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ワクチン接種者のスパイクタンパクはエクソソーム上で4ヶ月以上血中を循環する: The Journal of Immunologyに掲載された論文から

コロナワクチンによって生産されるスパイクタンパクは血流を循環し、血管を障害する事が知られています。では、ここで循環しているスパイクタンパクとは何でしょうか。細胞膜から切り離されたスパイクタンパクの一部が血液中に存在している事はOgataらの研究で指摘されています。スパイクタンパクは膜タンパクであり、通常はウイルスや細胞の「膜上に生えている」タンパクです。膜タンパクの発現には細胞膜かそれに類似したものが必要ですが、膜上でしか安定ではないはずの完全長スパイクタンパクも循環している事が論文中で示唆されています。ではこれはどういった機構によるものなのでしょうか。細胞やウイルス以外で膜タンパクの発現や輸送を媒介し得るのが「エクソソーム」です。

(本来の予定では、今回は前回の続きとしてスパイクタンパクと自己免疫疾患についての記事を掲載予定だったのですが、タイムリーな内容でしたので、先にこちらの論文を紹介させていただく事にしました。)

COVIDスパイクタンパクを含む循環エクソソームは、抗体ができる前にBNT162b2(PfizerBioNTech)ワクチン接種によって誘発される。mRNAワクチンによる免疫活性化の新しいメカニズム
Bansal et al. J Immunol. 2021
https://www.jimmunol.org/content/early/2021/10/11/jimmunol.2100637
重症急性呼吸器症候群の原因となるコロナウイルス (SARS-CoV-2) のスパイクタンパクを標的としたmRNAワクチンを接種すると、抗体および防御免疫が発現した。このメカニズムを明らかにするために、健康な人にワクチンを接種した後SARS-CoV-2スパイクタンパクと抗体が循環エクソソームに誘導される動態を解析した。その結果、ワクチン初回接種後14日目、2回目の接種から14日後にスパイクタンパクを発現したエクソソームが循環していた。また、2回目の接種後、スパイク蛋白質を含むエクソソーム、SARS-CoV-2スパイクに対する抗体、IFN-γとTNF-αを分泌するT細胞が増加した。またエクソソームの透過型電子顕微鏡で見ると、その表面にスパイクタンパクの抗体が確認できた。スパイクタンパク質と抗体を含むエクソソームは、4カ月後には並行して減少した。これらの結果はmRNAベースのワクチン接種後の効果的な免疫にスパイクタンパクを含む循環エクソソームが重要な役割を果たしている事を示している。さらにスパイクタンパクを含むエクソソームを免疫したマウスでは、体液性および細胞性の免疫反応が誘導される事が証明された。

この研究では、ファイザー製のmRNAコロナワクチンを2回接種した健康な成人8名を対象とし、ワクチン接種者のエクソソームとスパイクタンパクについて解析しています。

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上の画像はワクチン接種者の血漿から分離されたエクソソームです。エクソソームの平均サイズは200nm (ナノメートル、ナノは10のマイナス9乗) 未満で、一般的なエクソソームのサイズと一致しています。著者らはさらにエクソソームをスパイクタンパクに対する抗体で染色し、透過型電子顕微鏡で確認しました。ワクチン接種を受けた人のエクソソームはスパイクタンパクに陽性です (図1)。

エクソソーム (またはエキソソーム) とは、細胞から分泌される直径約30–150 nmの小胞です。CD9などがエクソソームのマーカー (細胞種などを特定するための目印となる分子) であり、CD9はフソゲン (細胞膜融合分子) としてエクソソームと細胞膜の融合を媒介します。ウイルスとエクソソームには類似点があります。それは、どちらも外側の膜は細胞膜と同じ成分で、フソゲンの構造変化とともに膜を融合させて細胞と融合するという事です。スパイクタンパクはコロナウイルスのフソゲンでもあります。

エクソソームはタンパク質やRNAなど、元の細胞に由来する様々な分子を含んでおり、膜小胞輸送を介して細胞から別の細胞へと分子を輸送する機能を持ちます。抗原特異的な抗体はワクチンが注入される筋肉で生産されるわけではなく、抗体生産の場所は脾臓やリンパ節に形成される胚中心です。スパイクタンパクに対する免疫を作るためには、スパイクタンパクは胚中心に輸送される必要があり、エクソソームがその経路の1つと考えられています。

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スパイクタンパクに対する抗体は、ワクチン2回目接種の14日目以降の被接種者全員に検出されました。また、ワクチン2回目接種4ヶ月後の抗体濃度は2回目接種の14日目に比べて減少していました (図2A)。1回目のワクチン接種後0日、7日、14日、2回目のワクチン接種後14日、4ヶ月の血漿中のエクソソームを解析したところ、初回接種14日のエクソソームにスパイクタンパクS2が検出されました (図2Bの「D14」)。これはエクソソームにスパイクタンパクが含まれる事を意味します。2回目のワクチン接種後14日目ではエクソソーム中のスパイクタンパクが増加し (図2Bの「D14 (2nd)」)、4ヶ月では減少していました (図2Bの「4 months」)。これをグラフにまとめたものが図2Cです。さらに各個人のデータが図2D、図2Eに補足されています。

論文のテキスト内では最低限の説明しか書かれていないのですが、そのデータが意味するものは大きいです。私の解釈も交えつつ解説していきます。

遺伝子ワクチンとしてのデザインのために、コロナワクチンは接種後に細胞内でスパイクタンパク生産を開始し、量はいきなり最大量に達します。ここで興味深い事としては、細胞内で量産されたスパイクタンパクがエクソソームに集積するまでにはタイムラグがあるという事です。初回接種後0日、7日ではエクソソームにスパイクタンパクはほとんど検出されないのに対し、14日でははっきりと検出されます。つまりスパイクタンパクを持つ血中のエクソソームは、ワクチン接種後2週間まで時間の経過とともに徐々に増えているという事です。2回目のワクチン接種後14日目と比較すると4ヶ月後ではエクソソームのスパイクタンパク量は減少してはいますが、それでもワクチン初回接種後0日、7日よりも高く14日とほぼ同じレベルです。図2Eを見ると、エクソソームのスパイクタンパクのレベルは、ワクチン初回接種後14日から2回目接種後4ヶ月まで大きく変わらない人もいます。

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また著者らは、ワクチン接種群及び対照群から分離したエクソソームをマウス (C57BL/6系統) に免疫し、抗体レベルを測定しました。さらに対照実験として、スパイクタンパク単独でのマウスの免疫も行われました。スパイクタンパク接種でスパイクタンパクに対する抗体が誘導されますが、同様にワクチン接種者のエクソソームによってもスパイクタンパクに対する抗体が誘導されています (図3A)。これはエクソソームにスパイクタンパクが含まれる事が理由でしょう。

ワクチン接種者のエクソソームで免疫されたマウスの脾臓リンパ球をスパイクタンパクで刺激すると、対照実験と比較してサイトカインを分泌する細胞の数が増加していました。IFN-γ (インターフェロンガンマ) は活性化されたT細胞で産生され免疫系と炎症反応に対して調節作用を有します。TNF-α (腫瘍壊死因子アルファ) は代表的な炎症性サイトカインです。スパイクタンパクを発現するエクソソームを受け取る事により、細胞性免疫が刺激されて炎症を起こしている事が分かります。


ワクチン接種者の血中を4ヶ月以上の長期間にわたってスパイクタンパクを持つエクソソームが循環しているという事が判明しました。エクソソームは細胞間輸送小胞で、細胞と融合する事によりその内容物を受け渡す事ができます。エクソソームを受け取った細胞は表面にスパイクタンパクを発現する可能性がありますが、そうした細胞はスパイクタンパクに対する抗体の攻撃対象となり、特殊な自己免疫疾患の発症へとつながります (抗体依存性自己攻撃 (ADAA、antibody-dependent auto-attack) )。全身の血管を循環するエクソソームは至る所での血栓の原因ともなり得るでしょう。

この研究ではエクソソームの内容物が何かまでには触れられていません。エクソソームは細胞の中身を取り込んだものですので、mRNAワクチンの一部を含んでいる事も十分考えられます。mRNAワクチンを含んだエクソソームが細胞に融合すると、その細胞でもスパイクタンパクの生産を開始し、またさらにスパイクタンパクを持つエクソソームを量産しかねません。

例えば汗や母乳は血液から作られるものであり、血液から赤血球などを取り除いた血漿を原料としています。この論文が示すようにエクソソームが血中を循環するならば、汗や母乳などに含まれて漏れ出す可能性も否定できません。著者はコロナワクチンのいわゆる「シェディング」については触れていないのですが、エクソソームはシェディングに関わる機構の一つではないかと考察されます。


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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。


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