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詩と暮らす鹿 #シロクマ文芸部

詩と暮らす鹿がいました。
鹿のそばで暮らしている鳥が詩をさえずるのです。

寒いだろ
こんなに風が吹いたら
寒いだろ

いや、
平気だろ
鹿のお前は
平気だろ

平気だよ
鳥の私も
平気だよ

鹿のお前とおんなじで
鳥の私はよかったよ

鹿は鳥が詩を囀るのをただ聞いてるだけで、何も言いませんでした。

パン!

ある日、詩を囀る鳥は猟師に鉄砲で撃たれてしまいました。鹿は何も言いませんでしたが、少し怒ったような顔をしていました。

その日を境に、鹿は詩を詠むようになりました。

いないのか
詩の鳥はもう
いないのか

知っている
いないのはもう
知っている

聞いている
聞こえないけど
聞いている

鳥のお前が囀る詩を
鹿の私は思い出して聞く

数ヶ月が経ち。
馬がやってきて鹿のそばで暮らすようになりました。
馬は鹿の詩が気に入ったのです。
鹿は詩を聞いてくれる相手ができて喜びました。

馬と鹿が仲良く暮らしているのを見た猟師がくだらないことを言いましたが、馬と鹿は意に介しませんでした。詩と暮らせない馬鹿の言うことなど聞こえなかったのです。

猟師が家に帰ろうと背を向けると、鹿の詩が好きな馬は猛然と駆け出し、猟師を後ろ足で蹴り飛ばしました。

聞こえているか
詩の鳥よ
聞こえているか

私にはいま
馬がいる
私の詩を聞く
馬がいる

お前が私に聞かせてくれた
お前の詩を
私の馬にも聞かせたい

だけど私は鹿だから
お前のように囀ることはできない

ああ、
私がいつも聞いている
お前の詩を
私の馬に聞かせたいのに

鹿は深く嘆いていましたが、馬は満足していました。鹿のそばで、詩と暮らせればそれでよかったのです。

(641文字)


※シロクマ文芸部に参加しています

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