『君の名は』の俳句鑑賞
こんにちは!
アニメ俳句部部長の広瀬康です。
先日、アニメ俳句部で『君の名は』の俳句を募集したところ、計84句の俳句が集まりました。
みなさまが詠んでくださった句の中から広瀬が個人的にいいなと思った句をピックアップし、鑑賞文を書きました。
句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。
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夏の果かたはれどきの記憶なき 秋白ネリネ
「かたはれどき」は作中、「夕方、昼でも夜でもない時間、世界の輪郭がぼやけて、人ならざるものに出会うかもしれない時間」と説明されてます。彗星が落ちる日の「かたはれどき」に瀧と三葉は会えましたが、記憶は失われてしまいます。二人は、大切な記憶を忘れてしまっているというかすかな違和感を「夏の果」に感じたことでしょう。下五「記憶なき」と連体形で締めていることで、記憶がないことの違和感を尾を引くように感じられてよいですね。
糸を巻け夜長の糸の声を聴け イサク
組紐を祖母から教わっていたシーンを詠んだ一句。「糸を巻け」「夜長の糸の声を聴け」という動詞の命令形で読者の感覚の目覚めを促します。上五の短くシンプルな命令形があることで、詩的内容のある中七下五の命令形がより強調されています。秋分を過ぎ、夜の時間が長くなったことをいう夜長。「夜長の糸の声」を聴こうと読者は心の中で耳を澄まします。
組紐の時を織り込む秋の宵 一久恵
組紐を作っていく過程を「時を織り込む」と表現しました。伝統工芸として長く継がれてきた組紐にはまさにその技術を継承してきた人たちの「時」が織り込まれているのでしょう。「秋の宵」という季語から、作業している場所の灯のやわらかさや庭から聞こえる虫の声まで聞こえてきそうで、しみじみとした趣を感じれるような一句になっていると思います。
散々なデートの後の星月夜 海老名吟
散々な結果に終わった瀧と奥寺先輩とのデート。恋人と別れ、今日のデートのことを思い返しながら帰路につくと、「散々な」内容だったことに落ち込む自分を癒し包むような綺麗な星月夜が広がっている。下五の季語へとつなげる語順が上手く、季語がきちんと主役になっていていいと思います。
神様がいたずら星が飛びすぎて 里すみか
1200年に一度の彗星の来訪。彗星が割れたことも含めて、「神様がいたずら」したのだとこの句は言っているようです。私たち人間のコントロールの及ばない美しい自然現象を神様のいたずらだと詩的に把握したところが素敵です。「星が飛びすぎて」という口語での表現もこの句に合っていると思います。
祭りの夜君を助けにチャリを漕ぐ 里山子
三葉の体で山頂めざしてチャリを漕いでいた瀧を詠んだ一句。季語は「祭り」。他の人が祭りでうかれ、楽しんでいるときに、この句の作中主体は大切な人を助けにいくためにチャリを漕いでいるのです。上五は季語と時間帯、中七は理由、下五は「チャリを漕ぐ」という身体感覚。情報の打ち出し方が上手いですね。
問一、お前は誰だ蝉時雨 龍田山門
「お前は誰だ」という作中何度か登場した台詞が巧みに俳句になっています。「問一、」という上五の読点も間を作る意味で利いています。問いかけの答えは明かさず、下五に「蝉時雨」を置くことで、蝉の声が問いかけの答えを覆い隠しているような奥深い一句になっています。
君の名はよみ人知らず春うらら 對馬埜臬
季語「春」「うらら」からこの句は作中のラスト、二人の再会のシーンを詠んだ一句かなと思いました。「よみ人知らず」は歌の撰集などで作者が不明なときなどに用いられる言葉ですが、この句ではお互いに名をまだ知らない状態のことを言っているのだと思いました。忘れてしまった名前を、春のなごやかな空気のなか思い出すのでしょう。
組紐は神様の業照紅葉 土佐藩俳句百姓豊哲
三葉と四葉が祖母から教わっていた組紐を「神様の業」だと言い切ったところが俳句として切れ味鋭いです。中七の「神様の業」という言葉の印象は、下五へもふりかかり、季語「照紅葉」の日差しに照り映える紅葉の美しい赤も神様の業なのかもしれないという詩的世界観へと読者を誘います。
風光る二人が出会ふ段差かな 土佐藩俳句百姓豊哲
ラストシーンを詠んだ一句。風まできらめているように感じられる春、二人は再び出会います。この句の眼目はなんといっても「段差」という言葉。階段の再会のシーンであの段差に着目する視点のよさ。映画に沿って読むなら、この「段差」は二人の年齢差を表しています。育った場所や環境、経験が違うため、人と人にはあらゆる面で差が生まれます。差がある二人が出会うことの尊さが、「風光る」という季語の美しさや「段差」という描写に現れていてすごいです。
秋晴れや僕らはタイムフライヤー 鳥田政宗
劇中歌であるRADWIMPSの『なんでもないや』の歌詞に「僕らはタイムフライヤー」という言葉がでてきますね。「僕らはタイムフライヤー」という詩的な歌詞に季語である「秋晴れ」を取り合わせた一句。タイムフライヤーは「Time Flyer=時を飛ぶ人」。三年の時を超えて入れ替わっていた三葉と瀧を表すのにぴったりな言葉ですね。季語「秋晴れ」は空気が澄んでいて空が高々と晴れ渡っていること。二人が見上げるこの秋晴れの空は時空は超えてつながっていたのかもしれないと感じさせます。
清明の時つなぐ組紐きらり 猫髭かほり
「清明」は二十四節気の一つで4月5日ころにあたる春の季語。この句は時をつなぐものとしての「組紐」を読んでいます。「時をつなぐ」という説明だけでなく、最後に「きらり」と組紐に一瞬走る春の光まで読み込んだ点がすごいです。句のはじめの「清明」と句のおわりの「きらり」が呼応しているかのようです。
夢じゃない糸守の空あの色鳥 みーゆん
糸守が三年前に滅びていたことを瀧が知ったときの動揺を詠んだ一句だと思いました。まず「夢じゃない」と気持ちを強く打ち出し、それから「糸守の空」と空間を表現します。そしてさらに下五を字余りにさせてでも伝えたい「あの色鳥」が空を渡っていたというたしかさ。最初に気持ちが表現されていることで、読者はそのあとの中七下五の美しい景をより儚く感じ取ることができるようになっています。
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謝辞
みなさま、素敵なアニメ俳句をありがとうございました。
今回の『君の名は』の俳句84句は一覧画像にしてアニメ俳句部のアカウントからツイートする予定です。でき次第、後日、ツイートします。
今後もアニメ俳句部はアニメと俳句をかけあわせたイベントを開いていきます。
【アニメ俳句部今後の予定】
11月25日~ 『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の俳句募集
12月10日~ 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の俳句募集
リクエストご要望等ございましたら、いつでも気軽にリプライやDMをお送りください。
ではまた。
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