天ぷら不眠 #毎週ショートショートnote
和食の職人になって20年。
たいていのものは上手く作れる。
だが、天ぷらだけは満足のいく出来にならない。
それを客に出している自分が許せない。
最近は眠れないほど悩むようになっていた。
尊敬する天ぷら職人に恥を忍んでコツを聞いてみた。
「どんなものでもそうだけどタイミングが大事だ」
そうなのだ。
天ぷらは油から上げるタイミングが重要なのだ。
同じ素材で作るなら、違いはそこしかないはずだ。
私は油から上げるベストタイミングを追求した。
パチパチパチパチ。
ちょっと早いか。
パチパチパチパチパチパチ。
ちょっと遅い。
パチパチパチパチパチ。
え!旨くない!なんでだ!クソ!!
私は調理台を右の拳で思いっきり叩いた。
ドン!
ガンッ!
◇
(町中華のテレビの音)
「今日未明、和食屋でボヤがありました。助け出された店主は無事。天ぷらを揚げていたところ、金タライが落ちてきて頭に当たり気を失った模様。
店主は『久しぶりによく寝た』とスッキリした顔で話しているそうです」
(410文字)
※こちらの企画に参加させていただきました
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