見出し画像

生産性と収益性 productivity and profitability

 財務のお話しは、企業のお金の話しが中心です。しかし企業活動の中には、お金以外にも関心を持つべきことはいろいろあります。その中でも大事なことは生産性を上げるとはどういうことか、という問題です。最初にproductivity生産性という言葉ですが。以下の定義を見てください。
 労働者の単位労働当たりの産出が増えることが生産性と定義されています。そして革新的な技術の導入が生産性の改善を促すことが知られています。生産性の改善は収益性の改善に役立ちます。その意味でモノ作りの現場を知ることは大事です。
 しかし逆に収益性の改善に役立つことは、生産性以外にも沢山あります。全体を見ることが大事です。生産性と収益性の順に見てゆきましょう。(後でも述べるように日常生活では、収益性を指しているのに、生産性ということがあります。ここではできる限り、両者を分けてみます。)

 生産のプロセスの中にも、生産性を改善するヒントは隠されています。かつて、組み立て作業について、その動作を研究して無駄な動きを無くして、効率を上げることが議論されましたし、作業の熟練が効率改善になることも知られています。
 企業経営の立場で様々な可能性を考えてみます。

生産方法そのものの問題
 工場内部の作業工程の見直し。作業の手順、姿勢、などを工夫するとムダが減り生産性があがることが知られています。フォードシステムを勉強した時に科学的労働管理として学んだ論点ですが、最近でもこの問題はよく議論されます。労働者自身の問題もありますし、作業台の高さや、器具の配置場所などは設備に関する問題もあります。
 まず前提として作業工程の標準化。手順書、マニュアルの作成の意義が指摘されます。仕事のバラつきをなくす。経験の良いところを集約し改善を図る。ミス防止の意識を高めるなどが指摘されています。
 そしてかつて広く行われていたのはQC品質改善活動です。現在もQCサークルをやっている企業は存在するようですが、かなり下火とされています。従業員が自発的に品質改善に取り組むことを促すこと自体は正しいと思いますが、たとえば就業時間後に残業代なしでという話を読むと、下火になる理由は十分あるように思います。

 モジュール化。複合部品と私は呼んでいますが、製品の内容をあらかじめいくつかの複合部品に分けることで、最終的な組み立て現場での作業が簡易になることが知られています。モジュール化の大きなメリットはこのようにモジュールに分解することで、またモジュールをいろいろな製品に共通化することでその生産コストを引き下げ、かつ商品開発のスピードをあげることができるという点です(以下を参照 日産のモジュール化 2012/02/27)。

 習熟曲線(学習曲線)learning curve。労働者が作業に習熟するとともに生産性が上がることを表したグラフのことですが、作業に習熟するほど、生産性が上がる、あるいはミスが減ることを指しています。

 稼働率operation rateの引き上げ。生産設備の稼働率(1日あたり稼働時間)を増やしますとコストが下がります。ただし生産量が増えてしまうので、これは前提として需要が増えていることが必要です。需要に変化がなくても(生産量が一定でも)、古い設備の工場を除却廃棄し、新鋭設備の工場に生産を統合すると稼働率を上げることができます。会社の資産規模は小さくなりますが、資産の効率、あるいは工場の稼働率は改善されます。
  このように設備を合理化して生産を集中すると、消費地からの距離が遠くなり輸送費がかかる。労働者の配転が必要になる。災害などのときのリスク分散(生産工場の分散)体制が崩れるといった問題があるかもしれません。

  古い生産設備の除却廃棄。今少し議論してしまいましたが、古い設備より新しい設備は生産効率が高いとします。そうしたときに古い設備廃棄除却し、新しい設備だけで生産すると生産の効率があがります。
  vintage 企業設備のビンテージと生産性(経済産業省 2005)
   ここでビンテージとは設備投資の設置後(導入後)の経過年数をいいます(ビンテージvintageは特定年のワインのこと、転じて古いモノでも価値があるときビンテージモノといった言葉使いをします)。設備投資が盛んでないと保有設備のビンテージが増え、生産性の低下につながるという考え方があります。これは2004-2006年頃盛んに議論された問題です。

 自動運転・アバターロボット・協働ロボット
 
自動運転は運転手を不要とする方法です(運転が好きだとヒトもいますが、自動運転はヒトを運転から解放することになります。現在急がれているのは危険な場所での運転からヒトを解放することです)。同様にアバターロボットは非接触でしかしヒューマンタッチのサービスを提供する方法として、コロナ禍で注目されています。介護にあたる人のリスクを下げ、(防護服などの)コストをカットできる面もあります。協働ロボットは、これまでの産業ロボットと違い人と一緒に働くロボットのことです。
   鉱業技術のイノベ―ション 技術士2020/01  遠隔化 自動化 
 鉱山機器自動化状況調査 2017/06/15
 自動運転の未来 コンセプトZMP(2014)youtube2018/02/14
 GACHA 良品計画 無人運転バス 2019GoodDesign賞
    Deliro オフィスの中 無人配達 ZMP youtube2020/03/04 
 病院でアバターロボットが活躍 ロボスタ2020/05/19
   アバターロボット(遠隔操作ロボット 分身ロボット)
 協働ロボットとは FAロボットcom(キーエンス)
 人協働ロボット デンソーCOBOTTA 2018 Good Design賞
 新型コロナ時代とロボット技術 PCWatch2020/06/17
 コロナで加速する自動化とロボット化 Newswitch2020/06/18

収益性の改善
 収益性に議論を進めます。収益とは販売価格と生産費用との差額ですから、以上の生産性の改善が、収益性の改善に役立つことはもちろんですが、実は収益性の改善には、ほかの問題もあるのです。収益性では資本に対しての収益の大きさを問題にしています。収益率とも呼ばれます。
 なお収益性の改善を意味しているのに、「生産性」を上げろ!と表現されることがあります。おそらくですが、道徳的な意識が働いていて、儲けるということに私達には罪悪感があり、それがこうした言葉の混用になっているのだと思います。
    実際の現場では資本の大きさは動かせませんので、生産費用を下げる方法、販売価格を上げる方法(あるいは売上高)を探求することになります。
    確かに生産性の改善は、生産費用の改善につながり、収益率の改善につながるのですが。しかしほかの方法はないでしょうか。以下はすでに指摘されている議論で、そのいくつかはコスト削減だけでなく生産性の改善の議論と重なります。陳腐な指摘ですが、繰り返しをおそれず、丁寧に述べてゆきます。

 大量生産mass production。同じ生産設備で大量に生産すると、1単位当たりのコストは低下します。経済学では規模の経済性scale merit or economy of scaleとよんでいます。大量につくるには、製造品種を絞ることが有効です。これを少品種大量生産といいます。
   (大量生産と似ているが違うのは、共産主義社会で見られた集団作業です。集団で作業しても、一人一人の生産意欲が低下して生産性が低くなれば、全体としての生産性はかえって低下します。)
 なお、顧客ニーズに細かく対応するには、多品種少量生産multi product small volume productionの方が良いという考え方もあります。しかしもちろんコストは割高になります。顧客は割高でも、自分のニーズに合った商品を選ぶでしょう。
 しかし不況期にはあるいは低所得層には逆のニーズもあります。そこで製造コストを引き下げるために、つまり大量生産してコストを引き下げることを目的に品種を減らすことはしばしば起きています。

ZD運動、シックスシグマ   
 QC運動がアメリカで形を変えたとされるシックスシグマという品質改善活動の方が我々にもなじみがあります。これは百万分の3.4という不良品率で、つまりは不良品ゼロに近い品質改善をめざすというもの。日本でかつてZD(ゼロデフェクト)運動が掲げた目標と近いものでしょう。こちらは自発性に依存するのではなく、企業トップ自ら旗を振り、業務として取り組む活動を指しています。品質改善は自発性ではなく仕事であるべきで、このやり方の方が納得できます。
 企業は不良品の事後的チェックにコストをかけています。シックスシグマ運動が目指すものはそもそも不良品を出さない生産を目指すことで、事後的なこうしたコストを小さくし、顧客満足度もあげようとするものだと私は理解しています。シックスシグマとは(東芝ビジネスエクスパート)

SCM
 最初にSCM supply chain  mangementの議論の問題を考えます。SCMとは、生産―流通―販売のプロセスで、情報を共有することで、ムダを排除する議論でした。時間のムダ、在庫のムダなどを省き、生産から販売までのプロセスで、顧客にとって価値を作り出さないムダを排除する議論でした。これは生産の現場においてカンバンシステムで在庫のムダを排除する議論がありましたが、その発展型でもありました。
 そしてこれは在庫を圧縮しつつ、しかし必要な生産を適時に行なうjust-in-time:JITという生産方式につながるものであり、ムダをそぎ落としているという意味でそれをlean production sysytemともいうと教えたわけです。
 生産や流通の問題をコストの面からもう少し立ち入って考えます。

資材の選択の問題
 原材料や資材に汎用品を使うと、製造コストを下げることができます。汎用品general-purpose productsは一般に流通しているものを指します。それは例えばネットを通じて国際的に購入できるなど入手が容易で、また製造業者が多くて市場が競争的で低価格で購入しやすいものでもあります。
 特注品custom made  productsを使用すると、納入業者が固定され、生産ロットが少なければ汎用品に比べて高い資材を使うことになります。また、納入業者の事情による、納入中断といったリスクにさらされます。
 ここから言えることは使用資材はできるだけ、汎用品を使うということですが、そのためには設計の段階から、汎用品を使用する前提で設計する必要があります。

アウトソース化
   もしも生産コストが自社でやるより安いとなれば、外部に依頼して当然。労働コストが格段に低い、海外での生産ではこの問題が明確にでます。小さい会社の場合、あるいは大きな会社でも、自社の人員に適切でない業務は、外部に委託する方が専門的なサービスが受けられ、業務を効率化できる面があります。会社のなかで完結させようととする考えはinsource、外部に依存するものをoutsourceといいます。insourceに対応する日本語は自前主義です。では逆になぜinsourceにこだわることがあるのか。
 幾つか理由があります。外部からの調達に、とくに安定的に調達できるか不安であれば、外部調達には踏み切れません。内部調達は、社内でのアイデアや技術開発の成果を生かしたり、競争的ノウハウの秘密を保全するうえで有利です。内部調達を維持することで生産プロセスで生まれた成果を独占できます。
   business process outsourcing:BPOについて

販売する量を維持か拡大するための営業活動、宣伝活動など
 コストを下げる話と矛盾しますが、営業や宣伝に経費をかけることで、販売量、売上高が伸びる側面があります。

生産する商品について付加価値の引き上げ差別化differentiation
 使用する資材について、汎用品を使用するメリットを指摘しましたが、自ら生産する商品は、その一般商品化、日用品化commodity化を避ける必要があります。一般商品化したものは市場で類似品が多く、激しい競争にさらされています。値下がりリスクが激しいと考えられます。
 商品のデザイン、コンセプト、品質などで、自身は付加価値の高い商品を造り、ブランド化、差別化differentiationを図る必要があります。
 → 高付加価値をもつ新市場の創造と呼ばれるブルーオーシャン戦略 blue ocean startegy も関連用語としてみてください。

 物流は今業務が激しく変化している分野です。業務の効率化が強く求められています。貨物の輸送については、積載率を引き上げることが昔から課題です。倉庫・輸送いずれについても、人手不足もありますので、自動化が課題になっていることはよく知られています。以下項目を上げておきます。
       貨物の共有(共同配送)による積載率向上 
    倉庫・配送のロボット化
            倉庫内 自走式ロボットによる無人化
    RFID:ピッキングなどの自動化に役立つ
     在庫管理で活躍するRFIDとは ITトレンド2020/02/07
           →    How RFID gives retailrs the flexibility youtube2018/02/28
              非接触を実現するテクノロジー DiGITALIST2020/06/15
                  RFIDとICタグとを区別して説明しています。
     RFIDとICタグの違い 

 販売についてはEコマースへの移行という大きなトレンドが続いています(実店舗に比して販売コストは下がると思います。)実店舗が生き残るかどうか。生き残るとすればどういう店舗か。そこが問題です。
  Eコマース市場はまだ伸びる veritrans2020/04/23
  バリューイノベーション イケアのケース 
        コストコ成長の理由 ITmedeaビジネス2020/3/30
       コストコが女性に支持される理由 TTmedeaビジネス2020/07/21
    物販分野とサービス分野両方伸びてますがとくにサービス分野がのびています。旅行の申し込み、各種チケットの販売、飲食店の予約、理美容の予約、金融サービスなどですが一つずつの数字は開示されていません。Eコマース(BtoC)が既存の需要の代替をしているか、あるいは新たな市場を作っているのか、議論の余地があります。
    店舗販売は縮小へ 空き店舗増加
    百貨店 すでに多くの地方都市で消滅
     三越伊勢丹巨額赤字 百貨店という業態存続危機 BJ2020/08/05

 事務部門において、何度も反復せざるを得ない作業や、法律的に厳格な取り扱いが必要な作業などについては、同じ作業を何度でも疲れることなく正確に繰り返せるロボット(RPA)に任せることが適合的だと考えられています。先ほどリスクを伴うからの解放という意味で自動化の話しを考えました。単調な作業からの解放という意味でのロボット化については、単純労働から人間を解放する側面とともに、ヒトの雇用を奪うのではないかという議論も絶えません。自動化が様々な面で迫る中で、私たちは自身の生き方や先端技術への対応を日々迫られていることは間違いありません。
 技術とヒトとの関係については、ヒトの能力を拡張する側面についての研究が技術者によってかねて進められています。人間拡張といいます。生産性との関係は未開拓の領域ですが、これにも注目して置きたいと思います。
  RPAについて(NRI)
  人間拡張テクノロジー 日経XTREND2019/04/17
  人間拡張Augmented Human みずほ情報総研レポート2020


main page: https://note.mu/hiroshifukumitsu  マガジン数は20。「マガジン」に入り「もっと見る」をクリック。mail : fukumitu アットマークseijo.ac.jp