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3.【やってみた】夜の世界で働いたら人生が変わるのだろうか?(前編)



15年ほど前、夜の世界で働いていました。夜の世界といえば、いま頭に浮かんだその世界であっています。

とんでもない田舎から家出をして、住むところがなかったので、住み込みで働くなら夜の世界だと思い、フロムA(当時はまだ紙の)をコンビニで買いました。ナイトワークは後ろの方に載っていて、乾杯系、と書いてあったかな。

キャバクラなんて行ったことはなかったので、テレビの知識だけしかなくて、かなりビビっていた記憶があります。

「ミスしたら殴られる」とか「従業員はみんなヤクザで殴られる」とか「とりあえず殴られる」とか、つまり、殴られるのが怖かった。みんな喧嘩が強そうで、元ヤンキーみたいなイメージだった。

歌舞伎町とか渋谷だとすぐに●されそうな気がしたので、沿線の小さなお店を選んで電話をかけました。でも、いくら小さいとはいえ、東京都内のキャバクラなのです。もう覚悟を決めて面接に向かいました。もしヤバい人たちだったら、土下座して逃げる覚悟で。小指は死守したい。

いずれにせよ、所有物はリュックサックと、中に入ってる下着と服と、文庫本2冊と、現金数万円だけ。失うものなんて、なにもなかったのです。命ぐらいしか。

待ち合わせの場所は、駅前の交番でした。え、交番で待ち合わせ? と驚きました。逆に安心したのを覚えています。

こんな地域密着型の駅で、こんな地域密着型の交番で待ち合わせなら、きっとお店も従業員も地域密着型に違いない。優しくて愛されているに違いないと。

案の定、

スキンヘッドで黒いスーツの見るからにイカつい輩が、僕を見つけてニヤニヤしながら「広瀬くん?」と声をかけてきました。ザ・夜の人でした。

たいへんビビりました。僕の名前を存じているからには、これから向かうであろうキャバクラの従業員に違いないのです。申し訳ないのですが、ドラゴンボールに出てくる悪役にそっくりでした。

「じゃあ、お店で面接するから」と僕を手招きして、交差点を渡って、見るからに路地裏というか裏路地というか、薄暗い狭い道に連れていかれました。両隣がビルなので、夏至だろうが冬至だろうがまったく光が当たらん場所。

こんな地域密着型の駅と交番のすぐ前に、どうしてこんなに胡散臭い路地があるのか皆目検討がつきません。

すぐに風俗店がありました。専門用語でデリバリーヘルスという業態です。そのすぐ隣が、また風俗店でした。専門用語でピンクサロンと呼ばれる店です。そのすぐ隣がセクシーパブで、そのすぐ隣がまたピンクサロンで、そのすぐ隣にあったのが、僕が働くことになったキャバクラでした。

(ちなみに、キャバクラで飲んでムラムラしてからセクシーパブでイチャイチャしてから風俗店に行く、というのが黄金コースと呼ばれていました)

まだ肌寒い弥生の夕暮れ。当時20代だった僕は、その席数13の小さな店から、水商売をスタートさせたのです。

ひとりぼっちの、とても心細い春でした。





ちなみにその店が、あの巨大水商売グループの第一号店だったとは、知る由もありませんでした。




ちなみに先程紹介したピンクサロンとセクシーパブとピンクサロンも系列店でした。つまり、あの裏路地に足を踏み入れたが最後、巨大コングロマリットの餌食になるという恐ろしい寸法でした。

(つづく)


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