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コロナワクチンと急性肺塞栓症: J Clin Medに掲載された論文から

コロナワクチン接種後に胸の痛みを訴える人が居られます。コロナワクチンの後遺症として心臓が原因の心筋炎や心膜炎が分かってきましたが、胸の痛みに加えて息苦しさがあるならば、あるいは肺が原因かもしれません。

肺血栓塞栓症は、身体の血流によって体内から運ばれてきた血栓によって肺動脈が閉塞する疾患です。多くの場合、血栓の全部または一部が、血流に乗って下大静脈・右心房・右心室を経由し、肺へ流れつき、肺動脈が詰まると肺塞栓症となります。肺動脈が詰まるとその先の肺胞には血液が流れず、ガス交換ができなくなり、その結果、換気血流不均衡が生じ動脈血中の酸素分圧が急激に低下、呼吸困難と脈拍数の上昇が起きます。典型的な症状としては、息苦しさや息を吸うときの鋭い痛みです。

肺血栓塞栓症 (Pulmonary embolism: PE) と深部静脈血栓症 (Deep vein thrombosis: DVT) を併せて、静脈血栓塞栓症 (Venous thrombosis: VTE) と呼びます。DVTは、下肢や上腕その他の静脈 (大腿静脈など) において血栓が生じ、静脈での狭窄・閉塞・炎症が生ずる疾患です。自覚症状が無い事も多く、飛行機内などで長時間同じ姿勢を取り続ける事をきっかけにして発症する事例がよく知られており、エコノミークラス症候群やロングフライト血栓症と呼ばれる事もあります。

肺塞栓症は、深部静脈血栓症と関連している事が多く、単独ではあまりみられません。血栓のリスクは、がん、長期安静、喫煙、脳梗塞、特定の遺伝的要因、妊娠、肥満などによって増加します。コロナ感染は高凝固性疾患であり、血栓塞栓症のリスク上昇と関連しています。コロナワクチンのスパイクタンパクも血栓の原因となり、肺塞栓症の危険因子となります。以下は、コロナワクチン接種後の非誘発性PEについての症例報告の2例です。          

Isolated pulmonary embolism following COVID vaccination: 2 case reports and a review of post-acute pulmonary embolism complications and follow-up
Ifeanyi et al. (2021) J Community Hosp Intern Med Perspect.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8604520/

COVIDワクチン接種後の孤立性肺塞栓症:急性肺塞栓症後の合併症と経過観察についての2つの症例報告と再考

急性肺塞栓症 (PE) は低酸素性呼吸不全を起こし、救急外来を受診する原因となる事が多い。COVID-19の大流行以来、その発生率は増加傾向にある。COVID感染は血栓促進状態を示すが、COVIDワクチンの導入により、誘発性のない静脈血栓形成のリスクが高まり、肺塞栓症のリスクも増加した。PEは、ほとんどが深部静脈血栓症 (DVT) と関連しており、文献上では孤立性またはDe novo PEは数例しか存在しない。今回、COVID-19の接種に伴い単独でPEを発症した2例を報告する。COVID-19ワクチン接種後数日から数週間後に低酸素性呼吸不全を呈した患者において、孤立性PEを疑う必要性を強調し、慢性血栓塞栓性肺高血圧症 (CTEPH) の評価における退院後のフォローアップの重要性を強調する事が目的である。

症例1
高血圧、2型糖尿病、高コレステロール血症の既往歴がある61歳の男性が、失神発作の後、救急外来を受診した。5日前に労作時の息切れの悪化、無気力、両側ふくらはぎの痛みを訴えていた。なお、これらの症状はnCoV-19ワクチンChAd0x1 2回目接種の8日後に始まった。血栓塞栓症の家族歴は無く、非喫煙者であり、アルコール摂取量は14単位/週未満である。身体所見では、低酸素症で酸素飽和度は89%であった。呼吸数は19回/分、無熱、心拍数114回/分の頻脈、血圧は165/95mmHgであった。さらに診察したところ、肺野は明瞭で、下肢の腫脹や圧痛はない。その他の全身検査所見に異常は無かった。酸素飽和度は、鼻カニューレによる6Lの酸素補給で94%以上を維持した。検査所見では、Dダイマー2,156 (0-230ng/ml) 、トロポニンI 8.6 (2-11ng/L) 、CRP およびLDHが上昇した。COVID PCRは陰性であった。血小板数は正常-216 (150-450×109/L) であった。心電図 (ECG) は洞性頻脈と軽度の外側ST低下を認めた。
胸部CTでは、両葉の分枝および亜分枝に、広範な肺塞栓症に準じた複数の充填欠損が認められた。心エコー図では、右心筋緊張、肺圧上昇PASP40-45mmHg、軽度の三尖弁逆流が有意であった。下肢のドップラー検査ではDVTは陰性であった。低分子量ヘパリンの投与を受けた。アピキサバンを服用して退院した。3ヶ月後の心エコー検査が手配された。患者は静脈血栓塞栓症クリニックと心臓病クリニックでフォローアップを受けるよう勧められた。MHRAのイエローカードが作成された。

症例2
過去に高血圧の既往がある51歳の男性が、24時間以内の急性発症の息切れと咳で救急外来を受診した。救急隊に連絡し、救急隊員は安静時の室内空気中の酸素飽和度が75%である事を指摘した。患者は発熱、胸痛、四肢の腫脹、四肢の疼痛を否定した。発症の4週間前にChAd0x1 nCoV-19ワクチンの1回目を接種していた。生涯非喫煙者であり、活動的な生活を送っていた。血栓の家族歴はない。
身体所見では、安静時呼吸数24回/分、頻脈102回/分、血圧138/95mmHg、無熱36.3℃の中年男性であった。胸部所見は両側クラックル陽性であった。心音は正常で、頸静脈圧の上昇もなかった。その他の身体所見は特記すべきことはなかった。検査では、動脈血ガスで1型呼吸不全、胸部X線所見は両側肺炎と一致、炎症マーカーCRP106 (0~6mg/L)、血小板数294 (150~450×109/L)、好中球8.1 (1.75~7.5×109/L)、Dダイマー5538 (0~230ng/ml) 上昇を認めた。胸部X線所見では両側の肺に浸潤があり、圧密と粉砕性の混濁が認められる。
胸部CT血管造影では両側肺塞栓症と一致する遠位左右主肺動脈に複数の充填欠損を認め、肺右葉の圧密を伴う。心電図では洞性頻脈で急性期のST変化は認められなかった 。心エコー図では右心筋の歪みや局所壁運動異常は認められず、駆出率は正常、軽度のLV拡張機能障害、弁膜症は認められなかった。
両側下肢ドプラにDVTの所見はなかった。低分子ヘパリンを投与し、細菌性肺炎をカバーするために抗生物質を静脈内投与した。臨床的に改善し、酸素吸入を中止し、退院時にアピキサバンに切り替え、3ヵ月後に心エコー図を予定し、循環器内科と静脈血栓塞栓症クリニックでフォローアップを行った。

コロナワクチンに使われるスパイクタンパクは血管毒性を持ち、血栓の原因となります。スパイクタンパクによる血栓が肺に達したものが肺塞栓症と考えられます。こうした作用機序からコロナワクチンは、肺塞栓症の潜在的な危険因子となります。

血栓症の発症とワクチン接種のタイミングは非特異的です。血栓症の多くは7〜10日目に発症する事が報告されていますが、本例は初回接種から4週間後、2回目の接種から8日以内に発症しました。このように、血栓ができるタイミングはワクチン接種すぐとは限らず、遅れて発症する事もあります。

2つの症例の検査で用いられているD-ダイマー (D-Dダイマーとも呼ばれる) は、血液凝固に関わるタンパクであるフィブリンが分解される際の生成物であり、血液検査において血栓症の判定に用いられます。心筋の損傷を免疫測定法によって確認するための感受性が高いバイオマーカーは心筋トロポニンIと心筋トロポニンTです。トロポニンは骨格筋と心筋のカルシウムイオンによる収縮制御に中心的な役割を担うタンパク質複合体です。

コロナワクチン接種後の胸の痛みや息苦しさについてはSNS上などでも散見されますが、そういった症状のある人はDダイマーやトロポニンの検査が必要でしょう。また、激しい運動は控えるなどの注意が必要と思われます。




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