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#群青色の夏

【小説】群青色の夏 4

【小説】群青色の夏 4

 僕がそう言うと、万里子は納得がいかないような顔をしながらも、こくりと頷き、それ以上の反論はしてこなかった。僕には、万里子の納得のいかない気持ちがよく分かったが、先生がオーディションをしてメンバーを決める以上、そこは僕たちの手の届かない神域なのだとも思っている。
 
 だから僕は、万里子のパートリーダーとしての焦りや不安を感じ取りつつも、信じようと彼女に投げかけたのだった。それは中学生の僕に出来る

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【小説】群青色の夏 3

【小説】群青色の夏 3

「由人、パーリー会議始まる」

僕にそう声をかけたのは芳香だった。パーリー会議とはパートリーダー会議の略である。

「もうそんな時間か、すぐ行く」
「明人にも声かけといてね。いつも遅刻されると困るの」
「わかったよ。必ず声かけてから行く」
 
僕はクラリネットの教室で窓に向かって練習をしている明人に声をかけた。

「おーい、明人パーリー会議始まるぞ!急がないと芳香にどやされる。急げ!」
 

そう

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【小説】群青色の夏 2

【小説】群青色の夏 2

 普通、クラリネットパートのパートリーダーはコンサートマスターがなるものだ。他の学校では違うかもしれないが、この学校では慣例的にそうなっていた。けれど、小林先生は「明人ではまとまらないだろうから」とパートリーダーには僕を指名した。

 部長に僕がなったのも、「由人のほうが多分向いている」と小林先生が呟いたからだった。部長は選挙で行われるが、僕と明人はほぼ横並びの票数だったが、小林先生の呟き一つで、

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【小説】群青色の夏1

【小説】群青色の夏1

 嫉妬していた。僕は、明人に。それはごく自然なことだと思うし、だから僕はそれが悪いことだなんてこれっぽっちも思わない。けれど、もし明人に嫉妬せずにいられたら、僕はどんなにか楽だっただろうかと、夢想することはある。それはいけないことだろうか――

 僕、森永由人と明人は一卵性双生児だ。僕の方が少し早く生まれたので兄で、明人は弟だ。僕たち兄弟は傍目に見れば仲の良い双子だと思う。同じ学校に通い、同じ制服

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