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あれは何だろう?

何でも気づいちゃうよ。だいたいは、向こうが近づく前からわかってるんだ。でも、ちゃんと確認しないといけないから、ちゃんと見ている。何なら、気になるもののところまで駆けつけることもできるんだけど、そんなことはしない。

どうしてかって? そりゃ、ここにいる、ということが大事だからなんだ。

風が吹いても、少しくらい暑くても寒くても、たいていはここにいる。雨が降っても、ここにいるかもしれない。それがお仕事なんだ。

ここにいるっていうのが仕事って、簡単なものだなって?

そんなことはないよ。しんどいんだよ。たいていは変化がなくて、なかなか時間が過ぎなくて、少しイヤになる時もあるんだよ。でもね、じっと耐えているんだ。ホントはイヤなのかもしれないけど、それが仕事だから、じっとしている。

その代わりに、いろんなものを聞いたり、においを探したり、通り過ぎるものを見ていたりするんだ。

怖いものが通り過ぎる時もあるんだよ。そんな時は思い切り吠えるんだけど、「あんまり吠えちゃいけない」なんて言われるから、我慢する時もあるけど、本当はちゃんと怖いものを退治したい気分なんだ。

怖いものは目に見えないというか、人には見えなかったり、影だけだったり、かすかな匂いだけだったり、いろいろな様子があるんだけど、ボクらが感じるのは確かなんだ。そこにやって来るんだ。

だから、思い切り吠えてやるんだ。そうすると、不思議なことに、確かに怖いものは逃げていくんだよ。ボクが役に立った瞬間さ。気づいたものだけが知っている、すごい業績なんだよ。

怖いものを放置したままにしていたら、すぐにヤツらはのさばっちゃうよ。そういうものなんだ。怖いもの、いろいろあるから気を付けなくちゃ。

さあ、ここにいて、異常があったら知らせるよ。それがボクのお仕事。えらいでしょ? そんなにえらくないか、まあ、当たり前かな。ボクたち、察知力がすごくあるんだもんな。すぐにわかってしまうんだもんな。

人間って、すごく鈍感なのかもしれないよ。でも、その人間と一緒に過ごすこと、ボクは好きなんだ。どうしてなんだろう。エサを工夫してくれるからじゃないよ。ボクは、人間という愚かな生き物が好きなんだよ。何もわからなくて、ケチで、うるさくて、同じことばかりして、同じ失敗ばかりしてる。それでも、人間は自分たちのしあわせを探して、何かしている。それを支えたい気持ちもあるんだ。

だから、いつもボクはここにいて、あれは何だろう? なんて思って暮らしてるんだ。ボクも同じことをしているのかな。つながれてなかったら、とことんこの世の怖いものを吠えたててしまうからね。つながれてても平気。とにかく、ボクはここにいるんだ。

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