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フィンランド映画「アンノウン・ソルジャー」

フィンランド映画「アンノウン・ソルジャー」をやっと観ることができました。率直な感想を、私が見てきたフィンランドに重ねて、綴ってみたいと思います。史実の記載と若干のネタバレを含みますのでご了承ください。

映画「アンノウン・ソルジャー」

2017年にフィンランドで公開された映画「アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場」。2019年に日本でも公開されましたが、当時は近くで上映している映画館がありませんでした。今は、どこに住んでいても後からオンラインで鑑賞できるありがたい時代ですね。

最近はフィンランド情報を届けてくれる人が身近にも増え、「フィンランドが好きなら特に、そして今観るべき映画だよ」と、先日オススメされたので、このタイミングで鑑賞してみました。

どんな映画?

最初から最後まで、ほぼ戦闘シーンの映画です。戦争映画なので当たり前ですが…戦いの場面が多く、銃声や爆撃音、負傷シーンのリアルさ、人によっては辛いばかりの映画かもしれません。

1941年、前年にソ連との“冬戦争”に敗れ、領土の一部を失ったフィンランドはソ連から領土を取り戻すためにソ連に進攻、“継続戦争”が勃発する。

Amazon 映画紹介より

もともとフィンランドの領土だった「カレリア地方」。ソ連に占領されていたが、取り戻すために侵入し、戦い、奪還していきます。だけど、戦況が覆り、再び押し戻されてしまいます。フィンランドとロシアの関係、そしてカレリア地方の存在。まさに今観ておくべき映画だと実感しました。

フィンランドでの映画化

この映画は、1954年ヴァイノ・リンナの小説が原作となっており、フィンランドでこれまでに1955年、1985年に映画化されています。今回で3回目の映画化です。映画以外にも、テレビシリーズがあるそうです。

2018年2月15日にフィンランド国内で100万人の観客数に達しました。これは、1970年以来の統計で最も視聴された国内映画であり、これまでで3番目の観客動員数と推定されています。

Wikipedia  Vapaa tietosanakirja より

何度も映画化されたこと、観客動員数が多いことから、フィンランド人のカレリア地方への想いの深さ、隣国の存在を常に意識せざるを得ない緊張感が計り知れます。

戦争映画としての感想

終始、色味の少ない暗めのトーンでストーリーは進みます。まるでドキュメンタリーを観ているようです。

家族と過ごすシーン、戦場での仲間や上官との関係、比較的、淡々と描写されています。寒々しくあっけなく残酷に人が死んでいきます。感情を揺さぶるための演出は感じられず、だからこそリアルだと感じました。本当の戦場はこうなんだろうな、と思わされます。

ロシア系のフィンランド人との関係性や、占領後のカレリア地方に住むロシア人との関係性。占領した側とされた側のやりとり。このあたりは、私たち日本人には分かりにくい感覚なのかもしれません。説明的なセリフもなく、会話も少ないため、理解しきれないところがあります。何度も観ないと分からないシーンもあります。そういうところ含めて、フィンランドの映画を観ているんだな、と実感します。

また、ソ連軍のことはあまり描かれていないことも特徴的でした。終始、遠目に敵軍と認識できる程度です。敵として過度に描写しないことこそが、現在のフィンランドのロシアに対する最大限の表現なのかもしれない、と想像しました。

フィンランド好きとしての感想

さて、ここまで「戦争映画」としての感想を綴りました。ここからは、フィンランド好き視点の感想と、注目したポイントを綴ってみようと思います。戦争への論点は一旦横に置き、休憩する気持ちでお届けします。

ロケ地

まずはロケ地。どこで撮影されたのかが、まず先に気になりました。見たことがある景色が登場しないか、かじりついて観ます。

この映画の撮影はキュメンラークソで始まり、スオメンリンナや北カレリアを含むフィンランドのさまざまな地域で撮影された。戦闘シーンは主にベカランヤルヴィのカレリア旅団(国防軍の部隊)の射撃場で撮影された。冬のシーンはもともとカレリア旅団の土地で撮影される予定だったが、積雪がなかっためクフモで撮影された。

Wikipedia  Vapaa tietosanakirja より

森と湖の国だから、きっと森のロケーションは、撮影場所に困らないだろうな、と想像してみたり。そして、私の記憶に残っている場所も登場しました。

領土を奪還したシーンでは、おそらくスオメンリンナのここと思われるピンク色の壁が出てきました。

兵士の家族が暮らす国境近くの麦畑は、ロシアに隣接するサイマーにある、ホストファミリーの親戚の家のある光景を思い出します。

広がる麦畑と背景の白樺。
こちらは親戚の赤い壁の家。このような家が映画に登場します。屋内のシーンは、まるで古い西洋画を観ているような優しい光で、必見です。
たしか、西側からのアングルのヘルシンキ大聖堂も登場したような気がします。

こういうシーンが、フィンランド好きの心を温めてくれます。ほんのひとときですが、美しいフィンランドに触れることができます。

また、ソ連領ペトロザヴォーツクを奪還するシーンは、どこでどのように撮影したのだろう?と疑問に思いました。ロシアの実際の場所ではなさそうだし、この辺りをご存知の方に教えていただきたいものです。

追記

このnoteを読んでくださった、フィンランド在住の方が情報を送ってくださいました!ソ連領ペトロザヴォーツクのシーンはスオメンリンナで撮影されたそうです。Kiitoksia paljon!

このシーン、過去作ではあまり登場しなかったそうですが、ソ連領に住むフィンランド人が経験したことを表現する重要なシーンとして、本作では時間が割かれているそうです。確かに、占領地での緊張感のあるこのシーンはとても印象的でした。

フィンランド語

次に、フィンランド語についての感想です。フィンランド語を勉強していますが、聴きとれる単語はわずか。聞き逃すまいと耳を傾けます。フィンランドの兵士が占領地の子どもたちに、「ソ連を倒せと言ってごらん」というシーンがあります。前半は聴きとれないのだけど、後半で

Hyvä Suomi(ヒュヴァスオミ)

と言っています。フィンランド万歳、といった感じなのでしょうか。また、戦うシーンで一番よく聞いた言葉は

Eteenpäin!(エテーンパイン)

でした。前進しろ、前へ!といった意味でしょうか。

途中、クリスマスに歌われる歌などは、私にも聴きとりやすかったです。もっと聴きとれるようになりたい、と思うと同時に、昔に比べて字幕を観ながらでも、聞いたことがある単語が少しずつ増えたなと実感しました。この歌のシーンは静かに美しく、戦争映画の中にひとときの安らぎをもたらしてくれました。ぜひ注目してみてください。

森を想う

この記事のサムネイル写真は、私がサイマーの森で見上げた空の写真です。実は映画の印象的な場面で、同じように見上げた景色が何度か登場します

戦場となった森で彼らが見上げたであろう景色も、私が見上げた景色も、きっとほとんど変わっていないのだろうな、と思いました。

やわらかく揺れる白樺。きっと80年前も同じ光景を見ていた人がいただろうと想像しながら。

そして、この映画の最初から最後まで、戦場となっているのはあの美しいフィンランドの森です。大好きな森が、戦場となって破壊されるのがとても見ていて辛かったのです。私が一番感情を揺さぶられたのは、このことかもしれません。爆撃されて、白樺がどんどん倒されていって、鉄砲玉が飛び散って、ブルーベリーの木も豊かな苔も踏みつぶされて。

ブルーベリーやリンゴンベリーが自生する森。

途中からは、爆撃シーンの撮影時、森にいた動物たちはちゃんと逃げることができただろうか?ということまでも考え始めました。それくらい、森が破壊されるシーンは観るのが辛かったです。

戦争は、大好きな光景が踏みつぶされて破壊されていくことなんだ、と思いました。もう、世界中の、誰の大切な場所も、大切な景色も、壊されていく戦争は、やっぱりしてはいけない。自分の国も、大好きな国も、誰の国も。

今この状況にあるからこそ、多くの人に観てもらいたい映画だと思うのでした。





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