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コロナワクチンと男性不妊: Andrologyに掲載された論文から

コロナワクチンと不妊については昨年にも関連記事を書きました。コロナワクチンの脂質ナノ粒子が最も蓄積する場所の1つが卵巣です。卵巣に運ばれたワクチンがスパイクタンパクを発現すると、卵巣が免疫系の攻撃対象になります。スパイクタンパクが結合する受容体ACE2 (アンジオテンシン変換酵素-2) は精子の運動性や卵の成熟に働くホルモンを作るため、スパイクタンパクによるACE2の阻害も不妊症をもたらす可能性があります。このように、コロナワクチン接種がもたらす女性の不妊への影響は以前より懸念されてきました。

さて、今回は女性ではなく男性の話です。コロナワクチン接種後の精子の量や運動性を調査した論文が発表されました。コロナワクチン接種が男性の生殖能力の低下につながる恐れがあるという報告です。

Covid-19 vaccination BNT162b2 temporarily impairs semen concentration and total motile count among semen donors
Gat et al. (2022) Andrology
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/andr.13209

精液提供者におけるCovid-19ワクチン接種BNT162b2の精液濃度および総運動数への一時的な障害について

背景:
Covid-19ワクチンの開発は、注目すべき科学的成果である。しかしながら、男性の生殖能力に悪影響を及ぼす可能性が指摘されている。

目的:
精液提供者 (SD) において、covid-19 BNT162b2 (Pfizer) ワクチンの精液パラメータへの影響を調査する事。

調査方法:
この後ろ向き縦断的多施設コホート研究の対象となったのは、3つの精子バンクにおいて37人のSDから提供された216のサンプルです。BNT162b2ワクチン接種は2回行われ、2回目の接種から7日後にワクチン接種が完了するとされた。本試験は4つのフェーズで構成された。T0 - ワクチン接種前のベースライン・コントロール (SDあたり1~2個の初期サンプルを含む)、T1、T2、T3 - 短期、中間、長期の評価 (それぞれ、短期、中期、長期)。それぞれ、ワクチン接種完了後15~45日、75~125日、145日以上経過したドナーの精液を1~3検体ずつ採取した。主要評価項目は精液パラメータとした。(1) 一般化推定方程式モデル、(2) 各期間における各ドナーの最初のサンプルおよび (3) サンプルの平均値をT0と比較する3つの統計解析が行われた。

結果:
反復測定により、T2において精子濃度がT0と比較して-15.4%減少し (信頼区間 (CI) -25.5%〜3.9%、p = 0.01)、総運動数22.1%減少 (CI -35%〜 -6.6%、p = 0.007) する事が判明した。同様に、最初の精液サンプルのみおよびドナーごとの平均サンプルの分析では、T0と比較してT2では濃度および総運動精子数 (TMC) が減少した。最初のサンプル評価では中央値でそれぞれ1200万/mlおよび3120万の運動精子が減少し (それぞれp = 0.02 および 0.002)、サンプル平均検査では中央値で950万/mlおよび2730万の運動精子が減少した (それぞれp = 0.004 および 0.003)。T3評価では、全体的に回復している事が確認された。精液量および精子運動率は低下していなかった。

考察:
SDを対象とした本経時的研究により、ワクチン接種後3カ月に一時的に精子濃度とTMCが選択的に低下し、その後回復する事が多様な統計解析により検証された。

結論:
BNT162b2ワクチン接種後の全身性免疫反応は、一過性の精液濃度およびTMCの低下の原因として妥当である。長期的な予後は良好である。

この研究は、イスラエルの3つの精子バンク (SB) (Shamir (#1)、Sheba (#2)、Herzlyia (#3) Medical Centers) からの精子ドナー (SD) を対象としています。検体は、30~60分間液化した後、精液量をシリンジで測定し、次に、精液サンプルをマクラーチャンバーに滴下して、精子濃度、運動性、総運動数を評価しています。全てのドナーは精液提供の前にPCR検査を受けていますが、陽性例はここでは記録されていません。

ドナーがワクチン接種を完了したとみなされたのは2回目の接種 (2021年2月1日から4月16日の間) から1週間後です。本試験は4つのフェーズで構成されています。基準となるのはワクチン接種前のT0 (1-2個の初期サンプル) です。その後、3つの時間枠で解析されました。ワクチン接種日から15~45日 (短期) がT1、75~125日 (中期) がT2、145日以上後 (長期) がT3となります。それぞれの時間枠にはドナーあたり1~3個の試料が含まれていました。3 回目のブースターワクチン接種後の精子ドナーは本試験から除外されています。

本研究での精子ドナーは合計37人。精子バンク#1では9人の精子ドナーが合計60サンプルを提供し、精子バンク#2および#3ではそれぞれ12人と16人の精子ドナーが78サンプルを提供し、合計216サンプルを提供しました。この研究の対象は基本的に若い男性であり、精子ドナーの平均年齢は26.1±4.2歳です。T0はワクチン接種前に採取し (1人2検体まで、計51検体)、接種後の平均採取間隔は、T1、T2、T3とも接種後26.7±10、92.5±13.4、174.8±26.8日 (それぞれp < 0.0001、 各時期で3人) でした。

精液サンプルは都度各数値のばらつきが大きくなります。このために、著者らはドナーごとに繰り返し測定し、複数の統計的アプローチをとっています。最初の解析では、基準としてT0と比較したワクチン接種後の変化を評価するために、繰り返し測定を行いました。T1とT0の間に有意な変化は示されませんでした。しかし、T0と比較して、精子濃度はT2 (中期) で15.4%減少し (CI -25.5%〜3.9%)、T3 (長期) で15.9%減少しました (CI -30.3%〜1.7%)。精子運動率はT2で1.9%減少し (CI -4.9%〜1.7%)、T3で4.1%減少 (CI -8.2%〜0.1%)。また、精子の総運動精子数もT2で22.1%減少し (CI -35%〜6.6%)、T3で19.4%減少しました (CI -35.4%〜0.6%) (表2)。

表4は精液サンプルの中央値やパーセンタイルに焦点を当てたものです。表4では、T0の数値からT1、T2、T3の数値を引いています。それぞれの時期での精子の数や能力の低下は図の中で「プラス」の数値として表されています。筆者らは表4では表2とではプラスとマイナスで反対の表記を取っており、そのために一見分かりにくくなっています。T2での精子濃度と総運動精子数では有意な変化が見られました。中央値でそれぞれ950万/mlと2730万個の運動精子が減少しています (p = 0.004と0.003)。

筆者らはT3 (長期間後) ではこれらの数値が回復したと文中で記しています。ただし、T3のp値が0.34、0.91、0.99 (!) と高すぎます。p値はある事象が偶然ではなく必然に起きている事を示すための数値です。つまり、「活動精子が回復したという事象」が偶然である確率が34%、91%、99%という事になります。このように、時間経過により生殖能力が本当に回復したかどうかは実際は定かではありません。

以下、論文内で使われている統計についてもう少し詳しく説明していきます。「平均値」は一般的な用語ですが、「中央値」や「パーセンタイル」は普段あまり聞かない言葉でしょうか。これらを説明すると、中央値は英語でメディアン (median) で、値を大きさの順に並べ「順位が中央になる値」の事です。パーセンタイルも同様の概念です。75パーセンタイルは「順位がちょうど75%になる値」、つまり最上位から数えて数値の順位が1/4に当たる数値です。25パーセンタイルは「順位がちょうど25%になる値」、すなわち最下位から数えて数値の順位が1/4に当たる数値です。

一位の数値が極端に異なる場合、平均値は大きく影響を受けます。例えば、年収3百万円の10人の集団に年収1兆円の人が加わると平均年収は909億円に跳ね上がります。これに対して、中央値は300万円のままです。中央値のメリットは極端に外れた値を無視できる事であり、反対にデメリットは極端に外れた値を無視してしまう事です。つまり、平均値では大きく差が出ていても中央値では差が少ないように見える事もあるのです。

p値についても触れておきます。p値とは「帰無仮説の下で実際にデータから計算された統計量よりも極端な統計量が観測される確率」です。「帰無仮説」とは、統計学の仮説検定において、その当否が検定される仮説です。慣例として有意水準には5% (p=0.05) がよく用いられます。例えば、p値が0.05未満を基準にすると、「帰無仮説が正しいという前提の下では、5%未満でしか起こりえない」という事を意味します。このように、p値とはある事象が偶然ではなく必然に起きている事を示すための数値であり、その事象が偶然に発生する確率がp値です。そして、「偶然ではなく必然」であると判断するための基準が「有意水準」です。

ある事象が有意かどうかは有意水準の数値次第で変わってきます。こうした視点を無視して恣意的に決めた有意水準を超えるか否かで判断すると、確率の問題が「有意か否か」の極論になってしまいます。これが統計解釈における多くの問題の背景にあります。有意かどうかだけに焦点を当てて判断するとオールオアナッシングのように見えたりもしますが、上記のように、統計で検証される事象が正しいかどうかはまた別問題で、本来確率の問題なのです。

この研究はコロナワクチン接種後に精子の量、運動性に問題が生じる可能性を指摘しています。しかし、ワクチン接種後長期間で、活動精子の数や能力は平均値では大きく下がっているのに対し、中央値では下がっているようには見えません。表4のワクチン接種後長期間のデータはさすがにp値が高すぎます。ワクチン接種後長期間での生殖能力が回復したというのは参考データ程度に考えた方が良いでしょう。

あるいは中央値と平均値のデータが両方正しいと仮定してみます。この場合、多くの人では変化がなくとも、一部の人で活動精子が大きく低下している事になります。生殖能力が極端に低下する人が存在した場合、それは中間値やパーセンタイルに反映されずに、平均値にのみ反映されてもおかしくありません。この研究の範囲では、精子の量、質の低下はワクチン接種者全員に当てはまるものではないと考えられます。大多数のワクチン接種者では精子の量、質の低下は一時的なものですが、対照的に極端に生殖能力を障害する人が出てくる可能性があります。特に精子の量や質で上位にあった人の精子能力の低下が激しいのではないでしょうか。

この研究は半年間の研究であり、その後はどうなるかは現時点では不明です。またこの研究ではブースター接種者は除外されています。ワクチン接種を「繰り返す事」でどのくらい生殖能力が低下するのかもまだ分かりません。

上でも触れましたが、この論文内の表2と表4は「プラス」と「マイナス」の表記が反対になっています。正直その意図は理解に苦しみますが、もしかすると筆者らは故意に分かりにくく表記しているのかもしれません。サンプル数も膨大ではないので、むしろ全てのデータをグラフにプロットした上で、平均値、中央値、パーセンタイルを併記していたなら全体像も詳細も分かりやすかったのではと思います。論文で重要なものはデータです。そして、データから導き出される事象全てが本文中に記されているわけではありません。表4の結果は一見、表2の結果と食い違い、コロナワクチン接種後時間が経つと精子能力が回復するようにも受け取れますし、要旨にもそのように書かれています。実際、こういう主張が無いと極端に査読を通りにくいのでは無いかと推測します。コロナワクチン関係の論文では、コロナワクチンの危険性を指摘する論文は査読を通りにくくなっています。アカデミックの科学の世界もコロナ騒動の一端を担っています。暗号を読み解くくらいの知恵がないとコロナワクチン関係の論文の本当の意味にたどり着けないのです。

この研究から読み取れる事は多いです。ワクチン接種後変わらず元気にしている人もいるでしょう。対照的に極端に体調を崩し長引く後遺症に悩んでいる人もいます。集団内にこれだけ多様性があり、ワクチンの副反応の個人差が大きいので、ワクチン接種後でも現在元気な人にはワクチン後遺症が理解できないのです。ただこれは確率の問題であり、またタイミングの問題の可能性もあります。時間が経つにつれて、コロナワクチン後遺症の真実が明らかになってくるのではないかと考えます。




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