見出し画像

仕事を辞めない理由は「お金の不安」のみ

佐藤ひろおです。早稲田の大学院生(三国志の研究)と、週4勤務の正社員(メーカー系の経理職)を兼ねています。

大江英樹『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方』を読んでいます。なぜこの本を読むのか。大江氏は老後のお金について入門書を出版してきましたが、2024年1月1日に71歳で亡くなられました。
老後のお金に関する論者が、(結果的に)「死の直前」に何を言っていたのか?という角度から、読んでみたいと思いました。

まだ途中ですけど、いまの自分に一番「刺さった」のは、『ナラティブ経済学』を引きながら、人々の経済観念は、客観的なデータや合理性ではなく、その時々に流行している「物語」によって決められているのではないか?と指摘しているあたり。p110より。

アメリカでは「土地神話」「ドットコムバブル」などの流行りの物語があった。大江氏は挙げていませんが、日本では「バブル崩壊」「ITバブル」があります。株価が少し下落すると、条件反射的に「リーマンショック級」と引き合いに出す「リーマンショックおじさん」がいます。2008年ごろから投資・トレードをしている古参ですね。

リーマンショックどころか、2024年に入ってからも、日経平均株価を論じるときに、「バブル崩壊前に比べて」と経済ニュースが垂れ流しているので、古参どころか古老です。
日本円の(他の通貨に対する)価値は変動しているのだから、日経平均株価だけを比べても、ほとんど意味はないです。日本はまだ復活していないという「物語」に絡め取られています。経済停滞は事実でしょうが、35年前と比べ続けることにどんな(現実的な)意味があるのか。

最大の物語「老後不安」

大江氏によると、日本人の経済観念を歪めている最大の「物語」は「老後不安」であると言います。

「老後2000万円問題」もひとり歩きしました。大江氏の見解は、「老後2000万円問題なんてものは、存在しない」です。

政府のある試算によると、年金収入に対し、毎月の支出が5.5万円多ければ、リタイア後30年生きるとき、夫婦で2000万円不足します。
計算上は、そうかも知れない。
しかし、毎月5.5万円マイナスの生活を30年にわたって続けるには、消費者金融に駆け込み続けるほかなく(そして2000万円以上の借金を積み上げるしかなく)、現実には成り立たない。5.5万円がマイナスならば、支出を5.5万円削れば生活できると大江氏は言います。そりゃそうか。

大江氏は高齢者に向け、老後のお金について講演をすることが多いそうです。その場で、参加者に質問を投げかけます。みんな「老後は不安」だが、受け取れる年金の額も毎月の生活費も把握していないと。
「老後が不安ではあるが、関心はないんですね」
と大江氏は皮肉を言うそうです。

ここに端的に表れているように、われわれは、老後に実際にお金が足りないのではなく(足りないかも知れないが、いくら足りないか分からず)、なんとなく煽られて不安になっているだけ。
その結果、「老後2000万円問題」が金融機関に都合のよい営業トークに使われ、限られた資産をさらに減らします。政府の信頼できないメッセージに踊らされます。不本意な忍耐をともなう仕事を続けてしまうでしょう。死ぬ直前にいちばんお金を持っている、という悲しい事態になります。

早期退職がもてはやされる

大江氏によると、FIRE(資産運用で食える、早期退職する)が日本でもてはやされているけれど、かなり歪んでいると。みんなRE(早期退職)をしたいだけで、FI(資産運用)は二の次、もしくは勉強が適当すぎると。

みんなが仕事を辞めたがっているのは、日本企業でイノベーションがなく、「バブル入社組」「昭和おじさん」が要職に居座り続けているからだと。※大江氏は雇用や人事の専門家ではないので、この部分の分析はややザツ

世代論で片付くのかは分かりませんけど(笑)日本人は仕事が嫌い過ぎて、他国に比べて仕事を憎んでいるとされます。そこまで憎むならば、辞めればいいじゃんと思われるが、そこまでリスクを取るひとは少数派だろうから、日本人は不幸な働き方をしている。

なぜ会社を辞めないのか。
これも「老後不安」という物語に回収されるだろう。

ぼくが会社を辞めてない理由も「不安」

大江氏に乗っかって記事を書いてきましたが、
ぼくが会社を辞めない理由はなんだろう?と考えたときに、「お金の不安」しか残っていなかったんです。ほかの理由がまったくない。

辞めない理由が「お金の不足」なら合理的です。今月の生活費が20万円かかる、しかし手もとに10万円しかない。つぎの家賃の引き落としのために、会社からの給料の払込が待ち遠しい。そういう状況ならば、会社を辞めない理由は明白です(幸せか否かはさておき)。

しかし現状、FIREに十分な資産(1億円など)は持っていませんが、当面、食いつなぐだけの資産はあるだろう。
子無しなので、保険会社がシミュレーションしがちな同世代(アラフォー)の支出が、年単位で控えているわけではない。自分が病気になったとして、制度内ならば医療は受けられる。

月々の収入(資産運用や副業)と支出をよく点検し、「お金の不安」を取り除いていくと……。すなわち、きちんと「関心」を持った場合、会社のお世話になり続ける理由が、虚空に消えていく。

自分が会社に執着する理由って、「明日、宇宙人が襲来したらどうしよう」と同じレベルの不安に縛られているだけではないか。
宇宙人に攻撃されたら恐いですけど、じゃあ宇宙防衛システムについて調べているか?宇宙人との交渉術を日々学んでいるか?と問われれば、知識も努力はゼロ。そのくせ宇宙人におびえ、日々の幸せを損ねているとしたら、なんのために生まれてきたのか、よく分からないのではないか。

「お金の不安」と現実的な収支をきちんと区別しないと、死ぬ直前にいちばんお金持ち、という状況に逆戻りだろう。※大江氏が戒めている

へんな話ですけど、2020年秋から2023年春までの2年半、ぼくは会社を休職させていただき、学業に専念していましたが(労働による収入はゼロ)、そのときのほうが幸せにお金を使えていたし、なぜかお金が減らなかった、という実績があります。
当時、働かないことによる「不安」が強かったので、資産の一覧(どの口座にいくらあるか)を作り始めました。残高を比較可能です。

2023年春から、週4勤務で働かせて頂くようになりましたが(給料は勤務日の比率にあわせて80%)、この期間、心身がバランスをくずすことが多くて、ぜんぜん幸せにお金を使えていないし、せっかく働いているのに、とくに資産の残高が増えてないです。

サラリーマンとして「入金力」を高めるならば、週4勤務というのはまったく愚かな選択であり、まるまる余剰・貯蓄から投資に回っていた部分の収入がゼロになった感じ。そのくせ、ストレスや大変さが、同じ比率で80%になるわけではない。
むしろ「この働き方・役割でよいのか」という葛藤と申し訳なさが大きく、周囲に迷惑をかけている気がするし、働く幸せはなかった。

だったら週5勤務で働くか?
それは、大学院に行きたいので、いやです……。

週4勤務を認めて頂いた恩恵は計り知れないですが、これは「お金の不足」を避け、破綻を先送りする働き方ではあっても、「お金の不安」を救済する力はない働き方だったのかも知れません。「不安」を払拭する働き方とは、毎月の給与から10万円とか20万円、投資の口座に移し替える生活です。※30代半ばはそんな感じだったので体験済

「お金の不安」は拭いがたいですが、データ(収入と支出の実績)をちゃんと見ることで、いきなりFIREできなくとも、働き方や生き方の最適解に近づけるのかも知れません。

この記事が参加している募集

お金について考える

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?