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自己増殖型コロナワクチンから自己増殖型次世代ワクチンへ: Natureに掲載された記事から

未だ実験段階であるレプリコンワクチンが、世界で初めて日本で承認されました。今回承認されたレプリコンワクチンの商品名は「コスタイベ筋注用」、その開発コードが「ARCT-154」です。ARCT-154はコロナウイルスに対するレプリコンワクチンですが、このワクチンは始まりに過ぎないでしょう。今回はNatureに掲載されたレプリコンワクチンについての記事を紹介します。

Self-copying RNA vaccine wins first full approval: what’s next?
Elie Dolgin (2023) Nature
https://www.nature.com/articles/d41586-023-03859-w

自己複製RNAワクチンが初の完全承認を獲得:次の課題は?

研究者達は、20年以上の歳月をかけて開発されたこの技術の潜在的な用途と利点を見据えている。
- エリー・ドルギン

自己増殖型RNAワクチンは、従来のメッセンジャーRNAワクチンの新たな武器となるだろう。

COVID-19のRNAワクチンが承認された事は、それほど重要な事ではないかもしれない。しかし、細胞内で自己のコピーを作る事ができるRNAを用いたSARS-CoV-2に対する予防接種が先週日本の当局によって承認された事は、世界初の「自己増殖型 (self-amplifying)」RNA (saRNA)であり、極めて重要な前進である。

この新しいワクチン・プラットフォームは、さまざまな感染症やガンに対する強力な防御を提供する可能性がある。また、低用量で使用できるため、他のメッセンジャーRNA (mRNA) 治療よりも副作用が少ないかもしれない。

日本では主に「レプリコンワクチン」と呼ばれていますが、海外の文献ではsa (self-amplifying)-mRNAワクチンと呼ばれる事が多いです。その翻訳として、日本においては自己増殖型と自己増幅型の両方の表記が見受けられますが、ここでは「自己増殖型」と統一させていただきます。

自己増殖型mRNAワクチンが従来型に比べてごく少量の投与量で済むのは、接種後ワクチンが接種者の体内で増えるからに他なりません。しかし、実際のところどれだけ増えるかは未知であり、個人差も大きいでしょう。ARCT-154はスパイクタンパクを抗原とするコロナワクチンですが、自己増殖型mRNAワクチンは今後様々な感染症や癌の予防、治療などに使われる事が予定されています。

記事中では「自己増殖型RNAワクチンは、従来のメッセンジャーRNAワクチンの新たな武器となるだろう」との言葉があります。では果たしてその矛先はどちらへ向かうのでしょうか。

カリフォルニア州サンディエゴのアークトゥルス・セラピューティクス社とそのパートナーであるCSL社 (本社:オーストラリア、メルボルン) が開発したARCT-154は、臨床試験でブースターとして使用したところ、標準的なmRNAのCOVID-19ワクチンよりも高いレベルのウイルスと闘う抗体が誘発され、体内を長時間循環した。
研究者たちは20年以上も前からsaRNAワクチンの実現を目指してきた。「CSLのRNAプログラムリーダーであり、mRNA医薬品のための同盟の副議長でもあるロベルタ・ダンカンは言う。
saRNAワクチンを開発するカリフォルニア州サンディエゴのレプリケート・バイオサイエンス社の共同設立者であり、最高経営責任者であるナサニエル・ワンは、「この分野にとっては、信じられないほど有効な事です」と言う。彼は、saRNA技術は、継続的な進歩により、多様な治療状況において従来のmRNAに取って代わる事が多くなると予想している。「saRNAはより多様な可能性を秘めています」とワンは言う。

長期間の抗体誘導は免疫系が長期間抗原と反応し続けた結果でしょう。そうした場合、免疫系は抗原を危険でないものと再学習し、免疫反応を抑制するIgG4を誘導します。この様に、長期間の抗体誘導は免疫抑制を引き起こします。

saRNAワクチンの開発企業は、将来的にsaRNA技術が従来のmRNA技術に置き換わっていく事を期待しています。実際、人々がワクチン接種について国や行政、医療機関に疑問を抱かない限りそうなっていく事でしょう。

パワーアップ
その汎用性は、そのユニークな特徴から生まれる。
従来のmRNAベースのCOVID-19接種は、主に制御配列に囲まれたウイルスタンパク質の遺伝的命令から構成されている。細胞の機械はこの命令が続く限りタンパク質を産生し、抗原として知られるそのタンパク質は免疫反応を刺激する。対照的に、saRNAの接種は、抗原をコードするRNAの複製と合成に必要な遺伝子を統合する事で、さらに一歩進み、事実上、細胞内でワクチンを製造するための生物学的印刷機を確立する。
ARCT-154の場合、抗原はSARS-CoV-2が発現するスパイクと呼ばれる表面タンパク質である。複製機構は、自然界に存在するウイルス、馬や人間に致命的な脳腫脹を引き起こすベネズエラウマ脳炎ウイルスとして知られる蚊媒介性病原体から取られたものである。特筆すべきは、アークトゥルスの科学者たちがウイルス配列のバックボーンから主要遺伝子を取り除いた事で、このシステムは非感染性でヒトに使用しても安全である。
カナダのバンクーバーにあるブリティッシュ・コロンビア大学でこの技術を研究している生物工学者のアンナ・ブレイクニーは言う。「saRNAは全く別の獣です。
saRNAはウイルスのような性質を持っているため、免疫システムと独特の方法で相互作用する。例えば、感染症の予防に関して言えば、その自己増幅能力により、より少ないワクチン投与量で予防が可能になる。
ARCT-154は、他のRNAベースのCOVID-19ブースター接種に比べ、一人当たり10分の1から6分の1の量のワクチンを必要とする。各接種で投与されるワクチンの量を減らす事は、製造コストの削減につながるはずである。また、ARCT-154の副作用プロファイルは従来のmRNA注射に匹敵すると思われるが、このプラットフォームの少量投与の利点が、痛み、発熱、悪寒、その他反応原性と総称される憎悪症状の重症度を軽減するのに役立つ事が考えられる。
このような不快な反応は、人々がmRNAベースのワクチンを接種する際の大きな障害となっている。季節性インフルエンザ・ワクチンについて考えてみよう。古いワクチン技術を使った既存のワクチンでは、軽い反応しか起こらない。現在、いくつかの従来のmRNAベースのインフルエンザ・ワクチンが臨床試験を進行中であり、これらは既存の予防接種よりも防御抗体を引き出す有望な兆候を示している。マサチューセッツ州ケンブリッジにあるチバ・バイオテックの共同設立者兼最高科学責任者であるクリスチャン・マンドル氏は、「しかし、副作用のプロファイルにはまだ改善の余地がある」と指摘する。saRNAワクチンの「低用量は、反応原性の問題の一部を解決するのに役立つ可能性がある」と彼は言う。

文中では「saRNAは全く別の獣 (beast)」と書かれています。実際、自己増殖型mRNAワクチンは「ウイルスのように」体内で増殖するため、獣という表現は言い得て妙です。自己増殖型mRNAワクチンでは接種一回あたりの投与量が減らせるために製造コストの削減にも繋がり、製薬メーカーにとっての金銭的な利益は大きくなります。しかしワクチンの増殖自体はコントロールできません。つまりは製薬会社の利益の為にリスクを背負わされるのは他でもない接種者なのです。

mRNA技術は、言うならば人体を薬品工場として利用する技術です。免疫系を刺激するために、細胞のタンパク合成機構によって外来mRNAから抗原タンパクを生産するのがmRNAワクチンの仕組みです。それに対し、自己増殖型mRNAワクチンでは抗原タンパクのみならず、その鋳型となるmRNAも複製され、増殖します。ウイルスのような性質を持つ自己増殖型RNAワクチンでは細胞が言わば「生物学的印刷機」となるのです。

レプリコンコロナワクチンのARCT-154は、蚊によって媒介されるベネズエラウマ脳炎ウイルスの殻の遺伝子をスパイクタンパクに置き換えて作られました。これはまさに殻の無いウイルスというデザインです。そのため、エクソソームを介してワクチンが細胞間を移行する可能性もありますし、他者に伝播する懸念もあります。そのままでは感染性はないでしょうが、ウイルスとRNA組換えによってウイルスの感染性遺伝子を取り入れるような「進化」が起こる可能性が否定できません。

大いなる接種
saRNAワクチン・プラットフォームには欠点もある。遺伝子を追加するため、saRNAワクチンには長い配列が含まれる傾向があり、通常、従来のmRNAワクチンの少なくとも3倍の長さが必要となる。
例えば、有益な免疫シグナル伝達経路を刺激するのに役立つ複製中間体を形成するなどである。しかし、過剰な刺激は逆効果になる可能性がある。例えば、ワクチンが免疫系にRNA複製を阻害するように促し、それによってワクチンの効果が無効になる場合などである。
ベルギーのゲント大学の遺伝子治療研究者であり、ベルギーのメレルベークにあるsaRNAベースの医薬品を開発するジフィウス・ワクチン社の創設者であるニーク・サンダース氏は言う。「自己増殖型RNAの最適な投与量を、適切な送達システムと組み合わせて見つけなければなりません。
バイオテクノロジー業界は何十年もの間、このバランスをうまく取ろうとしてきた。例えば、2003年から2010年まで、ノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パークに本社を置くアルファバックス社は、様々な感染症や癌に対するsaRNAワクチン候補の臨床試験を行った。アルファバックス社は、さらなる投資を得ることができず、最終的に「ビジネス上の理由」で解散したと、同社の共同設立者であるジョナサン・スミスは言う。彼はメリーランド州ゲイサーズバーグにあるVLPセラピューティクス社の最高科学責任者としてsaRNAワクチンの開発を続けている。

mRNAワクチン技術によってカリコ博士が2023年のノーベル医学生理学賞を受賞しました。ノーベル賞は誰もが知る自然科学の最高権威と言っても過言ではありません。しかしながらその陰には、mRNAコロナワクチンが日本のみならず世界中で甚大な被害を生んでいるという事実があります。「権威」を盲信する事がいかに危険かをmRNAワクチンは如実に示しているのではないでしょうか。

今回日本で承認されたレプリコンワクチンは始まりに過ぎません。ノースカロライナ州に本社を置くアルファバックス社は、様々な感染症や癌に対する自己増殖型RNAワクチンの開発を行ってきましたが、現在、その研究はVLPセラピューティクス社に受け継がれています。

不屈の精神の成果
ARCT-154の日本での承認が得られたので、開発者は現在ヨーロッパでの承認を求めている。
「ワシントン州シアトルにあるAccess to Advanced Health Instituteの社長兼最高経営責任者であるコリー・キャスパーは言う。(COVID-19用の別のsaRNAワクチンは、昨年インドで緊急用として承認された。しかし、このワクチンの臨床データがあまり芳しくなかった事、この製品の承認が暫定的なものであった事、インドの規制要件がそれほど厳しくない事などから、業界関係者はARCT-154の承認をこの分野の真の分岐点と見なしている。)
現在、十数種類のsaRNAワクチン候補が、帯状疱疹やインフルエンザの予防注射から癌の治療用ワクチンまで、様々な用途で臨床試験中である。しかし、研究者たちはすでにこのプラットフォームの幅広い応用を考えている。
例えば、マサチューセッツ州ブルックラインにあるキーリコン・バイオサイエンシズの共同設立者であり、ボストン大学の生化学者であるマーク・グリンスタッフは、この技術はいつか体内で治療用タンパク質を生産するのに使われるかもしれないと言う。
現在、製造工場ではバイオリアクターを使ってこのようなタンパク質を製造し、治療が必要な人々に注射している。ここ数ヶ月の間に、VLPセラピューティクスのスミスのチーム、ボストン大学のグリンスタッフとその同僚たちという2つの独立したグループが、saRNAの化学的骨格を変える事によって、この技術の免疫誘発効果を良い意味で弱める事ができるというプレプリントを発表した。同様の化学的調整は、従来のmRNAワクチンでは一般的に行われているが、ARCT-154や他のほとんどのsaRNA製品では行われていない。
スミスは言う、「人々は、このプラットフォームの範囲を拡大するために、かなり懸命に働いている。」「saRNAには固有の利点があります。ただし、私達がそれを利用できるほど賢ければ」。

自己増殖型RNAワクチンは、現在進行形で帯状疱疹やインフルエンザワクチンから癌の治療用ワクチンに至るまで臨床試験が進んでいます。しかしながら、これはワクチンという言葉が使われているだけの別物です。本来工場ではタンパク製剤はバイオリアクターを使って生産するものですが、mRNAワクチンは人体にその代わりをさせるのです。そして、自己増殖型RNAワクチンではタンパクだけではなく、RNAの生産も人体に行わせます。免疫系の副作用を弱めるような加工はARCT-154や他のほとんどのsaRNA製品では行われていません。安全管理はそれぞれの人の体質次第という事でしょうか。

記事中にもあるように、製薬利権は皮肉にも「不屈の精神」で自己増殖型mRNAワクチンのプラットフォームを今後も拡大しようとするでしょう。実はレプリコンワクチンは既に一度2022年にインドでも緊急承認されたのですが、臨床データは芳しくなく、結果的に承認も暫定的なものに終わりました。そういった意味でも、今回の日本での承認は「真の分岐点」であり、「パンドラの箱」を開けたのは他でもない日本なのです。

このNatureの記事の論調からは、著者は全面的にレプリコンワクチンを推奨し、日本におけるレプリコンワクチンの世界初の「真の承認」を含めて称賛しているようにも受け取れます。しかし、その真意は実際どうなのでしょうか。あるいは文字通りそのままなのかもしれません。またあるいは全てが皮肉なのかもしれません。

mRNAワクチンの薬害はコロナワクチンのスパイクタンパクによるものだけで済むものではありません。日本の人々が危機に晒されているのをこのまま我々は見て見ぬ振りをするのか、さらには今後日本が加害者となり得る事態も黙って見過ごすのか。この流れを止めるために何ができるかが一人一人に問われているのです。




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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。

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