『風の谷のナウシカ』の俳句鑑賞
こんにちは!
アニメ俳句部部長の広瀬康です。
先日、アニメ俳句部で『風の谷のナウシカ』の俳句を募集したところ、計69句の俳句が集まりました。
みなさまが詠んでくださった句の中から広瀬が個人的にいいなと思った句をピックアップし、鑑賞文を書きました。
句のあとに作者名を敬称略で記させていただきます。
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水澄むや腐海の木々の死してなほ 秋白ネリネ
巨大な菌類からなる樹海である腐海は浄化装置でもありました。木々が死んでも、腐海は長い年月をかけて大地の毒を浄化し、水を澄ませます。再生を感じさせてくれる一句でした。
金色の女帝熱風に帰還す イサク
この句の金色の女帝とはクシャナのことですね。金色の鎧をまとったクシャナが爆発の熱風とともに帰還した、というふうに読ませていただきました。季語「熱風」がクシャナの苛烈さも表しているようでとてもいい取り合わせだと思いました。
夏風に乗ってユパ様飛んでくる 石井一草
トルメキアの兵が侵入したブリッグ(ペジテの船)にユパ様が飛び乗って行ったあのシーンの句だと思いました。「夏風に乗って」と体への風を感じるところが良いですね。
夏雲や野心の鼓動湧き上がる 一久恵
クロトワの野心を詠んだ一句。野心という目に見えない形のないものを「野心の鼓動」とすることで聴覚で感じ取れるものにしている点がすごいです。野心の鼓動に呼応するように夏雲も膨らんでいきます。
この風を春の乱れと呼んだひと 片岡六子
気流が乱れてうまく飛べないからとユパに王蟲の目の殻を渡したシーンでしょうか。風を「春の乱れ」と呼ぶなんてとても詩的で素敵だと思います。
根の国の透明な砂降る白夜 三尺玉子
腐海の底のあの空間を「根の国」と表現したところがすごいです。浄化された綺麗な砂が降るかすかな音の聞こえます。またあの幻想的な空間の明るさを表すのに「白夜」はぴったりだと思います。
薫風や汚れてるのは人なんです 水蜜桃
ナウシカの「汚れているのは土なんです」という言葉を突き詰めて考えると「汚れてるのは人なんです」ということになると思い至った作者の感性に感服します。この中七下五に対して自然の木々の清らかさを感じさせる季語「薫風」を取り合わせているところもすごく良いです。
赤潮に万眼ひらき地を呑まん 龍田山門
進軍してくる王蟲の群れの赤い目と季語「赤潮」が映像面で重なり、迫力を生んでいます。「万眼」で王蟲の群れを数量的に表現し、さらに「地を吞まん」という臨場感あふれる下五で締める。大迫力の一句です。
樹に水のおと翠蔭に砂のおと ツナ好
腐海の底にかすかに響く音を詠んだ一句。樹を流れる水の音と「翠蔭」に降り積もる砂の音。耳を澄まさないと聞こえてこない二つの繊細な音を読者の耳にも響かせる力を持った句です。「おと」がひらがな表記なので、硬い音ではなく、やわらかな音を感じ取ることができます。
作られし神よ麦熟れ星光れ 鳥田政宗
「作られし神」=巨神兵と読ませていただきました。熟れている麦が大地に広がることや夜空に星が光ることへの祈り。壮大な神話を感じる一句でした。
地の神の怒りしづめる青清ら 猫髭かほり
王蟲たちの怒りをしずめたナウシカを詠んだ一句。王蟲を「地の神」と表現したところが厳かで良いです。下五ではナウシカの衣の色に着目し、その青色を「清ら」と綺麗に現しました。
人造の神は崩れて青嵐 ノセミコ
熱光線を吐いて崩れていった巨神兵を詠んだ一句。人が造り出した神が崩れてなくなり、そのあとに森の青葉を感じさせる青嵐が吹くという展開が良いと思いました。
アイリスよ安田成美の歌声よ ヒマラヤで平謝り
風の谷のナウシカのテーマソングを歌った安田成美さんの歌声と季語「アイリス」を取り合わせた一句。「よ」という詠嘆がこの句にリズムを生んでいて良いですね。
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謝辞
みなさま、素敵なアニメ俳句をありがとうございました。
今回の『風の谷のナウシカ』の俳句69句は一覧画像にしてアニメ俳句部のアカウントからツイートする予定です。でき次第、後日、ツイートします。
今後もアニメ俳句部はアニメと俳句をかけあわせたイベントを開いていきます。
リクエストご要望等ございましたら、いつでも気軽にリプライやDMをお送りください。
ではまた。
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