消費税のインボイス制度/個人事業主と企業経理の両面から

佐藤ひろおです。会社を休んで早稲田の大学院生をしています。
三国志の研究を学んでいます。

インボイス制度は負け戦

消費税のインボイス制度が導入されます。
ぼくは税理士ではないので、ここでは内容を説明しません。

ぼくは「三国志」について、ものを書いたり講演したりする「個人事業主」です。自分が個人事業主になると、会社員のときと異なり、なぜか個人事業主の知り合いができます。個人事業主たちで、「消費税のインボイス制度について、対応をどうします?」という会話が発生します。今回の制度変更にともなって、売上高が1,000万円未満だが新たに登録番号を取ろうというひととは会ったことがないです。
制度は複雑です。特例や経過措置が後出しじゃんけんでポロポロと出てくるので、実務的には静観がよいと思っています。

今回の変更は、国家が消費税をより多く取ろう!という、税収アップがゴールです。個人事業主が税額でトクをしたり、ビジネスチャンスを生み出したりすることはない。※税理士をのぞく
個人事業主への配慮・救済、支援・励ましが目的ではない。だから、個人事業主が割を食うのは当たり前です。嬉しくはないですが、然るべき手続で決められたならば、従うしかないです。※税収アップの施策で、かえって納税額が減る場合があるならば、制度の欠陥だ。

個人事業主のリアルな目線から捉えると、どれだけ現状と比べて不利になることを食い止められるか。「いかに納税額の増加を防ぎ、申告の手間増大を防げるか」という勝負になります。

かりに、手元にキャッシュ(現金)を多く残したら「勝ち」であり、本業にあてる時間と注意力を多く確保できたら「勝ち」であるとするならば、インボイス制度は、負け戦は確定しているけれども、負けの被害を最小限にできたら一等賞!!というゲームです。
※税金を納めるのは義務です。勝ち負けではないです。

契約を切られるリスク

インボイス制度により、個人事業主は不利な条件に晒されます。そのなかで、ちょっと面白い観点があります。

インボイス制度への登録をしないと、「発注を止められるリスク」があります。制度を解説した税理士のyoutubeなどでも、「登録番号を取得しないと、企業から契約を切られかねない」と警鐘を鳴らします。
その通りだと思います。
企業からみると、「登録番号あり」と「登録番号なし」のときで、経理のオペレーションが変わるからです。

ぼくは、個人事業主(三国志)であると同時に、企業(自動車関連会社)の経理担当です。
企業からしたら、発注先がすべて「登録番号あり」ならば、経理処理がラクになります。場合分けが減るからです。
一方で、経理屋のぼくは、発注先をすべて「登録番号あり」にできないリスクを考えます。会社の取引先のなかで、1件でも「登録番号なし」の取引があれば、場合分けのオペレーションを無くせません。

いくら経理が「登録番号あり」とだけ取引して下さい!と言っても、社内の1部署でも、「『登録番号なし』だが、この相手に発注したい。経理が手間を惜しみ、会社にとって必要な取引をやらせない気か(怒)」と言ったら、経理は引き下がります。経理がひと手間かければ、「登録番号なし」と取引できるなら、発注部署が取引を断念しなくてよい。企業としてはそちらのほうが健全でしょう。
※経理の声がデカすぎると本業がゆがみます。

「登録番号なし」の相手と取引をするとして、経理が、「『登録番号なし』なので、消費税分をマイナスして支払います。取引先に了承を取って下さい」と言ったとして、社内の発注部署は「オレがやるんですか?内容が分かりませんが」となります。
発注者は、税金に詳しくない。経理担当が仕入担当に伝言し、仕入担当から価格合意をしてもらう??もし金額の交渉で決裂した場合はどうなるんですか。交渉に時間がかかって仕事が遅れたら、だれが責任を取るんですか?イライライラ!!
取引先に複数の社員(部署)がおり、受注者と経理が別ならばどうなるか。発注者・受注者の知らないところで、両社の経理が話すんですか。その打合せはいつやるの?だれがセットするの??イガイガイガ!!

ぼくは休職中なので、すべて脳内で想像している社内やりとりですけど、あり得ることだと思ってます。
「登録番号なし」が1件でもある限り、もう10件あろうが100件あろうが、面倒くささと複雑さ(=ミスの起こりやすさ)は同じです。未来永劫、「登録番号なし」と取引しない!という誓いを立てるのは無理です。会社の公的な取引規定、コンプライアンスにまで落とし込まないと発注者を納得させられないが、コンプラ案件じゃないですしね。
「登録番号なしの相手にも、一律で消費税10%を払う。ただし今後、消費税率が20%や30%になったとき、必要に応じて再検討」として、未来に託すでしょう。これで目先のイガイガを回避できます。国の制度がどっちに転ぶのかも分からないのに、他部署に強制するのはムリです。

「インボイス制度に登録していないなら、取引を中止する」というのは、個人事業主をビビらせるには十分合理的な内容ですけど、企業経理から見ると、取引停止もまた現実的じゃないですよね。
関係者間で発生する認識調整、複雑化する事務作業(会計ソフトへの入力時の区分)、税務申告時の消費税の集計などを考えると、
「原則として『登録番号なし』とは取引しない。取引したい場合のみ、取引するか否か・もらい受ける金額を毎回個別に検討」
は悪手ではないか。
「『登録番号なし』の場合のオペレーションはこれ!」
と1パターンを決めたほうが、よほどマシ。
つまり、インボイス制度をトリガーとして、「登録番号なし」の取引先を切り捨てることはしない。という判断になる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?