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長崎きまぐれ案内その11 ー軍艦島

長崎出身の作家吉田修一さんの短編小説「キャンセルされた街の案内」を読んだ。

舞台の一つが長崎の軍艦島だ。

軍艦島を初めて耳にしたのは学生時代でもう30年以上前になる。予備校時代からの友人が軍艦島に数人で戦争ごっこをしに行った話を聞いた。2手に分かれた戦闘服姿の数人が空気銃だったか何かで互いに挑む。そんな話だったろうか。地元の漁師に頼んで舟を出してもらい2日か3日過ごしたと言う。用意した食料が見込み違いで少なくて途中からお腹を空かせて帰りの舟が来るまで大変だったということを聞いた。なんだか野性的(?)な遊びの様でへぇ〜と感心しながら見せてくれた写真に見入ってしまった。ビルの廃墟が並んでいる。日本にこんなところがあったのか。初めて見る廃墟の空間にはかつて人が住んでいた跡がなまなましく残っておりまるで島の人達が一斉に夜逃げでもしたかのように思えた。どこか遠い異国の土地で撮られた写真の様で日本国内のどこかにこんなところがあるとはにわかに信じられなかったことを覚えている。

近年はこの軍艦島―正式名称は端島―は観光地となり周遊クルーズが盛んに行われている。実際に上陸しても足を踏み入れることが出来るエリアは島のごく一部で廃墟となった建物の中には入れない。しかし、かつてこの島が炭鉱として栄え黒いダイヤを出炭し当時の貴重な燃料として供給された時代を感じさせるには十分なツアーだろう。

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炭鉱としての施設を見たければ池島炭鉱が良い。北海道の炭鉱に次いで最後から2番目に閉山した炭鉱であり逆に比較的新しい炭鉱だから地中奥深くまでトロッコで入ることが出来る。確か以前NHKのタモリの番組「ブラタモリ」でも紹介されていた。この辺りも平成の大合併で長崎市に併合された。長崎市内であるが中心地からは結構遠い。

軍艦島に話を戻す。長崎市中心辺りから南に下って野母崎へ車を走らせると西に軍艦島が見えてくる。長崎港の入り口に位置する伊王島を別にすれば野母崎辺りから見える大きな島は高島でここも炭鉱の島だったが今でも人は住んでいる。日々市内への船が行き来しており通学の生徒も長崎湾まで来たら大波止で降りる。その高島の更に南に位置するのが軍艦島だ。その名の通り遠目からも軍艦に見える。周囲を囲んだ防波堤が船のデッキに見えて更に高くそびえ立つビル群が角張っていて確かに砲塔や何かを載せた軍艦に見える。

かつて栄えた炭鉱の島の名残が今観光資源として活用されているのを見るのは何か複雑な気持ちになる。廃墟の空間の何が人を魅了するのだろう。

因みに、長崎市内の中心地でもこの炭鉱の名残を見ることが出来る。長崎駅南側の五島町から大波止に向かい路面電車が走る大通りの一筋に海側に出炭された石炭を運ぶ単線の線路の跡が小道となって残っている。狭い小道なので遊歩道となっていて歩きやすい。その延長上に臨港鉄道跡として中島川沿いの大波止橋を渡ったところに鉄道の車輪が記念碑の如く置かれている。この辺りはおくんちの時には屋台が並ぶ場所でもある。

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