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マダム・カマキリ atアボカド

ワタシ、マダム・カマキリ、もうすぐ本当のお母さんになるんですよ。アボカドの葉のうらは広くて、雨にも強いし、風が吹くと騒がしいけど、まあまあ気に入っていました。ここに子どもたちを託そうかなとも思ったんです。

でも、何だか人間がうるさく騒ぐので、他の木のところへ行くことにしました。子どもたちが生まれて来る場所というのは大変です。固いカラにくるんでますから、他の生き物が悪さしようとしても、簡単にはね返すのだけれど、子どもたちが出てくるまで時間がかかるので、わたしも忘れて、どこかへ行ってしまうことが多いんです。それが辛いけれど、わたしたちの一族はそんな風にしてこの世に生まれて来ることになっていますから、子どもたちもそうした運命を受け入れてもらえるのかな。

はじめてこの世に出てきたら、どんな世界が見えるでしょうね。わたしは今ある環境の中から、一番いいところだと思って子どもたちを託すんですけど、子どもたちには何も見えてないでしょうね。闇雲に生きてくれるかな。みんなで固まって、苦難を乗り越えて大きくなってもらいたいです。

だから、というわけではないけど、こんなところで一日逆立ちして、風や空気や他の生き物たちを観察し、適当な時期を見計らっています。これから、寒くなるけど、そういうのも乗り越えてもらわなくちゃ。ああ、何て大変なことでしょう。生きるって、ほんとに大変です。

ひとりずつみんなを助けてあげたいけど、それはできない定めなんですものね。悲しいけど、受け入れていきます。子どもたちの未来を信じています。そういう気持ちです。