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対ユニコーンファイナンスは普通のVCファイナンスとどう違う?

世界的にレイトステージ投資家が充実しつつあり、それに伴い日本でもユニコーンが増えていくはず。その時代の到来を前に、予習として、対ユニコーンのファイナンスは通常のVCファイナンスとどう違うのか?を、シリコンバレーでの潮流を踏まえて解説しました。

レイトステージは投資家の性質が違う

ユニコーンなどのレイトステージになってくると、投資家の性質が変わってきます。

レイトステージより前のベンチャーキャピタルは、基本的に、稀に出るホームランを狙います。他方でレイトステージの投資家の標語は、「低リターンを素早く確実に」(※1)。

(※1:「素早く」は、ストラテジックな投資家はこれを求めないなど、ケースバイケースですが、簡略化のためにここに含めています。)

レイトステージ投資家の特徴
  ・リターンは2x〜5x程度でも良い
  ・リターンに確実性が求められる
  ・リターン実現に迅速性が求められることがある

この「低リターンを素早く確実に」という投資家の性質ゆえに、レイトステージファイナンスでは以下のような通常のVCファイナンスに見られない特殊な条項が見られます。

定期配当条項

通常のVCは、スタートアップからの株式配当を求めません。会社に配当する余力があるなら投資に回してもらって会社のバリュエーションを高め、最終的なキャピタルゲインの増加を狙うからです。
他方でレイトステージ投資家は、「低リターンを素早く確実に」を実現するため、「各期に●%配当する」という義務規定を求めることがあります。

IPOラチェット条項

レイトステージでは、IPOが間近になってきます。会社のバリュエーションもかなり高額になっています。
そうすると、そのタイミングで投資するレイトステージ投資家としては、「自分の投資時の一株あたりの株価がIPO時の一株あたりの株価に満たない」というシナリオも十分にあり得ます。その場合には、IPOが実現してもレイトステージ投資家はリターンがマイナスになってしまいます。
こうしたリスクを軽減するために、こうしたシナリオが顕在化した場合には、自分の投資時の一株あたりの価額をIPO時の一株あたりの価額(&一定のディスカウント)に引き直し、不足分の株式を当該投資家に追加で割り当てるという条項が見られます。

高マルチプルな優先分配条項

通常のVCファイナンスでは、現状、優先分配条項は投資家の投資額の1xがほとんどです。しかし、レイトステージファイナンスでは、「低リターンを素早く確実に」を確保するために、1.5xや2xの高マルチプルな優先分配条項が規定されることが徐々に増えてきます。
具体的には、以前執筆した以下の記事をご参照ください。

株式買取請求権

IPO投資家が「低リターンを素早く確実に」実現するための手段として、「●年以内にIPOしない場合、投資家の請求により、会社は投資家の保有株式を買い戻す」という規定がされることがあります。
シリコンバレーのVCファイナンスでは基本的にこうした株式買取請求権は規定されませんが、レイトステージの場合は、例外的にシリコンバレーでもこうした株式買取請求権が規定されます(※2)。

(※2:ただし、日本では、そもそもこうした株式買取請求権はレイトステージより前のVCファイナンスでも規定される例が多いです。)

転換比率調整条項

通常、希釈化防止条項(※3)が発動しない限り、投資家に割り当てられる優先株式は、IPOの際に1対1の比率で普通株式に転換されます。

(※3:同条項については以前執筆した以下の記事もご参照ください。)


もっとも、レイトステージのファイナンスでは「低リターンを素早く確実に」を実現するために、「投資時から●年以内にExitが実現しない場合、優先株式と普通株式の転換比率を1対2にする」といった、転換比率を上昇させる条項が設けられることがあります。

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