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2018年映画ランキング

※この文章は2018年12月31日に書いたものです。

<はじめに>


早いもので2018年ももう終わりですが、いかがお過ごしでしょうか。毎年観た映画を記録するようになってから今年で6年になります。今年は史上稀に見る傑作映画の豊作イヤーでした。恒例のベスト10作りが最も難しかったです。
 今年はで72本を劇場で鑑賞し(12月20日時点)、旧作3本を覗いた新作69本のランキング及び講評をつけました。最後に俳優の演技など各部門の表彰もあります。来年の映画が、そして何より世界がより素晴らしくなることを心から願っています。

【ベスト10】

1 未来のミライ
2 1987、ある闘いの真実
3 君の名前で僕を呼んで
4 菊とギロチン
5 アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル
6 勝手にふるえてろ
7 バトル・オブ・ザ セクシーズ
8 シェイプ・オブ・ ウォーター
9 カメラを止めるな!
10 犬ヶ島

【次点の5本】
・デトロイト
・フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
・ウィンド・リバー
・万引き家族 
・Crazy Rich Asians(邦題:クレイジー・リッチ)

【☆×5 文句なしの傑作10本】
・華氏119
・リメンバー・ミー        
・クワイエット・プレイス
・ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル    
・孤狼の血        
・ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書
・15時17分、パリ行き
・レディバード
・スリー・ビルボード
・タクシー運転手 約束は海を越えて 

【☆×4】
・デッドプール2  ・食べる女 ・犬猿  ・レディ・プレイヤー1
・娼年  ・バーフバリ 王の凱旋 ・バーフバリ 伝説誕生
・ヘレディタリー/継承 ・インクレディブル・ファミリー  
・バッド・ジーニアス 危険な天才たち ・ボヘミアン・ラプソディ  
・来る ・タリーと私の素敵な時間  ・羊の木
・ペンギン・ハイウェイ  ・デス・ウィッシュ ・ダウンサイズ
・ビッグシック 僕たちの大いなる目ざめ ・MEG ザ・モンスター
・RAW 少女のめざめ ・アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー  
・ファントム・スレッド  ・ブラック・パンサー
・ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ  ・アンダー・ザ・シルバーレイク
・ミッション:インポッシブル/フォールアウト

【☆×3】
・ちはやふる 結び  ・空飛ぶタイヤ  ・モーリーズ・ゲーム
・search/サーチ  ・レッド・スパロー  ・オーシャンズ8  ・斬、
・キングスマン:ゴールデン・サークル
・ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男  
・The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ ・ヴェノム
・サニー 強い気持ち強い愛  ・ジュラシック・ワールド/炎の王国 
・ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー
・友罪  ・50回目のファーストキス  ・のみとり侍  
・さよなら僕のマンハッタン  ・アバウト・レイ 16歳の決断

【☆×2 ワースト&ブービー】
・グレイテスト・ショーマン
・トゥームレイダー ファースト・ミッション



<ベスト10の講評 ①実録モノ3本>


 毎年、ベスト10を作る時にはその年の潮流からテーマを決めて選考しているのですが、今年はどの作品もバラバラで個性に溢れているなあという印象です。全体的なことを言えば、近年は実録モノが強い気がします。
Based on a true story(実際の出来事に基づく)みたいな文字から始まり、エンドロールで登場人物たちのその後の人生が字幕で語られたり、本人たちの写真やフッテージ映像が流れるタイプの作品のことです。


たとえば大ヒット中の「ボヘミアン・ラプソディ」がそうだし、1967年のアルジェ・モーテル事件を描いた「デトロイト」、ベトナム戦争の戦況調査報告をスクープしたワシントン・ポストのジャーナリスト達の奮闘を劇化した「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」そして2015年のタリス銃乱射事件でテロを未然に防いだ3人の若者に、イーストウッドが役をそのまま演じさせた「15時17分、パリ行き」など枚挙にいとまがありません。

僕のベスト10にも「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」、「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」、「1987 ある闘いの真実」と3本の実録モノを入れています。この3本が他の作品より優れていたのは、事実をいかに物語として脚色していくかの手際の良さにあります。
 映画には物語の単純化という避けられない本質があります。我が家のホームビデオならば延々観れても、「誰かの話」に金を払い2時間観るのだから、面白かったり・怖かったり・感動したり・考えさせられる。そういう一番いいとこだけしか観たくないですよね?そうすると実在の人を映画化したとしても、その人のある一面しか捉えることは出来ません。キャラクターの強調したいとこは誇張して、逆に必要ないところは描かない。事実とは乖離しても、物語としてはより見やすくなる&面白くなるのです。

7位の「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」が凄いのは、映画の「単純化」の構造を私たち観客にあえて意識させるのがミソになってることです。予告だけ観れば、元世界ランク1位のテニス選手で女性差別主義者の男vs現役世界ランク1位の女子プレーヤーの「性別を超えた闘い」が話の軸なのかなと思うはずです。


ところが映画を観ると、実際はスティーブ・カレル演じるボビーは女性差別主義者でも何でもなく「炎上商法」としてピエロを演じていることが分かる。しかも彼が勝負にわざと負けたがっているのではないかと匂わせるシーンが散見される。一方でエマ・ストーン演じるビリー・ジーンも試合どころじゃない問題を抱えていたりして・・・と、以上は結末に関わるので言いません。ただこの映画の「きれいごとで割り切れるほど人は単純じゃない」という含蓄あるラストに痺れました。(逆にいえば普遍的カタルシスを排除しているので期待外れと思う人も多かったかもですが…)


5位の「アイ、トーニャ」は大好物の「ホワイトトラッシュもの」(貧乏白人成り上がり映画)の新たな傑作です。これも事実をありきたりに単純化せず、トーニャ・ハーディングの主張と、元夫のジェフの主張の食い違いをそのまま映像化して、混乱させられるけどそれが楽しいタイプの作品です。なにより最後の10秒にグッと心を掴まれる!世界中から目の敵にされ、何もかも失い、それでもまだ闘うんだっていうあのラストは、映画の「嘘」だと知ってるからこそ、美しくて切なくて、泣けます。


鬼気迫るとはこのこと マーゴット・ロビーの怪演


 2位の「1987、ある闘いの真実」は韓国の民主化闘争を映画化した素晴らしい作品です。軍事クーデターによって実験を握ったチョン・ドゥファンを退陣に追い込むきっかけとなったデモがどうやって広がっていったのかを描いています。

昨年デモの力でパク・クネを弾劾したタイムリーさもあってか、韓国では大ヒットしました。この映画は脚本が非常に良く練られています。いわゆるオールスター映画で、個々の登場時間は短いけど、どのキャラも立っているし、物語のストーリーも入り組んでいるのに飲み込みやすい。要するに「単純化」が完璧なんです。
 そして台詞に頼らず、小道具を使って人物の心情の変化を説明する映像設計が卓越しています。こうしたテクニックだけでいえば今年見た映画の中でダントツで、一番上質な映画と言っていいと思います。韓国の今一番勢いがある&脂の乗った俳優達による演技合戦も楽しめるし、正直邦画でいう「七人の侍」クラスのマスターピースとして、韓国映画史に刻まれる1作だと思っています。


<② 「ハードルが高い」恋愛を描いた3本>


 次に「恋愛映画」が近年変わってきたという話。とりあえず僕が生まれたからの日本は「自由恋愛当たり前の時代」に入っているのかなと思います。「お見合い結婚」は少なくなってきたし、身分差がどうとか家柄の違いがどうということが障害になりづらい今、「恋愛の成就」はもはやドラマたり得ないのではないか?もちろん「恋愛の成就」に特化した漫画とかティーン向けのドラマ、「バチェラー」や「テラスハウス」などのリアリティショーは今も若者の話題の中心を担ってます。


 しかし映画において恋愛の「入り口」だけに2時間かけられると、タルいしツラい!だからいわゆる「難病モノ」みたいに、2人の壁となる「ハードルの設定」が不可欠になってきます。
 たとえば去年の僕のベスト映画「散歩する侵略者」は、長澤まさみと松田龍平の身体を則った宇宙人の恋愛物語です。それだけ言うと突拍子もない話ですが、僕はこの年の全ての映画の中で最も心を揺さぶられる純愛だと思いました。「人間と宇宙人の恋愛」ぐらいオオミエ切らないと満足できない時代に入ってきたのかもしれません。


 その証拠に8位の「シェイプ・オブ・ウォーター」(以下:SOW)は人間と半魚人の恋愛映画です。しかも「散歩する侵略者」は宇宙人の見た目がまだ松田龍平だし、言葉も通じたけど、「SOW」は見た目が完全にモンスターで気持ち悪い。言葉も通じないし、海水に浸かってないと生きていけません。

もう恋愛する上でこれでも買ってぐらいハードルがある。話として成立すんの?と、思うかもしれませんが本当に美しいラブストーリーに仕上がっています。何より、アカデミー作品賞を獲ったことがそれを証明しています。

揺らめく水の表現、デスプラの音楽もさることながら
サリー・ホーキンスの演技はこの映画にマジックをもたらしている


6位の「勝手にふるえてろ」は一見、普通の恋愛映画じゃんと言われてしまうかもしれません。同じ日本人だし、同じコミュニティに属している男女の恋愛だから明確な「ハードル」がないと思えます。ところが、この映画は自分のことが見えない相手を想う透明人間の話なのです。それただの片思いじゃんって?いやいや、違います。ドン引きすることがある時に「怖っ」ってつぶやきますよね?この映画は自我が膨張し過ぎて、それが逆に自分の首を絞めるハードルになってしまう自我ホラー・コメディです。詳しくは以前書いた評を見てもらえればと思います。

松岡茉優はこの作品で蒼井優、満島ひかりの系譜を継ぐ次世代の映画ヒロインのポジションを確固たるものにしたと思います。


そして3位の「君の名前で僕を呼んで」は、とにかくもう画面から音楽から何から何まで美しい1本です。この映画の「ハードル」は同性愛。ただ普通なら主人公エリオが年上の男性オリヴァーに惹かれる過程で、「同性愛」に葛藤したり悩むものですが、そういう展開にならないのが本作の特徴。むしろこの映画は「たまたま初恋の相手が男性だった」というスタンスで、いくらでもシリアスにできたりテーマの軸に据えられる「同性愛」の問題をごく軽いタッチで描きます。
 それ以上に初恋のみずみずしさ、高揚感を繊細なタッチで描くのです。この章の頭で「入り口ばかり見させられるとタルくなる」と言いましたが、演出次第でここまで見入ってしまうものにも出来るのだなと脱帽しました。

 とはいえ単に純愛だけの物語ではありません。エリオが可愛い女の子をもて遊んだ挙句ヤリ逃げするドイヒー展開もあります。それも含めて、観た人全員が恋愛をまだ何も知らない「ウブな頃の自分」へのノスタルジーに浸ることができる作品だと思います。そして、それまで全くハードルではなかったはずの「同性愛」の問題が最後に突然大きな障害物となって突きつけられます。現実に茫然自失のエリオ。それを表現する長回し1カットのクロースアップでの主演ティモシー・シャラメの表情は必見です!

とんでもない新人が現れたなという感じ。この映画を今年の1番に推す人は多いと思いますし、正直今までゲイのラブシーンにあまりノレなかった僕が、初めてウットリしてしまった作品なので幅広い人に見て頂きたい珠玉の名作です。


<③ 個人的にと世の中的に>


 ここまで僕が紹介してきた映画はオスカーを獲った「SOW」を除けば、興行面ではヒットしてないかもしれません。世の中的な今年の作品といえば「カメラを止めるな!」だろと。


 この作品、「ここをもっとこうすれば良かった」というのが1つも思いつかないほど完成されていると思います。もう少し説明的だと展開が読めてしまうし、逆にもう少し不親切な設計なら観客全員をあのグルーヴに巻き込めない。その塩梅が完璧すぎてもはや何も言う事はありません。


 だけど上田監督にはもっと凄いものを作って欲しいという思いがあったりします。これはまだ「低予算だからこその作品」であって、この「だからこそ」から脱却できるかどうか、そこを見てみたい。
「1987」を観れば、そりゃ金はかけられるだけかけたほうがいいし、俳優も豪華なら豪華な方がいい。「カメラを止めるな!」内でも描かれるように映画はチームワークの結晶です。
次回以降、もっと大きなバジェットでもっと技術の高いチームで作る作品がどうなるか。そこに本気で期待しています。これがベストであって欲しくないという思いがあるからこその9位という位置です。(あとはこれを1位にする人はゴマンといるでしょうし)


 世の中的には今年の邦画は「万引き家族」と「カメラを止めるな!」かもしれませんが、個人的な今年の邦画のナンバーワン(劇映画)は、瀬々敬久監督が30年の構想を経てクラウドファンディングによって完成させた「菊とギロチン」です!「何それ?」という人が多いと思いますが、とにかくこの映画は人間のあらゆる感情が詰まっていて、しかも日本のタブーをあぶり出して痛烈に批判し、体制に闘いを挑み散っていった若者の悲劇を悼み、抑圧される女性たちへの讃歌を贈り、そして何より痛快青春群像劇になっている。もの凄くたくさんの要素を詰め込みに詰め込んだ幕の内弁当ならぬ、バイキングランチのような映画です。


 舞台は大正、関東大震災直後で軍事国家に突き進んでいきます。実はこの時に女相撲の興行をする団体があり、本作は彼女たちの物語でもあります。
今年の4月に京都で日本相撲協会が人命救助をしようとした女性を土俵から出るようにアナウンスした問題がありました。相撲の女人禁制は伝統・歴史的なものというのは、この映画を見れば作られた虚構だと分かります。


また本作は中浜哲という実在のアナキストの反政府活動がもう1つの物語の軸になっているのですが、ここで彼が暗殺を企む警察幹部が正力松太郎です。この人がどんな人間だったか、映画を観た後に調べて愕然としました。

ヘイトスピーチだったり、今年の日韓問題など、いまの日本を取り巻く問題が80年前から通底していることにも驚きましたが、何より本作は「カメラを止めるな!」のように低予算の自主制作映画であり、58歳でこれだけパンクでフレッシュで文字通り大爆発する映画を撮った瀬々監督恐るべし。3時間が一瞬に感じる傑作「菊とギロチン」が堂々の4位です。

ヒロインの木竜麻生は数年後には大化けしているはず


 そして今年最も楽しみにしていた映画が10位の「犬ヶ島」でした。何しろ僕は全ての映画監督の中でウェス・アンダーソンが一番好きですし、「グランド・ブタペスト・ホテル」から4年間ずっと新作を待っていました。

新作の舞台が日本で、黒澤明や宮崎駿にオマージュを捧げたような作品になると発表された時からテンションは爆アガリ。いわば2018年は「犬ヶ島」を観るためだけに頑張ってきたといっても過言ではありません。


 じゃあなんで10位なんだよ、という矛盾についてはこれから説明します。初見時に「犬ヶ島」を観たとき、当然面白かったんですがいくつか困惑する点がありました。まず1つは「情報量の多さ」です。日本人は漢字が読めてしまうせいで、映像に散らばる文字が気になってしまい本編の字幕を追えないんです。


 もう1つが唐突な結末。初期のウェスはハリウッド的な明快な着地を嫌い、分かりやすいエモーションを排除するクライマックスが多かったのですが、「ファンタスティックMr.FOX」以降万人向けの娯楽方向に寄せていきました。しかし今回は、全体的には過去最高に娯楽活劇なのに唐突に話が収束し、観客の頭にクエスチョンマークを残す結末になっているのです。
 そこでBlu-rayを購入して見直した結果、あれは「悪い奴ほどよく眠る」をひっくり返しているのではないかと結論づけました。


 ファンタジーくらい善意が人間を動かす世界であって欲しいと願ったのか、アニメを観る子どもに対して大人が恥ずかしい存在であってはいけないと考えたのかは分かりません。ただ偶然ですが、ウェスのこの結末のファンタジー性はいまの日本を皮肉っているようで、そんな意味でも今年の10本に入るにふさわしい作品じゃないかと思います。


<④悪評なんて関係ない!これが今年のベスト>


 そして栄えある今年の1本、年間ベストは・・・細田守監督作品「未来のミライ」です!なぜ、この映画が1位かというと観ていて一番落涙した映画だからです。上映時間100分弱の中で、実に60分くらいは涙が止まりませんでした笑。そんな映画は初めてです。ということで迷わず今年のベストに・・・と言いたいところですが、正直けっこう迷いました。というのも世間的にはこの映画、かなり酷評されているからです。

 前述したように質の高さだけでいえば「1987」の方が良い映画なのは間違いないと思います。「未来のミライ」が叩かれる理由も分からなくはなくて、この作品は「天丼ギャグ」や同じことを何度も何度も繰り返す演出が多いんです。だからノレない人が多いと

「しつけえよ!」「全然、面白くないのにまだやるの?」

と思ってしまうんだと思います。あと冒頭から映像だけで状況描写をすることに徹している分、情報を整理しづらいんだと思います。
 さらに細田監督の代表作「時をかける少女」「サマーウォーズ」みたいなザッツ・エンターテイメントな冒険活劇を期待すると、今作はすごくミニマムな世界に感じて、退屈に思うのかもしれません。

 かようなマイナスポイントは重々承知で、それでも僕がこの作品を一番だと言いたいのは個人的なことです。物語の主人公くんちゃんの両親は共働きで、僕もそうでした。
くんちゃんは4歳なので物事の善悪とか分別がつかず、自分の欲に任せて行動し、思い通りにならないと泣いたり駄々をこねたりします。そんなくんちゃんには妹のミライちゃんができるのですが、おかあさんが自分よりミライちゃんを世話することが許せないし、その理由も理解出来ずにミライちゃんをおもちゃで殴ったりします。僕はひとりっ子なので、まさにこの時のくんちゃんの精神状態のまま大人になっていったように思います。故に独占欲が強かったり、自分の思い通りにならないことにすぐイライラしてしまう所もよく分かる。

 映画はくんちゃんが未来から来た高校生のミライちゃんと一緒に、過去にタイムスリップして自分のお父さんやお母さん、お爺ちゃんの若い頃を訪ねるオムニバス形式の物語になっています。
僕が特に感動したのはおかあさんを巡るエピソードです。おかあさんはおもちゃを片づけないくんちゃんを怒鳴ります。仕事と育児を両立することの難しさから時々あたってしまうのです。
くんちゃんは「お母さんは僕のことが嫌いなのかな」と考えますが、おかあさんが同い年くらいの過去にタイムスリップし一緒に遊んで仲良くなります。2人は家の中をグチャグチャにしてしまい、おかあさんは母親(くんちゃんの祖母)に怒られ泣いてしまう。
 実はおかあさんもくんちゃんと同じように片付けが出来ない人なのです。一方現在に切り替わると、おかあさんが母に子育ての悩みを打ち明ける場面があります。そしておかあさんは自分の親も完璧じゃなかったなと思い返し少し気が楽になります。

 僕も、僕の母も片付けが出来ない人間でいつも家を散らかしては父に怒られていました。父はよく、母のだらしないところがお前に遺伝したと言いました。僕はそれがすごく疎ましくて、思春期には母と自分に共通する「ナニカ」が許せませんでした。
だけど、この映画ではたとえ一般的にはネガティブなものが遺伝しても、それさえも家族の「しるし」なんだということを優しい視点で提示しています。くんちゃんがおかあさんと自分のダメなとこを認識したように、おかあさんは自分の母に怒鳴られたことを思い出して、自分のくんちゃんへの叱責を反省するし、いつかくんちゃんが大人になった時には仕事と家事を両立しながら、自分を育てなければならなかったおかあさんの精神的ストレスが理解出来るかもしれない。


親からダメなものを受け継いだからこそ、より深い家族愛が生まれることもあるのではないか。今まで言語化・ビジュアル化出来なかったものを世界に創造した。そのことだけでこの映画は本当に偉大だと思います。少なくとも僕にとっては刺さったし、心が解放された気持ちになりました。だからやっぱりこれがベストです!


追記:細田監督の家族観への批判が多いことについて。今年を代表するホラー映画『ヘレディタリー/継承』は逆に、親の遺伝とか血の繋がりを恐怖として描いていました。『未来のミライ』と『ヘレディタリー』は同じテーマを全く別のベクトルで語る作品です。でもそれこそが映画だと思います。

例えばウェス・アンダーソン作品の脚本家として名が知れたノア・バームバックは『ライフ・アクアティック』や『ファンタスティックMr.FOX』では家族を厄介だけどポジティブなものとして描きます。
一方で初監督作の『イカとクジラ』は、親が必ずしも正しいとは限らないし、だから親にいつまでも支配される必要はないという物語です。

要するに「家族」に対する答えはたくさんあっていいものだし、こうでなければいけないというものはないはず。細田監督の価値観は確かに特殊なのかもしれませんが、それを押し付けるような作品だとは思いませんし、ましてそれが浅はかなものではないと考えています。


<⑤その他どうしても触れたい映画いくつか>


 トップ10に入れるかどうかで最後まで迷ったのが次点の5作です。
「デトロイト」はとにかく怖くて胸クソ悪くて最後まで全く救われない点で、キャスリン・ビグロー監督作の中で抜きん出て後味が悪いため、覚悟して観るべし。

「フロリダプロジェクト」と「万引き家族」はテーマ的にも似ているものが多く、どちらも美しい映像と厳しい現実、愛らしい子どもの未来を思わずにいられません。

「ウィンド・リバー」はアメリカの暗部をえぐるテイラー・シェリダンらしい現代西部劇。これもツラくてビターでしかもバイオレント。


 そしてオールアジア人キャスト&アジア人監督で製作された「Crazy Rich Asians」(邦題:「クレイジー・リッチ!」)が日本で全然話題にならなかったことについては正直ホントにガッカリです。全米で興収1位ですよ!これ以上の歴史的偉業があるのでしょうか?そのことを極東アジアの国が評価しなかったのは、素直に悲しい。だからこそ書く必要があると思いました。


 今年みた72本の中で、最もライトにサクッと観れちゃう1本。話も普通のアラサー女子が超金持ちの彼氏の玉の輿に乗ろうとしたら、母親が結婚に反対して次々とライバルの女が登場する・・・ただそれだけです笑。


シンデレラ、花より男子、バチェラー、そういう日本人の大好物ジャンルです。ところが「よくある話でしょ?」程度に思って観るとグイグイ引っ張られて、最後には涙が・・・コレはマジです。めちゃくちゃ良く出来てる。やっぱり主演のコンスタンス・ウーがそんなに美人じゃない(お笑い芸人のキンタロー似)ところが良い。
最初はずんぐりむっくりしてて、ライバルの方がモデル体型だし美人だし、でも「アタシは負けない」っていう展開は男女関係なく胸を打ちますね。
ベスト10にほとんど王道の映画がない分、「Crazy Rich Asians」は本当にオススメです。なぜ邦題を使いたくないかというと、よくこの文脈で「アジアンズ」を抜いたよねって怒りです。なんなら僕は「高輪ゲートウェイ」よりも許せないネーミングです笑。

 あとは「リメンバー・ミー」も号泣につぐ号泣だったんですが、「未来のミライ」とテーマ的にかぶる部分が多かったのでランク外になりました。ただ「リメンバー・ミー」の方が分かりやすく感動出来ると思います。それから「1987」と併せて観ておきたいのが「タクシー運転手 約束は海を越えて」で、日本人には馴染みのない光州事件を描いた作品です。あとサクッと観ることができる&地味に傑作なのが「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」です。


近年、「ピッチ・パーフェクト」や「スパイダーマン:ホームカミング」、「レディバード」、「レディ・プレイヤー1」などなど、ジョン・ヒューズ監督作品にオマージュを捧げたり、映画全体が多大な影響を受けた作品が凄く増えていて1つの流れになっていますが、本作もその1つです。オリジナルの「ジュマンジ」のリメイクというよりも、むしろ「ブレックファスト・クラブ」をリメイクしたようなテイストになっていて、中高生に見てもらいたい映画No.1って感じです。ジョン・ヒューズ・リバイバルの新たな良作がまた1つ加わった感じがします。


一方でいい映画もあれば、悪い映画もある。コレはないなって作品は「グレイテスト・ショーマン」と「トゥーム・レイダー ファースト・ミッション」の2本。
「グレイテスト・ショーマン」はまず画面をショボいCGに頼りすぎ!それにクライマックスがダイジェストで全然盛り上がらないし。あと多様性を讃歌する歌でメインのキアラ・セトルとゼンダイヤばっかりワンショットで抜く編集とか、とにかく何もかもがちぐはぐな印象を受けました。事実を捻じ曲げてることが評論家の主なバッシングの理由ですが、まずそれ以前に話運びがヘタすぎます。

 

ただ「トゥーム・レイダー」に比べれば、「グレイテスト・ショーマン」は全然マシです。この映画に関しては、「よくもまぁ・・・」以上の言葉が見つからない。

特にアジアの描き方、アジア人キャストの使い方が酷すぎる。「Crazy Rich Asians」とか「オーシャンズ8」とか娯楽映画なら当然チューニングすべきはずの部分をよくもまぁこんな前時代的にできたよね。
しかもこの映画、スクエニも製作に入ってますからね。

それであの日本描写はないよ...

本当に太鼓判を持って「見なくていい映画」です。アリシア・ヴィキャンデルというまだ30歳にして既にオスカーも獲得している素晴らしい若手女優の無限の可能性があったキャリアに大きな傷をつけてしまった1作です笑。

<さいごに>


 今年は本当に面白い映画が多く、また例年よりも映画が社会現象になって取り上げられる機会も多かったように感じる年でした。
 平成が終わるとか新しい年が始まるとか、そんなこと関係なく毎年が勝負、毎日が挑戦ではないでしょうか?映画を観ることは現実逃避でもあり、現実と向き合うための脳の再起動でもあります。来年も映画を観て、思いっきり楽しみ、思いっきり泣き、その中で感じたことを記録し、実人生に繋げていきたいと思います。
 文末におまけで恒例の各部門の表彰をまとめてあります。それでは皆さん、良いお年をお迎えください、そして来たる新年もどうぞよろしくお願い致します。


【第6回 HIROSCARS(僕のアカデミー賞)】


<主演男優賞> 松坂桃李「娼年」


<主演女優賞> シャーリーズ・ セロン「タリーと私の 素敵な時間」


<助演男優賞> トム・ハンクス「ペンタゴン・ ペーパーズ 最高機密文書」 


<助演女優賞> オークワフィナ 「Crazy Rich Asians」 


<新人賞> 木竜麻生 「菊とギロチン」



<監督賞>
バレリー・ファレス&ジョナサン・デイトン
「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」


<最悪役賞> イッサヤー・ ホースワン
「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」


<フォトジェニック賞>    広瀬すず「ちはやふる 結び」


<最優秀オープニング賞>  カメラを止めるな


<最優秀エンディング賞>  アイ、トーニャ史上最大のスキャンダル


<最優秀 サウンドトラック> ジョニー・ グリーンウッド
「ファントム・ スレッド」




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