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コロナワクチン接種後の心筋炎および心膜炎の年齢および性別による危険度: Nature Communicationsに掲載された論文から

コロナワクチン接種後に胸の痛みを訴える人がおられます。胸の痛みに加えて息苦しさがあるならば、肺の血栓が原因かもしれません。あるいは、心臓が原因となる心筋炎や心膜炎のためかもしれません。心臓自体は痛みを感じませんが、周辺の筋肉や組織から痛みを感じる事があります。

脊椎動物の血管は動脈と静脈、そして動脈と静脈の間をつなぐ毛細血管から構成されます。血液循環系の中枢器官であり、血液循環の原動力となるのが心臓です。コロナワクチンが産生するスパイクタンパクは血管を損傷する事が分かっていますが、血流を循環して心臓を通過する際には心臓を攻撃する可能性があります。

心筋は心臓を構成する筋肉であり、心膜は心臓を包む結合組織性の膜です。心筋炎、心膜炎はこれらの炎症性疾患です。「心臓癌」という言葉をめったに聞く事がないように、心臓の癌は本来非常に稀です。それは心臓を構成する心筋の細胞は増殖をしない細胞だからです。マウスの実験レベルでは例外も見つかっているのですが、基本的に大人の心筋細胞は増殖しません。そのため、一度損傷した心筋は回復するのが難しいのです。

フランスにおけるコロナワクチン接種後の心筋炎及び心膜炎の後ろ向きコホート研究を紹介します。多くのコホート研究ではワクチン接種後の二週間ほどの期間を「未接種」として扱い、ワクチン接種直後のいわゆる「魔の二週間」の副反応を未接種者の病気扱いとしています。これに対し、この研究では珍しくコロナワクチン接種後一週間とそれ以後の期間を区別して統計解析しています。そのためワクチン接種後の一週間、つまり「魔の一週間」の間に何が起こっているかを公正に知る事ができます。

Covid-19メッセンジャーRNAワクチン接種後の心筋炎および心膜炎の年齢および性別による危険度
Age and sex-specific risks of myocarditis and pericarditis following Covid-19 messenger RNA vaccines
Vu et al. (2022) Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-022-31401-5

Covid-19 mRNAワクチンの接種後に心筋炎および心膜炎を発症した症例が報告されている。ワクチン接種キャンペーンはまだ拡大していないため、ワクチン別、性・年齢層別の関連性を包括的に評価する事を目指した。全国の病院退院データとワクチンデータを用いて、2021年5月12日から2021年10月31日までの期間にフランスで発生した心筋炎1612例と心膜炎1613例の全てを分析した。マッチドケースコントロール研究を行い、ワクチン接種後1週間、特に2回目の接種後に心筋炎と心膜炎のリスクが上昇し、心筋炎の調整オッズ比はBNT162b2ワクチンで8.1 (95%信頼区間[CI]、6.7~9.9)、mRNA-1273ワクチンで30 (95% CI、21~43) であった事を見いだした。mRNA-1273ワクチン接種後の心筋炎については、18~24歳において最も大きな関連が観察された。ワクチン接種に起因する過剰症例の推定では、他の年齢層や男女ともに心筋炎と心膜炎の両方がかなりの負担になっている事も明らかになった。

フランスにおけるコロナワクチン接種は、2020年後半に始まりました。当初は高齢者や弱者、医療従事者に限定されていましたが、2021年5月12日からは18歳以上、6月15日からは12歳以上の全人口に接種が開放されました。それから2021年10月31日までの間に、12歳から50歳の人口3200万人の中で、ファイザーワクチンの初回接種2120万回 (2回目1930万回)、モデルナワクチンの初回接種286万回 (2回目258万回) が行われました。

2021年10月31日の時点で、フランスでは約5000万人 (対象者の88%、つまり12歳以上) が2回接種を受けた事になります。同期間にフランスでは、心筋炎1612例 (うち87例 [5.4%] は関連診断として心膜炎もあった) と心膜炎1613例 (37例 [2.3%] は関連診断として心筋炎があった) が記録されています。これらの症例をそれぞれ16120人および16130人の対照者とマッチングさせました。

この研究の目的は、フランスの全国的な退院データとワクチンデータを用いて、ファイザーとモデルナのmRNAコロナワクチンと心筋炎および心膜炎のリスクとの年齢および性別に応じた関連性を推定する事です。このコホート研究はワクチン接種の1~7日後、及び8~21日後を対象としています。ワクチン接種後の短期間に注目している事がこの研究の重要なポイントです。

オッズ比とは、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す統計学的な尺度です。オッズは確率論で確率を示す数値であり、臨床試験の結果を示す方法としてよく用いられます。もともとオッズはギャンブルなどで見込みを示す方法として使われており、失敗b回に対して成功a回の割合の時に比 a/bとして定義されました。このように、オッズはある事象の起こる確率 pと起こらない確率 1-pとの比 (p/(1-p))を意味します。オッズ同士の比がオッズ比です。

いずれのワクチンも、接種後7日間で心筋炎および心膜炎のリスクが上昇しました。リスクの上昇は2回目接種後に顕著です。

心筋炎のリスクは、男女ともにワクチン接種後1週間以内に大幅に増加しました (図1)。モデルナワクチンの2回目の接種に関連するオッズ比は一貫して最も高く、18歳から24歳の男性と女性ではそれぞれ44 (95%CI、22〜88) および41 (95%CI、12〜140) でしたが、それ以上の年齢層でも高いままでした。ファイザーワクチンの2回目の接種のオッズ比は12~17歳の男女ではそれぞれ18 (95%CI、9~35) および7.1 (95%CI、1.5~33) でしたが、年齢とともに減少する傾向がありました。

心膜炎のリスクは、男女ともmRNAワクチンの2回目投与後の最初の1週間でも増加していました (図2)。ファイザーワクチンの2回目の接種のオッズ比は、12歳から17歳の男女でそれぞれ6.8 (95%CI、2.3〜20) および10 (95%CI、2.5〜41) でした。年齢と共に低下傾向があります。

図3は性・年齢別に推定されたワクチンに起因する過剰症例数です。12歳から17歳の思春期男子に投与した10万回当たりの心筋炎の過剰症例数は、ファイザーワクチンの2回目投与で1.9 (95%CI、1.4〜2.6)、18歳から24歳の若年成人ではファイザーワクチンの2回目で4.7 (95%CI、3.8〜5.8)、モデルナワクチンの2回目で17 (95%CI、13〜23) に達しました (図3)。これは、12-17歳の間ではファイザーワクチンの2回目の接種52300 (95%CI、38200〜74100) あたり1例のワクチン関連心筋炎に、18-24歳の間ではファイザーワクチンの2回目の接種21100 (95%CI、17400〜26000) およびモデルナワクチンの2回目の接種5900 (95%CI、4400〜8000) となります。

過剰症例の推定値は、若い年齢層で比較的に高くなっています。18歳から24歳の女性では、10万回接種あたりの心筋炎過剰症例数の推定値は0.63 (95%CI、0.34〜1.1) に達し、ファイザーワクチンの2回目投与では159000 [95%CI、90800〜294400] 回につき1例、モデルナワクチンの2回目投与では5.3 [95%CI、3.0〜9.1] 回につき1例 (18700 [95%CI、11000〜33400] 回に対応) でした。

退院後30日間の追跡調査により、心筋炎例では4例 (0.24%)、心膜炎例では5例 (0.31%) の死亡が報告されています。そのうち、心筋炎で3名、心膜炎で2名が入院中に死亡しています。

この研究で、ファイザー及びモデルナのmRNAワクチンの接種が、接種後1週間以内の心筋炎および心膜炎のリスク上昇と関連している事が分かりました。この関連性は男性、女性ともに2回目の接種後に特に顕著であり、また、若年層ほどリスクが高い傾向が認められました。30歳以上の男性ではワクチン接種後に心筋炎を、30歳以上の女性では心膜炎を発症する有意なリスクがあり、ワクチン接種後の急性心筋炎のリスクが若い男性における心筋炎に限定されない事も分かりました。

第一に、これらの症状はコロナや他の呼吸器系ウイルスが流行していない時期でも、ワクチン接種と心筋炎および心膜炎発症が見られました。第二に、ワクチン接種から入院までの経過時間は短く、第三に、ほとんどの場合、曝露後7日目以降には関連が見られませんでした。第四に、特に2回目のワクチン接種は心筋炎、心膜炎のリスク上昇と関連していました。これらの要因が本研究におけるコロナワクチン接種と心筋炎および心膜炎のリスクとの因果関係の仮説を支持する理由です。

しかしながら、この研究にはいくつかの限界があります。第一に、この研究に含まれる症例は入院に関連した診断コードに基づいてのみ同定されているため、入院を必要としない無症状あるいは軽症の心筋炎や心膜炎は統計に含まれません。第二に、潜在的な長期的影響については調査できていません。第三に、コロナブースターワクチン接種は調査の対象となっていません。

結論として、本研究は、男女ともにmRNAワクチンによるコロナワクチン接種後の1週間、特にモデルナワクチン2回目の接種後に心筋炎および心膜炎のリスクが増加するという強い証拠を提示するものです。今後、長期間の観察に基づいて、ワクチンの増量に関連するリスクを調査し、これらのワクチン接種後の急性炎症の長期的な影響を監視する事が必要でしょう。

心筋炎は、多くは風邪様の症状や消化器症状などの前駆症状を伴いますが、自覚症状が無い場合もあります。前駆症状の1〜2週間後に、胸痛、心不全症状、ショック、不整脈などの症状を呈します。心筋炎は特徴的な所見に乏しい疾患ですので、本人も心筋炎の発症に気付かない可能性があります。実際にコロナワクチン接種者の心筋炎として統計に表れているのは氷山の一角ではないでしょうか。

繰り返しますが、この研究の重要な点は、ワクチン接種後直後から1週間までの統計を観察している事です。以前紹介したコホート研究でもワクチン接種後2週間までの期間が未接種扱いになっていました。実際、この「魔の二週間」の期間にはワクチン接種による短期の副反応が集中します。もしこの研究も「魔の二週間」を未接種扱いにしていたら、ワクチン未接種者が謎の心筋炎発症をし、未接種の方がワクチン接種者よりも心筋炎を多く発症という結論になるのではないでしょうかそうした場合、ワクチン接種者を未接種に含めるトリックを使った悪質な詐欺とも受け止められます。




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