海のピ #毎週ショートショートnote
暇だったので数年前まで海だったところに行ってみた。
ある日、そこは海じゃなくなったのだ。海水がなくなり、たこ焼き器の型みたいな巨大な穴がぽっかり空いて、そこから黒くて深い溝が遠くまで続いている。原因はよくわかっていないらしい。
その巨大な穴の奥底をじっと見つめていると、空飛ぶ何かがグングン目の前に迫ってきて、あっという間に目の前に降り立った。
全身白タイツで顔も真っ白。白粉を塗っているわけではなさそうだ。
「あの……何か?」
目の前でじっとしているので話しかけてみた。ソイツは巨大な穴を指差して言った。
「ピ」
すると、みるみる海水で穴が満たされて海になった。
「おお!ありがとうございます!!」
思わずお礼を言ってしまったが、ソイツは反応せず、無表情だった。やがて、また海を指差して言った。
「ピ」
え?
みるみる海水がなくなっていく。
「ちょっと!」
俺の事など眼中にないようだ。
ソイツは満足そうな笑みを浮かべると、穴の奥底に帰って行った。
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※こちらの企画に参加させていただきました
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