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なぜワクチン接種が自己免疫疾患につながり得るのか

ワクチンによって作られる免疫はウイルスに対してのみ向けられるとは限りません。稀ではありますが、副反応として自己免疫疾患に繋がる場合があります。それは本質的には抗体とT細胞の抗原認識の仕組みの違いからくる避けられない問題でもあるのです。

引き続きマサチューセッツ工科大学 (MIT) の総説論文も引用しつつ、コロナワクチンと自己免疫疾患の関連についてお話していきます。

Worse Than the Disease? Reviewing Some Possible Unintended Consequences of the mRNA Vaccines Against COVID-19
Stephanie Seneff, Greg Nigh
International Journal of Vaccine Theory, Practice, and Research 2021
https://ijvtpr.com/index.php/IJVTPR/article/view/23
自己免疫は、COVID-19 の後遺症としてより広く認識されるようになっている。これまで健康だった人が、特発性血小板減少性紫斑病、ギラン・バレー症候群、自己免疫性溶血性貧血などの疾患を発症したという報告が複数ある (Galeotti and Bayry, 2020)。COVID-19の症状後に皮膚症状を呈した全身性エリテマトーデス (SLE) の独立した症例報告が3件ある。1つは39歳の男性で、COVID-19の外来治療の2ヶ月後にSLEが発症した (Zamani et.al.、2021年) 。また、Slimaniら(2021)は、皮膚症状を伴う急速に進行した致死的なSLEの印象的な症例を記述している。

免疫性血小板減少性紫斑病は血小板の減少を呈する病態の一群です。 原因として麻疹、風疹、水痘ウイルス感染が多い事が知られています。抗ウイルス抗体がウイルスと免疫複合体を形成し、血小板膜のFc受容体に付着して感作血小板が生じ、これが脾臓で破壊される事で発症します。

ギラン・バレー症候群は急性・多発性の根神経炎の一つで、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる病気です。

自己免疫性溶血性貧血は自己抗体により赤血球が融解し、溶血をきたす疾患です。この疾患における自己抗体の標的は赤血球膜上の抗原 (バンド3やRhポリペプチドなど) です。多くの症例でIgG型の不完全抗体を主体とし、37℃付近を至適温度とする事から「温式抗体」と呼ばれます。

全身性エリテマトーデス (Systemic lupus erythematosus、SLE) は膠原病の一つであり、全身性の炎症性臓器障害を起こす自己免疫疾患です。抗DNA抗体が原因の1つで、特定疾患に指定されている難病です。DNAやRNAはすべての細胞で共通に使われる遺伝物質です。DNAワクチンや RNAワクチン自身が抗原として認識されて抗DNA抗体や抗RNA抗体を誘発した場合、すべての細胞が攻撃対象として認識される破局的な自己免疫疾患に繋がります。

「大量のワクチンを投与する事の潜在的な副作用の1つは、特に遺伝的に自己免疫の傾向がある個人における自己免疫疾患の合併 (sic) である可能性がある。」
最近発表された論文では、SARS-CoV-2に過去に感染した事のある人には、幅広い種類の受容体や組織に対する自己抗体が見られるという多くの証拠がまとめられている。「31人のCOVID-19元患者全員が、受容体アゴニストとして作用する2~7種類のGPCR-FAAB(Gタンパク質共役受容体機能自己抗体)を持っていた。」(Wallukat et al. 2021) 標的受容体に対するアゴニストとアンタゴニストの両方の活性を含む多様なGPCR-FAABが同定され、頻脈、徐脈、脱毛、注意欠陥、PoTS、神経障害など、COVID-19後の様々な症状と強く相関していた。
同じ研究では、上述のLyons-Weiler (2020) が予測した自己抗体に言及し、明らかに重大な懸念を示している。「Sars-CoV-2スパイクタンパク質は、バイオミミクリーによって誘発される自己免疫プロセスの潜在的なエピトープ標的である[25]。したがって、GPCR-FAABがウイルスに対するワクチンによる免疫後にも検出可能になるかどうかを調査する事が極めて重要になると感じている。」
SARS-CoV-2のスパイクタンパクは、複数の内因性ヒトタンパク質と広範な配列相同性を有しており、自己炎症性疾患と自己免疫疾患の両方を発症させる方向に免疫系を誘導する可能性があるという証拠をここで確認した。このタンパク質は、膜融合による循環系からの排除を妨げる可能性のある2つのプロリン残基を追加して再設計されている事を考えると、これは特に問題である。これらの疾患は、MIS-Cのように急性かつ比較的短い期間で発症する場合もあれば、自然感染やワクチン接種などでスパイクタンパクにさらされた後、数ヶ月から数年にわたって発症しない場合もある。

以前の記事でも触れましたが、脊椎動物に特異的な獲得免疫を担当する主な細胞は「B細胞 (抗体産生細胞)」や「T細胞」です。そして獲得免疫のアタッカーは「抗体」と「キラーT細胞」です。例えばウイルス感染の場合、初動の自然免疫でウイルスを排除し損なった場合に獲得免疫の出番が来ますが、その時ウイルスを直接攻撃するのが抗体です。もしそこでも抗体がウイルスを倒しきれずにウイルスが細胞に侵入したとします。その際にウイルスに感染した細胞ごと殺す役目を担うのがキラーT細胞です。こうした仕組みから抗体による免疫、T細胞による免疫はそれぞれ「液性免疫」、「細胞性免疫」と呼ばれます。

本質的には、B細胞とT細胞の抗原認識の仕組みが異なる事が自己免疫病の発症メカニズムの1つの理由です。B細胞が産生する抗体は、単独で抗原であるタンパクなどを認識できます。これに対しT細胞受容体は抗原そのものを認識するわけではありません。T細胞が認識できるのは主要組織適合抗原 (Major Histocompatibility Complex、MHC) 上に提示された抗原のかけらです。ヒトのMHCはヒト白血球型抗原 (Human Leukocyte Antigen、HLA) とも呼ばれます。MHC (HLA) は最も個人差が大きい遺伝子群です。骨髄移植を行う場合、ドナーと移植対象患者との間では白血球の血液型であるHLAが適合しなければいけませんが、ドナーを見つけるのが困難なのはMHCの遺伝子多型のためです。MHCの遺伝子型によってどんな抗原に結合しやすいかも異なります。これが個人間、あるいは民族間での特定の病気の感受性、耐性にも関係します。

獲得免疫のシステムで自己非自己の識別を持つのはT細胞です。T細胞がT細胞受容体のV(D)J組換えを起こす臓器は胸腺ですが、胸腺のもう一つの重要な機能はT細胞の選択です。胸腺でT細胞が分化する際にMHCと弱く相互作用できるT細胞が生き残り (正の選択)、さらにMHC上の自己タンパクと結合するT細胞は除かれます (負の選択)。こうして自己抗原を認識するT細胞、反応性を持たないT細胞はアポトーシスによる細胞死によって集団から取り除かれます。これらの選別に残った細胞は成熟ナイーブT細胞として胸腺を卒業します。

キラーT細胞が認識するのはクラスI MHC上に提示された抗原のかけらであり、実際にはT細胞受容体は抗原+MHCのアミノ酸を認識します。体内のほとんど全ての有核細胞はクラスI MHCを持っています。ウイルスなどに感染した細胞が、細胞内で分解したウイルス抗原をクラスI MHCに提示すると、キラーT細胞の標的となり抹殺対象となります。

獲得免疫系の司令塔になるのがヘルパーT細胞です。ヘルパーT細胞は自己非自己抗原の識別をした上で、B細胞やキラーT細胞に攻撃の許可を与えます。ヘルパーT細胞に抗原を提示する細胞は抗原提示細胞と呼ばれます。抗原提示細胞は樹状細胞、単球、マクロファージ、B細胞などであり、細菌やウイルスを捕食し、細胞内で分解し、その断片をクラスII MHC上に提示します。抗原提示細胞はMHCクラスIに加えてMHCクラスII分子を持っており、MHCクラスIIを介して外来抗原をヘルパーT細胞に提示する事ができます。

ワクチンやウイルス感染が自己免疫疾患につながる本質的な理由の1つは、「自己非自己の識別を担当するのがT細胞であり、抗体を産生するB細胞自身は自己と非自己の区別ができない」事にあります。2つ目の理由は「T細胞とB細胞が認識するエピトープ (抗原決定基) が異なる」という事です。そして3つ目の理由は「抗体が認識するエピトープは小さいため、外来抗原でも部分的に自己抗原と同様の短いアミノ酸配列を持っている場合がある」という事です。ヘルパーT細胞が外来のタンパクであるウイルスを非自己であり敵であると認識し、B細胞に活性化の許可を与えたとします。T細胞とB細胞が認識するエピトープ は同じではないため、そのB細胞が認識するアミノ酸配列が自前のタンパクに存在した場合、自己抗体の産生が許可されてしまう事になるのです。

COVID-19が陽性であっても、その多くは症状が無い。無症状のPCR陽性例の数は研究によって大きく異なり、最低で1.6%、最高で56.5%となっている (Gao et al., 2020)。COVID-19に感受性の低い人は、おそらく非常に強い自然免疫系を持っている。健康な粘膜バリアの好中球とマクロファージは、ウイルスを速やかに排除し、多くの場合、適応システムによる抗体の産生を必要としない。しかしこのワクチンは、自然の粘膜バリアを越えて注射する事と、RNAを含むナノ粒子として人工的に構成する事で、意図的に粘膜免疫システムを完全に回避している。Carsetti (2020)の論文で述べられているように、自然免疫反応が強い人は、ほとんどの場合、無症状で感染するか、軽度のCOVID-19疾患を呈するだけである。しかし、そもそも必要のないワクチンに反応して抗体が過剰に産生された結果、前述のように慢性的な自己免疫疾患に陥る可能性がある。


コロナウイルス感染とワクチン接種の双方とも自己免疫疾患の発症につながる可能性はありますが、どちらの方がリスクがより高いでしょうか。コメント欄でも同様の質問を何度もいただき、都度お答えしていますので、改めてここで説明させていただきます。

コロナウイルスに自然感染して無症状または軽症で治癒する場合、対処するのはまず第一に自然免疫です。自然免疫は抗体を用いる獲得免疫とは別系統の免疫系です。そして獲得免疫は抗原と出会う場によっても対処法を変えます。呼吸器感染症の最前線に当たる獲得免疫は粘膜免疫です。粘膜免疫で主に誘導される抗体はIgAのクラスですが、これは粘膜免疫担当の抗体で、全身を循環するIgGクラスの抗体とは別のクラスです。こういった意味でも、無症状や軽症の場合の自然感染ではワクチン接種と比較すると自己免疫疾患に繋がる事は限定的でしょう。

また、コロナウイルスに自然感染した場合には、ウイルスは免疫系の抵抗を受けながら増殖します。無症状のPCR陽性者や軽症者ではスパイクタンパクの暴露量は限られるので、大きく暴露されるのは重症者の場合と考えられます。それに対しコロナワクチンは接種後に細胞内でスパイクタンパク生産を開始しますので、量はいきなり最大量に達します。1-メチルシュードウリジン修飾されたmRNAワクチンは分解されにくく、長い間スパイクタンパクを生産します。スパイクタンパクへの暴露量はワクチンの方がずっと多いでしょう。つまり、ワクチン接種者はもれなく大量のスパイクタンパクに暴露されます。一方、コロナ感染の場合大量のスパイクタンパクに暴露される確率は、コロナ感染確率 x 感染してから重症化する確率となり、ワクチン程ではないという事です。


以上、MITの総説論文から紹介したかった事項はひとまずこれで一区切りになります。私がこのマサチューセッツ工科大学 (MIT) の総説論文を度々トピックとして引用させていただいてきた理由は、この総説論文が今回のコロナワクチンの問題を様々な切り口から非常によくまとめているからです。「総説論文」とは、いわゆる研究論文のように新しい事実や分析を報告するというよりは、既に公表された題材を総括的に再提示するものです。このMITの総説論文は査読済みです。ただ、良い研究者が論文を読む際には「査読を通ったからこの論文内容は絶対に正しい」「未査読だからくだらない論文だ」とは考えません。査読というものはpeer review (ピア・レビュー) によって行われます。つまり「仲間内による審査」です。同分野の専門家によって審査されるわけです。これは世の中のあらゆるジャンルで起きる事ではあると思いますが、審査は必ずしも公平でも公正でもありません。

世に出た論文の「究極の査読」とは最終的には読者によるものでしょう。良い研究かどうか、正しい研究かどうかは専門家、非専門家を問わず読者が判断すれば良い事です。研究も流行り廃りの激しい世界です。たとえ一流雑誌に通った論文でも2、3年もすればほとんど思い出されなくなるような研究もあります。そしてその逆もあります。長い時間が経っても忘れ去られる事無く、評価され続けているのは良い論文の一つの指標と言えるでしょう。「時間」も究極の査読です。今回のこのコロナ騒動は「権威主義」の無意味さを教えてくれていると思っています。私はこのMITの総説論文はコロナ騒動が終わった後も多くの方が思い出せる論文として残るのではないかと思っています。





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*記事は個人の見解であり、所属組織を代表するものではありません。


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