マガジンのカバー画像

中国経済学史

195
運営しているクリエイター

2019年11月の記事一覧

農業は大寨に学べ 1964

(劉小榮《1966-1977年的天津》中共黨史出版社·2011年 pp.93-117, esp.93-97, 115-117   写真は東京タワー 2019年11月8日朝)   大寨(ダーチャイ)は山西省昔陽県城東南虎頭山下の小さな農村である。抗日戦争当時、この一帯は中国共産党が指導する抗日根拠地であった。1945年8月、抗戦に勝利するとともに、この地区も生まれ変わった。中華人民共和国が成立したとき、この村には約800ムー(畝)の耕地、64戸の人家、190人余りの人口があっ

鄢一龍 他共著「大道之行」2015

 正式のタイトルは「大道之行 中国共産党與中国社会主義」中国人民大学出版社、2015年。  私は中国に行くと書店に寄って、あまり人がいない共産党系の本がならべてある一角を物色する。この本もそうして購入した本の一つ。若い共産党員の人たちが共産党や共産党員のありかたについて書いたものだが、決して、党組織のお墨付きを得たというものではないように思える。内容は、共産党はこのように変わらなければならない、このように政治はあるべきだという熱い主張である。ただこうした党内若手から提言が行わ

初級段階=原蓄過程説 関志雄『中国経済のジレンマ』2005

正式のタイトルは『中国経済のジレンマー資本主義の道』筑摩書房2005年。(写真はニコライ堂あるいは東京復活大聖堂 2019年11月3日) 手元のこの本を今回読み直して、このようにこの本の内容はこのように言えると思ったのは、社会主義初級段階=資本の原始的蓄積段階という考え方を明確に打ち出したp.31本という位置付けである。なおこの考え方はpp.203-206でより詳しく説明されている(なおこの点で何清漣との関係も気になるところだ。)。また民営化の進行についてもかなり詳しく述べら

企業の成長と金融制度

    今井・渡邉『企業の成長と金融制度』2006。正式には、今井健一・渡邉真理子『シリーズ現代中国経済 企業の成長と金融制度』名古屋大学出版会2006年。この本の良い点は、実証的な事実とともに理論的な枠組みが書きこまれていることだ。理論と実証の組み合わせ、なので勉強になるし、おもしろい。(写真は東京ドームホテル 撮影2019年10月31日 丹下健三都市建築設計研究所 清水竹中大成JV 2000年4月竣工 地下3階地上43階 高さ155m) p.25  1993年に制定され

今井・渡邊「民営化の是非」2008/2013

以下の3つを取り上げる。  ①今井健一「企業所有の収斂:民営化への道」今井健一・渡邊真理子『企業の成長と金融制度』名古屋大学出版会2006年、122-149所収  ②今井健一「国有企業改革 民営化の是非」関志雄 朱建栄編『中国の経済大論争』勁草書房2008年、30-55所収     ③渡邊真理子「論争ー国有経済の堅持か、民営化か」加藤弘之・渡邊真理子・大橋英夫『21世紀の中国 経済篇』朝日新聞出版2013年、91-100所収 (写真は丸の内線後楽園駅に入線する池袋行き02系車

分業が前提、垂直分裂的-地方政府の投資促進 大橋英夫・丸川知雄『中国企業のルネサンス』2009

正式タイトルは「叢書中国企業問題群6 中国企業のルネサンス」岩波書店2009年である。フィールドワークに強いお二人の共著から学べることは多い(写真は文京区小石川3丁目界隈 2019年10月30日)。 最初に、政策目標を実現する手段として、また財政収入源として国有企業を作ろうとする志向性は、清朝以来以来連綿と続く伝統だという指摘にはっとする。p.41 これは岡本隆司もいっていたな。⇒岡本隆司『近代中国史』2013 つぎにソ連モデルの国有企業が独占と垂直統合を特徴とするのに、

赤い資本主義 2011

元はCarl E.Walter and Fraser J.T.Howie, Red Capitalism The Fragile Financial Foundation of China's Extraordinary Rise, John Wiley & Sons, 2011でその中国語訳は陣儀,林詠心譯《中國金融大揭秘 異常崛起的大銀行真相》臉譜出版2013年(写真は名古屋HAL 2019年11月17日夕刻) p.21  朱鎔基によって行われた金融改革に関して驚くべき

コース 王寧『中国はいかに資本主義になったか』2012

Ronald Coase and Ning Wang, How China Became Capitalist, Palgrave Macmillan  2012(ロナルド・コース 王寧共著 栗原百代訳『中国共産党と資本主義』日経BP社 2013)現代中国経済史のすでに古典といってよい。繰り返し読んでそのたびに、発見がある。以下、気になる箇所を(栗原訳は大変こなれているが、訳せるところは私の訳で)引用する。 p.5  訳pp.30-31 中央計画の固有の致命的欠陥は、社会の