コロナワクチン接種後の心筋炎と血中のスパイクタンパク: Circulationに掲載された論文から
RNAコロナワクチンによって生産されるスパイクタンパクは血中を循環し、しかもその期間は少なくとも4ヶ月以上に渡る事が分かっています。では、そうしたスパイクタンパクはどのような病態に関連するのでしょうか?
コロナワクチン接種後に心筋炎を発症した青少年の血中から全長スパイクタンパクが検出された研究を紹介します。論文中では血中を循環するスパイクタンパクと心筋炎発症との関連が強く疑われています。
心筋炎を発症した16人の青少年 (12歳から21歳) から血液サンプルが提供されました (図1)。ワクチン後心筋炎患者の大多数は男性で、症状の発現は通常ワクチン接種後1週間以内 (中央値4日、範囲1〜19日) でした。全例が胸痛を呈し、心筋トロポニンTおよびCRPの数値が上昇が上昇しました。また、無症状のワクチン接種対照被験者として、年齢をマッチさせた45人から2回目のmRNAワクチン接種後3週間までにサンプルが採取されました。
ワクチン後心筋炎を発症した人の広範な抗体プロファイリングとT細胞応答は、サイトカイン産生がわずかに増加したものの、ワクチン接種した対照者のものと本質的に区別がつきませんでした。
コロナワクチン接種後の血液中の全長SARS-CoV-2スパイクタンパク質とその切断サブユニットであるS1の両方のワクチン刺激産生は、超高感度1分子アレイ (Single Molecule Arrays (Simoa)) 抗原アッセイによって測定されました。
2回目のワクチン接種後に採取した青少年血漿サンプルの分析では、ほとんどのサンプルで循環している遊離S1は検出されませんでした (図4A)。S1が検出されないのは、循環している抗体によって抗原がマスクされている (隠されている) 事が考えられます。そこで筆者らは、血漿試料をDTT (ジチオスレイトール、還元剤) で処理して抗体を変性させました。すると、S1はワクチン接種を受けた対照コホートの34%、心筋炎コホートの29%の血漿中に検出されました。
では、全長スパイクタンパクについてはどうでしょうか。この研究では、S1に対する抗体、S2に対する抗体の両方に反応する場合、全長スパイクタンパクと判断されています。無症状のワクチン接種対照被験者には検出できる遊離スパイクタンパクが見つからないのに対し、心筋炎を発症した青年の血漿中には、抗体と結合していない遊離の全長スパイクタンパクが著しく高いレベル (33.9 ± 22.4 pg/mL) で検出されたのです (図4A)。DTTによって結合している抗体を外しても、全長スパイクタンパクの量はわずかに上昇したのみであり、抗体と結合したスパイクはワクチン接種を受けた対照群では約6%しか検出されませんでした (図4A)。この事は、ワクチン後心筋炎患者では、抗原の大部分が自由に循環し、抗体と結合していない事を示しています。
ワクチン接種後の心筋炎は臨床的には男性に多いのですが、全長スパイクタンパクの上昇は罹患した女性にも等しく見られました。青少年のサンプルとは対照的に、健康な成人サンプルでは遊離または抗体結合スパイクを検出する事ができませんでした。血中を循環するスパイクタンパクの処理にも年齢が関係している可能性があります。
ワクチン接種後の経過時間別に解析すると、ワクチン接種後の心筋炎患者1名とワクチン接種を受けた対照者1名にのみ検出された遊離型S1は、最初の1週間以内に検出されました。しかし、抗体結合型S1は、両コホートの約3分の1で検出され、ワクチン接種後3週間まで検出されました (図4B)。一方、ワクチンによる心筋炎を発症した患者でのみ検出された遊離および抗体結合型全長スパイクタンパクは、ワクチン接種後3週間まで検出可能なままでした (図4B)。このように、心筋炎と関連しているのは遊離の全長スパイクタンパクと考えられます。
心筋炎発症者の抗体プロファイリングには異常は見当たりませんでした。スパイクタンパク検出のためにも抗体が使われているように、こうしたスパイクタンパクが物理的に抗体と結合できないわけではありません。筆者らは心筋炎患者と健常ワクチン接種対照者の血漿サンプルの解析により、抗体中和能力に有意差がない事も確認しています。時間の経過とともに、循環するスパイクタンパクが減少しているので、抗体を介してスパイクタンパクを血中から取り除く経路も機能していると考えられます。では、なぜ血中を循環するスパイクタンパクと抗体とは結合していないのでしょうか?
筆者らはここでは直接触れていませんが、推測できる一つの理由は「量」の問題です。つまり、抗体が中和できるよりもはるかに過剰のスパイクタンパクが生産されたのではないでしょうか。抗体と結合した全長スパイクタンパクは血中を循環しにくいとしても、抗体よりもはるかに過剰なスパイクタンパクが生産されれば、そうしたものは血中を循環するでしょう。また、循環スパイクタンパクは成人サンプルでは見られなかったので、スパイクタンパクの超過剰生産は子供の方が起こりやすい事も推測されます。
では、血中を循環する全長スパイクタンパクは一体どういった形態なのか? スパイクタンパク単独で存在しているのか、あるいはエクソソームの形態なのかまではこの研究ではわかりません。また、この研究の範囲では、スパイクタンパクが心筋炎発症の原因なのか結果なのかそれ以外なのかも不明です。青少年がコロナワクチン接種後に心筋炎を発症する際に抗体やT細胞の免疫応答がほとんど変化していなかったという事は、青少年の心筋炎発症には抗体依存性自己攻撃やT細胞依存性自己攻撃に加えて別の作用機序も存在する可能性があります。
スパイクタンパクはアンジオテンシン変換酵素 2 の発現を抑制し、内皮の一酸化窒素の利用率を低下させます。これらの事象は血管を狭めて血圧の上昇に繋がる事から、血栓の原因となります。また、スパイクタンパクは内皮細胞層の過敏性を伴うインテグリン媒介性炎症の活性化によって、心臓周皮細胞の機能障害や内皮の炎症を刺激します。コロナワクチンによる心筋炎発症者は今後さらに他の病気を併発する可能性を警戒する必要があるでしょう。
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