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陳独秀 民主主義の正しい評価 1940/07

《陳獨秀  給連根的信(1940年7月31日》載《蔡元培自述  實庵自傳》中華書局2015年pp.181-183  陳独秀という人の最晩年、民主主義がまず重要であることを主張して、当時のスターリン、ヒットラー、ムッソリーニの独裁体制を批判。また民主主義のない社会主義には、何の意味もないと喝破。レーニン=スターリンが掲げた無産階級民主主義は、党の独裁にほかならない点で、民主主義の内容がなく、空虚だと徹底的に批判している。こうした陳独秀の議論は、近年、陳独秀の議論が再検討される中で、中国大陸でも読み込まれて肯定的に評価されていることは十分注目されてよい(手元には以下がある。祝彦《陳獨秀思想評傳》福建人民出版社2010年pp.198-212,  任建樹《陳獨秀與近代中國》上海人民出版社2016年pp.184-188)。彼の立場は、英米を攻撃するトロッキー派ではないし、ソ連を擁護する当時の中国共産党でもない。むしろ、英米の民主主義の肯定、あらゆる独裁に反対する立場を鮮明にしている(写真は占春園傍の空き地にて)。
    陳独秀の議論はそれを評価した胡適(《胡適  陳獨秀最後論文和書信序》載《蔡元培自述  實庵自傳》中華書局2015年pp.161-173)の再評価にもつながる。資産階級民主主義評価を正しく評価すること、つまり民主主義が社会主義を語る前の前提という陳独秀の論点に、私は社会主義革命後の民主主義の回復を唱えた、顧准に比した陳独秀の思想的先行性を感じる。私は昔、顧准を初めて読んだとき、そして陳独秀を初めて読んだとき、新鮮な感動を今でも覚えている。と同時に、この二人の議論をよむと、この二人の指摘がこれだけ昔にありながら、中国の民主主義が依然進まないこと、現在も中国では国政普通選挙が行われていないことや共産党に反対する政党の存在が認められていないこと、これはいったいなぜなのかとも感ぜざるを得ない。
     参照 顧准 レーニンの誤り 1973
                胡適 反対党容認論 1946-48
                魯迅と胡適の政治観 2007

《陳獨秀  給連根的信(1940年7月31日》載《蔡元培自述  實庵自傳》中華書局2015年pp.181-183
p.181 
  皆さんの意見の一致は、私はすべて見ているところで、力を使って早く簡単に数語で返すことはできない。皆さんが誤っている理由は、第一に資産階級民主政治の真実の価値を理解していないことにある(レーニン、トロッキー以下皆同じだが)。(すなわち)民主政治をただ資産階級の統治方式を担うものとして、偽善、欺瞞であるとして、民主政治の真実の内容を理解しないことにある。司法(法院)以外の機関には人を逮捕する権利がないこと、参政権がなければ納税しないこと、議会が可決しなければ政府に徴税権はないこと、農民は耕す土地の権利を保有すること、思想宗教の自由などなど。これはすべて大衆が求めているところであり、また十三世紀以来、大衆の流血の闘争七百年により、今日得られたところの”資産階級の民主政治”であり、これはまさにロシア、イタリア、ドイツがひっくり返したところのものだ。いわゆる”無産階級の民主政治”と資産階級の民主はただ実施範囲の広狭が違うだけで、内容上は別に無階級民主があるのではない(両者の内容は同じだ 訳者挿入)。(一九一七年)十月以来、(あなた方は)”無産階級民主”この内容がない(空洞)の抽象名詞を武器にして、資産階級の実際民主を打ち壊し、あまつさえ今日の
p.182   スターリン統治のソ連をもたらした。イタリア、ドイツについては、なお続けて学ぶべき話しがある。現在あなた方はこの空っぽの名詞を武器にして、ヒットラーによる英米の資産階級民主に攻撃に加担しているのだ。(中略)
 大戦がはじまって以来、重慶の《新華日報》(中国共産党の機関紙 訳者挿入)は、レーニンの第一次大戦時の理論を根拠に
p.183  大声で叫んでいる、イギリスやフランスなどの資産階級の国家の虚偽を指弾し、帝国主義間の戦争に反対し、双方ともに侵略の強盗だと言って。実際にはこのような言葉は暗にヒットラーに加担している。私は仔細にあなた方の書簡を読んだ。思想上罵る以外の内容はなく(死狗无二)、言葉の多くは似通っている。最近《破晓》を読んだ(《破晓》は1939年10月に上海で出版されたトロッキー派の雑誌。なお1940年4月には《西流》が出されている。 訳者注)。この小冊子(《破晓》は当然トロッキーの意見を根拠にしている)は、ファシズムは放っておいて、もっぱらイギリスとアメリカを攻撃、かつソ連討伐を弁護している。このようであって、スターリンのためにヒットラーが義勇宣伝をする。(あなた方の)態度はなお明白ではないだろうか。それでも(あなた方は)なお双方いずれにも加担しないというのだろうか?「民主国の英、米に反対する」「ファシズムを攻撃しない」「ソ連を擁護する」この三つの政治綱領が一緒になるなら、第三インター、第四インターは合併すべきであろう。同様にあなた方が今後スターリンにもう一度反対するなら、それは政治の原則は無関係の私人の権力争いである。スターリンの手中に軍事警察,法庭など国家統治機関が掌握されていることを忘れて、誰が空中のソ連を擁護しに来れるだろうか。皆さんの意見を変えることはむつかしく妥協もむつかしいが。ただ問題は時間である。もしあなた方が希望するように(また《破晓》の著者の希望もそうだが)民主国アメリカでさえ失敗し、トロッキーがメキシコに住むことさえできなくなれば、そのとき妥協することがない出口はどこにあるというのだろうか!

#陳独秀 #民主主義 #レーニン #トロッキー #胡適 #顧准
#占春園

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