としてだけ使うことにする。
 「小康」が1980年に鄧小平の発言として、今後20年間に実現すべき目標として掲げられ、また「全面的小康社会」の実現、あるいは「共同富裕」の実現が、江沢民により2002年に掲げられたのは以下に見る通りである。しかし左派の立場からは、共同富裕と併せて「公平公正」の実現がより重要だと思われる。手元にある、南京大学の洪銀興主編の政治経済学の教科書は、まさにその点を指摘している(洪銀興主編《學好用好中國特色社會主義政治經濟學》江蘇人民出版社,2017年p.14。also, see, pp.154-162)
 他方で同じこの教科書で、胡鞍鋼が2007年に提示した枠組みが10年後の2017年にもほぼそのまま使われていることも確認できる。
「新中国成立後、毛沢東同志を代表とする第一代中央指導集団は4つの現代化の発展目標を提起し、わが国を、現代農業、現代工業、現代国防、現代科学技術を備えた社会主義強国に作り替える(建設成爲)とした。改革開放開始後、鄧小平同志はわが国の具体的な情況(国情)から、四つの現代化の発展目標を再分化して3段階(三歩走)とした。第一段階は1990年に1980年比で国民生産総価値を二倍にして人々の衣食住(溫飽)問題を解決する。第二段階は2000年までに国民生産総価値をさらに二倍にして人々の生活を小康水準まで高める。第三段階は21世紀半ばまでに、国民生産総価値をさらに4倍にして、中等発達国家の水準に高め、現代化を基本実現する。
 わが国は20世紀前に小康社会を基本実現したあと、新世紀の三段階発展目標を提起した。最初の10年で国民生産総価値を2000年比で倍にして、人々の小康生活にさらに余裕を与え、より完全な社会主義市場経済体制を作り上げる(建成)。さらに10年努力して結党から100年の時には(2021年のこと 訳注)、全面的な小康社会を建設し(全面的とは小康が社会全体に行き渡ることを指している 訳注)、国民経済をさらに発展させ、様々な制度をさらに完全にする。21世紀の半ば新中国成立から100年の時には(2049年のこと 訳注)現代化を基本実現、富強民主文明和諧の社会主義国家を作り上げる。」洪銀興主編《學好用好中國特色社會主義政治經濟學》江蘇人民出版社,2017年, pp.29-30

 胡鞍鋼《中國崛起之路》北京大學出版社,2007年。王京濱訳『国情報告 経済大国中国の課題』岩波書店,   2007年
王京濱訳p.165  1963年9月に開かれた中央工作会議で 毛沢東の発案により中国近代化建設における2段階論が提起された。第一段階では、独立的で比較的完備した工業化体系を確立させ、中国の工業化を世界水準に接近させる 第二段階では中国の工業を世界の先端にまで成長させ 農業、工業、国防および科学技術の近代化を全面的に実現する

訳p.165 1964年の第三期全国人民代表大会第一回会議において、周恩来は、全国人民に四つの近代化を実現するよう呼びかけた 15年間で第一段階の目標を達成し、20世紀末までに第二段階の目標を達成する(“兩步走”的發展戰略,明確提出用大約15年時間(1980年以前)實現第一步目標,力爭到20世紀末實現第二步目標。)

訳p.167 1975年第四期全国人民代表大会第1回会議で、周恩来は「二段階論(兩步走)」による「四つの近代化(四個現代化)」実現の構想を再度提起した。

訳p.171 1979年12月初め 鄧小平は日本の大平正芳首相に対して「我々の目指している四つの近代化・・・小康の家が目標である。今世紀の末までの4つの近代化の目標をいくつか達成できたとしても、一人当たり国民総生産は依然低い水準にあるだろう、第三世界で比較的豊かな国と肩を並べるまでは、たとえば一人当たりGDPを1000ドルに引き上げるなど、まだ相当の努力をしなければならない」

訳p.171 1980年12月末 鄧小平は中央工作会議で 20年間を利用し、中国の近代化建設を「小康」水準に引き上げ、その後また一歩一歩、高度の近代化実現を目指して前進する と明確に提起した。

訳p.171 この鄧小平の構想は 第五期全国人民代表大会第四回会議の『政府工作報告』に登場した。これに基づき、趙紫陽首相は「20年間を利用して工業・農業総生産を4倍増させ、人民の生活を「小康」水準に引き上げる」と演説した。

訳pp.171  1982年9月に、共産党第12期党大会において、上記の戦略構想は今後20年間における中国経済建設の戦略目標として提起された。・・・
訳p.172 ・・・目標達成に向けて、始めの10年間は主に基礎を築き、力を蓄え、発展の条件を整える期間とされ、次の10年間は経済の新しい新興時期とされた。今世紀末に国民総生産の4倍増、一人当たり国民総生産を800ドルに、人民の生活を「小康」水準に引き上げることが計画され、このもとで、1980年から2000年までに、国民総生産の年平均成長率は5%という目標を定めた。 

訳p.172  1985年3月7日 全国科学技術工作会議において 鄧小平「われわれのこれからの数十年に及ぶ努力は、貧困撲滅という目的一つに限る。第一歩は。今世紀末に「小康」水準を実現する。つまり、裕福でもないが貧乏でもなく、いくらかゆとりのある生活。第二歩は、さらに30-50年をかけて経済面で先進国水準に追いつく。つまり、人々が裕福な生活を送れることである。」

訳p.175  第十三期党大会(1987年)では「小康」社会の実現が「三段階(三步走)戦略の第二段階目標として正式に決定された。・・・まず、国民総生産を(1980年比で)倍増させ、国民の衣食住問題を解決する。次に、20世紀末にさらに倍増させ、国民生活を「小康」水準に引き上げる。最後に21世紀の半ばごろまでに、一人当たり国民総生産を中所得国の水準に引き上げ、国民生活は比較的裕福となり、おおむね近代化を実現する。

訳p.176  (実際には)1987年にGDP総額は9129億元に達し、1980年に比べて倍増させる目標は3年繰り上げて実現された。1995年にGDP総額は1兆9578億元に達し、2000年までの4倍増目標の実現はさらに5年早まった。・・・都市住民は1995年に、農村住人は2000年に「小康水準」に到達した。公定レートでのドルベースで測った国民一人当たりGDPは、2000年に950ドルに達し、中国の第二段階の近代化目標はおおむね達成できた

訳p.177  江沢民は1997年に開かれた中国共産党第十五期党大会で、時代と国情に合わせた新しい三段階発展構想を提起することになった。・・・「今日から2010年までは・・・われわれの目標は、まず最初の10年で国民総生産を2000年水準より倍増させ、国民にさらにゆとりを感じさせたうえで、比較的に健全な社会主義市場体制を構築する。次に、中国共産党の誕生百年にあたる第二の10年で経済のさらなる発展を目指し、各種の制度を整備する。第三に、建国百周年にあたる21世紀半ばごろまでに、基本的に近代化を実現し、富強した民主的で文明的な社会主義国家を確立させる」

訳p.178 江沢民の新しい三段階論構想は、2002年の第十六期党大会で、詳細な数値目標により明確化された。・・・具体的に、第一段階では経済規模、総合国力および国民生活をステップアップさせ、次の段階の飛躍のために基礎を固める。第二段階の2010-2020年では、GDPの4倍増、一人当たりGDPの3000ドル台への引き上げ、全面的な小康社会の建設などを通じて経済発展の成果を全国民に享受させたうえで、総合国力と国際競争力を向上させる。2020-50年の第三段階では、近代化の実現を目指す。

訳pp.178,180  2002年に中国共産党第十六期党大会は、現段階で到達した「小康社会」について、まだ初歩的なモノであり、不均衡なものであるとの認識を示した。そのため、今後20年ほどの期間を利用して、すべての中国人が享受できる全面的な小康社会を構築する構想が打ち出された。それは「より発達した経済、より健全化した民主制度、より進んだ科学教育、より繁栄した文化、より調和のとれた社会、よりゆとりのある国民生活」を掲げ、2020年までに全面的な「小康社会」を実現しようとするものである。その本質は、一部の国民だけでなく、十数億のすべての中国国民にともに富裕になってもらう(共同富裕)発展目標である。この点では「先富論」と決定的に異なる(它的核心思想是全面的小康社會,而不是片面的小康社會;是惠及十几億人口的小康社會,而不是惠及少數人口的小康社會;是進入''共同富裕''階段,告別了“先富論”階段。)

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