花冷え全員集合 #毎週ショートショートnote
「お父さん、今日なんか寒いね。桜も咲いたのに」
三女の夏子が帰ってきた。
高校生にもなれば父親となんか話したくもないだろうに、毎日何かしら声をかけてくれる。
「花冷えっていうらしいぞ。風邪引くなよ」
「何それ、知らない」
「俺も今日知ったよ」
「なーんだ」
呼び鈴が鳴った。
玄関のドアを開けると、長男の春生が立っていた。今年の春から大学生で一人暮らしをしている。
「なんだ、何しに帰ってきた?」
「ひどいな。寂しがってるかなと思ってちょっと寄ってみたんだよ」
「夏子がいるから大丈夫だ」
「ひどいな、マジで」
家の前で車が止まる音がした。
「お父さん、帰って来ちゃった」
長女の冬美だった。東北の農家に嫁いで三年になる。
「お前、どうした?」
「聞かないで」
「ははは、全員集合だな」
春生が言うと、夏子が即座に反応した。
「全員じゃないし」
その時、どこからかヒンヤリとした空気が流れ込んできた。思わず仏壇を見ると、写真の中の千秋が少し微笑んだように見えた。
(410文字)
※こちらの企画に参加させていただきました
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