風鈴と玉子焼き #シロクマ文芸部
風鈴と兄が連れてきた女性の素っ頓狂な声が重なった。
「玉子焼きにマヨネーズ入れないんですか?」
「うん、ウチじゃ入れないねぇ」
母が馬鹿正直に返事する。
「えー健くん、マヨネーズ入れないと怒るじゃんね?」
困ったように兄を見る女性。
「べ、別に怒らないけどな、俺」
なぜか弁明する兄。
「怒るよー、機嫌悪くなるじゃん」
納得いかない様子の女性。
もう見ていられない。
私は女性の玉子焼きの横にマヨネーズを添えてやった。
「マヨネーズに付けて食べても美味しいよ」
女性は恐る恐るといった感じでマヨネーズを付けて玉子焼きを食べた。
「あ、美味しい。健くんも食べてみな」
「いや、俺、実家ではいつも付けて食べてるし」
馬鹿な兄が言わなくていいことを言った。
「え、そうなの?言ってよ、私、マヨネーズ入れちゃってたじゃん」
馬鹿な兄と付き合ってる女性が文句を言った。
「それはそれで俺は旨いと思うよ」
「そーだよねー」
「リン」と風鈴がいい音で鳴った。
「お前達、続きは家に帰ってからやれよ」と言っているように、私には思えた。
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※シロクマ文芸部に参加させていただきました
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