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コロナワクチンは母乳を介して乳児に移行する: Frontiers in Immunologyに掲載された論文から

抗体は体内で作られるだけとは限りません。外部から体内に抗体を移行させる事で成立するのが受動免疫です。受動免疫は例えば免疫グロブリン療法や抗血清療法などにも応用されています。母児免疫も自然におこる受動免疫の一種です。新生児は免疫系が未熟であり、新生児を病原体から守るために母親由来の抗体が使われるわけです。

抗体にはIgM、IgG、IgA、IgEなどのクラス (アイソタイプ) があり、異なるクラスの抗体は、抗原に応答して異なるエフェクター機構を活性化します。例えばアレルギーの原因はIgEのクラスの抗体です。ヒトの場合、IgGは胎盤を通過できる唯一の抗体のクラスです。母性抗体は胎盤細胞上のFc受容体によって胎盤を通過して胎児に移行します。受動免疫は初乳や母乳に含まれる母性抗体を介してもおこります。母乳に含まれる抗体のクラスはIgAであり、乳児が自分で抗体を合成できるようになるまで、母親由来の抗体が細菌やウイルス感染から乳児の体を守ります。IgAによる保護は母乳育児の期間に依存しており、母乳育児が推奨される理由の一つになっています。

母性抗体が生まれたばかりの子供を守るのは人間に限った事ではありません。胎盤や母乳を介しての母性抗体による受動免疫は哺乳類には広く見られます。また、鳥類では母性抗体は卵に移行して胚 (胎児) の体を守ります。身近な例としては牛乳があります。牛乳は牛の母乳ですので、牛乳にはIgAクラスの抗体が含まれます。また玉子 (鶏の卵) の卵黄にはIgG、卵白にはIgMクラスの抗体が含まれます。実は私達は毎日結構抗体を食べているのです。抗体と複合体を作った抗原は安定化されるので、私はこうした抗体はアレルギーにも関係があるのではないかと考えています。

また、母乳を通して移行するのは抗体だけとは限りません。栄養分はもちろんですが、それ以外のものも母乳には含まれます。母乳は血液から作られるものであり、血液から赤血球などを取り除いた血漿を原料としているからです。以下は母乳にコロナワクチンのRNAそのものが含まれるという研究です。

Neutralizing Activity and SARS-CoV-2 Vaccine mRNA Persistence in Serum and Breastmilk After BNT162b2 Vaccination in Lactating Women
Yeo et al. Front Immunol . 2022
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35087517/
授乳婦へのBNT162b2ワクチン接種後の血清および母乳中における中和活性とSARS-CoV-2ワクチンmRNAの残存性

背景: 母乳中のSARS-CoV-2特異的抗体の機能的中和能や、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種後の母乳にワクチンmRNAが混入する可能性に関する情報は限られている。
方法: BNT162b2ワクチンを接種した授乳中の医療従事者とその乳児を対象に前向きコホート研究 (健康な人の集団を追跡調査して、後から発生する疾病を確認する研究手法) を実施した。21日間隔で行われた2回接種の6週間にわたり、血清および母乳中のSARS-CoV-2中和抗体、抗体アイソタイプ (IgG、IgA、IgM) およびインタクトmRNAの存在を、代替中和法、ELISAおよびPCRを用いて複数の時点から評価した。
結果: 授乳中の母親35名 (年齢中央値34歳 (IQR32-36) ) が対象となった。投与直前の血清中では、全員が中和抗体を検出可能であり、投与7日後には中和抗体レベルが有意に上昇した[中央値168.4 IU/ml (IQR 100.7-288.5) に対し、2753.0 IU/ml (IQR 1627.0-4712.0) 、p<0.001 ]。2回のワクチン接種を通じて、すべての母親の血清中にIgG1、IgA、IgMのアイソタイプが検出され、2回目の接種後に3つの抗体アイソタイプ全て、特にIgG1レベルの顕著な増加が見られた。中和抗体は接種1週間後の母乳から検出され (中央値13.4 IU/ml (IQR 7.0-28.7) )、3週間後まで持続していた。2回目のワクチン接種後、全ての母親 (35/35、100%) で母乳中のSARS-CoV-2スパイクRBD特異的IgG1およびIgA抗体が、32/35 (88.6%) 母親でIgMが検出可能であった。ワクチン接種後1週間以内に、21人の母親から採取した血清20/74 (27%)と4人の母親から採取した母乳5/309 (2%) で、一過性の低いインタクトなワクチンmRNAレベルが検出された。また、中央値8カ月 (IQR 7-16) の乳児5人を対象としたが、血清中に検出可能な中和抗体やワクチンmRNAを有する者はいなかった。
結論: 授乳中の母親の大部分は、特にBNT162b2ワクチン接種後、血清および母乳中にSARS-CoV-2抗体のアイソタイプおよび中和抗体が検出された。また、ワクチン接種を受けた母親の血清中に一過性の低レベルのワクチンmRNAが検出され、母乳に移行する事があったが、乳児の感作の証拠は検出されなかった。母乳中和抗体の存在は、母乳栄養児への受動免疫の基礎となる可能性が高い事が重要である。

この研究はファイザー社のRNAコロナワクチンを接種した授乳中の医療従事者とその乳児を対象とするコホート研究です。21日間隔で行われた2回接種の6週間にわたり、血清および母乳中の各クラスの中和抗体とコロナワクチンを定量的に解析しています。論文中では母性抗体の移行についても解析していますが、ここでは省略させていただきます。それよりもずっと問題となる、母乳からのコロナワクチンの検出についてお話しします。

血清および母乳中のBNT162b2 mRNA検出率
検査した21名の母親から得た74検体のうち、15名の母親から得た20検体の血清からワクチンmRNAが検出された。合計10/16 (63%) および10/25 (40%) の母親が、それぞれ初回接種の1-3日後および2回目接種の7-10日後にワクチンmRNAを検出可能だった (図6A)。5人の母親は、両方の時点で血清サンプルが陽性だった。ワクチンmRNA量の中央値 (ng/100ml) は、2つの時点の間で差はなく、16 (IQR 9-24)に対し、12 (IQR 9-18) だった (p=0.6)。投与後0日目と21日目のサンプルには、ワクチンmRNAが検出されるものはなかった。

31人の母親から採取した309検体のうち、4人の母親から採取した5つの母乳検体で、ワクチンmRNAが検出された。すべての陽性サンプルは、ワクチン投与後3日以内に採取されたもので、2サンプルは投与1日目と3日目から (図6B)、別の3サンプルは2回目接種後1日目と3日目から採取されたものであった。1人の母親は、母乳と血清の両方のサンプルでワクチンmRNAが検出された。両方のサンプルタイプにおけるワクチンmRNA量の中央値は同等であった。血清では14 ng/100 ml (IQR 8-23)であったのに対し、母乳では7 ng/100 ml (IQR 6-7) だった(p=0.2)。

検査した5人の乳児の血清サンプルには、ワクチンmRNAが検出されたものはなかった。5人のうち1人は母乳と血清の両方でワクチンmRNAが検出された母親からの乳児で、別の3人は血清でワクチンmRNAが検出された母親からの乳児だった。

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図6Aは母親の血清中のコロナワクチンです。コロナワクチンmRNAの検出にはPCR法が使われました。初回接種の21日後に2回目接種を受けています。図中の同一の記号は同一の母親由来という事を意味します。21名の母親から得た74検体のうち、15名の母親から得た20検体の血清からワクチンmRNAが検出されています。16人中10人 (63%)、25人中10人の (40%) の母親で、初回接種の1-3日後および2回目接種の7-10日後にワクチンmRNAが検出されました (図6A)。そのうち5人の母親は、両方の時点でコロナワクチンが血清中から検出されています。2つの時点の間で検出量に大きな差はありません。

図6Bは母乳中のコロナワクチンです。31人の母親から採取した309検体のうち、4人の母親から採取した5つの母乳検体でコロナワクチンmRNAが検出されています。2サンプルは投与1日目と3日目から、別の3サンプルは2回目接種後1日目と3日目から採取されたものです (図6B)。1人の母親では、母乳と血清の両方のサンプルでワクチンmRNAが検出されています。検出されたコロナワクチンは血清では14 ng/100 ml、母乳では7 ng/100 ml。血清中と同様なレベルのコロナワクチンが母乳に含まれています。

母乳は参加者が自分で採取し、研究室に運ぶ前に参加者の冷凍庫で保管したものです。このため、検出前にワクチンmRNAが分解されるなどのサンプルの品質にばらつきが生じていてもおかしくありません。検出された母乳中のコロナワクチンは過小評価されたものであり、実際にはもっと多くの被験者の母乳に含まれていた可能性があります。

つまりコロナワクチン接種後の母親の母乳には、栄養分や母性抗体に加え、コロナワクチンも含まれるという事です。コロナワクチンは筋肉注射されますが、筋肉だけで消費されるとは限りません。これまでの記事で紹介したように、スパイクタンパクは血中を循環しますし、場合によってはその期間は数カ月以上にも及びます。今回紹介した論文で報告されているのは、コロナワクチンそのものも血中を循環するという事です。接種後数日間コロナワクチンそのものが体内を循環するので、どの臓器でスパイクタンパクを作り始めてもおかしくありません。しかもコロナワクチンは母乳を介して乳児に移行し得るという事が分かりました。

乳児本人がワクチンを接種されたわけでもないのに、乳児の体内でスパイクタンパクの生産が始まる可能性があります。体の小さい乳児にスパイクタンパクの毒性がどれくらい強く出るかも予測不可能です。そしてもう一つ、乳児に特異的な懸念としては、この時期はまだ獲得免疫が確立する前の段階だという事です。獲得免疫は自己と非自己を区別し、自分の体内を構成しないものを体内で検出した場合、外敵と判断し攻撃する仕組みです。乳児の時点で体内にスパイクタンパクがあれば、免疫は自己と判断し、免疫寛容が成立するかもしれません。その場合、乳児は今後スパイクタンパクに対する抗体を作らなくなり、コロナウイルス感染に対して非常に脆弱になる事が懸念されるのです。コロナワクチンの乳児への安全性は未だ検証されていません。




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