企業の成長と金融制度
今井・渡邉『企業の成長と金融制度』2006。正式には、今井健一・渡邉真理子『シリーズ現代中国経済 企業の成長と金融制度』名古屋大学出版会2006年。この本の良い点は、実証的な事実とともに理論的な枠組みが書きこまれていることだ。理論と実証の組み合わせ、なので勉強になるし、おもしろい。(写真は東京ドームホテル 撮影2019年10月31日 丹下健三都市建築設計研究所 清水竹中大成JV 2000年4月竣工 地下3階地上43階 高さ155m)
p.25 1993年に制定された会社法は・・・企業形態と出資者の属性を切り離して資本の移転を可能にした。・・・会社法企業への転換は必ずしも私有化をいみしない・・・一定規模以上の国有企業が有限会社や株式会社に転換する場合、通常は国有資本が筆頭株主としての地位を保持する
pp.35-37 (国有企業の非効率の要因を以下の4点に整理している
1) 経営自主権とインセンティブの不足・・・必要な意思決定権が与えられていないなど
2)ソフトな予算制約soft budget constraint ・・・寛大な措置で救済されると、経営者や従業員は経営効率に注意を払わなくなる
3) 政策的任務の負担 収益追求以外の政策的目標設定 ⇒ ソフトな予算制約 経営自主権の制約 効率化の否定 につながる
4)公的所有の非効率性 持ち分譲渡が自由でない 共有で自由に売却できない ⇒ 経営能力意欲のある主体に持ち分が集中しない
これに対し 中国は公的所有が私的所有と同等の効率性を達成できると考えている。)
pp.39-40 1990年代初めまでの国有企業改革は、国家の資本所有という枠組みには手を付けないまま、企業に十分な経営自主権を与え、同時に給与・ボーナスなどの分配に業績を反映させることによって、経営を活性化させることに重点を置いた。
p.40 生産・販売・流通に関しては1980年代半ばから徐々に企業への権限付与が進み、1990年代半ばまでの大多数の企業に普及した。内部留保の使用や給与・ボーナスの配分も、この時期に過半の企業に与えられている。一方。投資や資産処分、合併など資産に関わる決定権や採用・解雇に関する権限の付与は、1990年代後半に持ち越される。
p.41 (請負経営責任制は)1980年代後半に大多数の国有企業に普及し、1993年末の税制改革まで、政府・企業間関係を律する主要なメカニズムとして機能した。
国有企業改革の限界として 以下はpp.43-45をまとめたもの
1)予算制約の「不完全」なハード化 請負制目標未達成の場合,ペネルティが厳格に適用されない傾向があった 契約や融資による制約が弱く 経営者は債務支払いより投資拡大や賃金支払いを優先する傾向があった
2)政府と企業の結合 投資抑制に対する地方政府の関心は弱く、幹部の人事評価で経済成長の実績が重視されるため、むしろ投資拡大の意図が働き。加えて国有銀行の地方支店は地方政府の強い影響下にあって、政府が銀行から融資を引き出すことができた。中央政府も雇用問題を避けるため最後は緩和に転じた。・・・地方政府は強く規制する理由をもたず、国有企業の過剰投資・過剰分配(も改まらない)
そこで会社制度を導入して近代企業制度を整備して制度改革を進めることになった。以下はpp.47-48から。
1) 所有と経営を分離して 経営権を拡大するとともに出資者(政府)による監督を強化する
2) 政府以外の外部株主の出資受け入れることで経営に対する監督を強化する
3)株式公開発行による資金調達に道を開き、企業の過剰債務問題を緩和する
この結果は1990年代後半には会社化が進展するが、ただこの時点では非流通株が大きい(株式市場を通じた経営メカニズムの機能が働かない)こともあるが、会社化による明確な効率化の進展は確認されていない。むしろ平均的資本効率の低下が上場企業に関しては確認されたとしている。pp.51, 71, 73
なお本書の後半は金融であるが、ここでは企業金融の分析が行われていて興味深い。もともと社会主義経済制度のもとで企業は必要資金を政府から供給され、利潤は政府に納入していた。そのため(資金を効率的に使うという考え方はなかなか定着せず)、内部資金と外部資金を企業が自律的に管理する(考え方もそもそもなかったのではないだろうか。福光挿入)pp.187-190
そこで最初に行われた改革が、政府が無償で行っていた資金供給を有償の貸し付けに転換する撥改貸と呼ばれる政策(1979年に試行され1985年に全国化)。しかし自己資本の役割を考慮せず、投資の決定権を政府がなお維持していた当時。このことが(負債の効率化にすぐつながったかは疑わしい。福光)
もう一つ行われたことがすでに述べた請負責任制であるが、企業は利益は自分のものにするが、赤字の責任は政府に押し付ける行動をとったとされる。
こうした時期を経て。1994年の現代企業メカニズム導入、会社化の進展により(中国の企業制度は)市場経済の会計制度に沿ったものに改正された。
なお中国企業の資金調達構造を分析したうえで内部資金、内部蓄積の低かたことを特徴として指摘。その要因を4つ挙げている pp.193-194
1)重い国家への貢献(利潤の多くを国家に納入していたこと)
2)減価償却費(も多くを国家に納入していたこと)
3)政策的に銀行借入が引き上げられ利子支払いが拡大したこと
4)賃金が拡大したこと
(なおこの問題は中国企業の財務的脆弱性問題につながるように思える)
以上のほか、いわゆる金融抑圧論financial repression:金融の資源配分機能を殺して政策的に資金配分をするやり方と、区別して金融抑制論financial restraint:金融市場を抑制するという視点から金融市場を規制を課すものとして紹介している。pp.229, 235-237 なおp.13参照
#金融抑制論 #金融抑圧論 #内部資金 #ソフトな予算制約
#国有企業 #東京ドームホテル
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