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アビスパ福岡はアンチフットボールの夢を見るか?

町田戦で連勝がストップしてしまった我らがアビスパ福岡。ただ、14戦負けなしという結果は十分に素晴らしいと思う。次に向けて新しいスタートを切るためにも、この節目で、アビスパ福岡のサッカーを考察してみたい。

問題提起:アビスパのサッカーとは?

アビスパ福岡(以下アビスパ)のサッカーは他クラブのサポーターから、良く言われて「堅守速攻」、口さがない者なら「ドン引きの一発狙いのカウンターサッカー」的なことをよく言われる。さらには、サッカーを放棄した「アンチフットボール」と形容されることすらある。

「縦に速い」サッカーを志向する以上、避けては通れない話ではあるが、実際、「ドン引き」で、「アンチフットボール」なのか。それぞれについて考察、言及していくこととしたい。

ドン引き?データから見るアビスパのプレーエリア

今回、プレーエリアのデータをSPAIAを参考にして取得した。プレーエリアは、相手陣内での攻撃に使われる「アタッキングサード」、ピッチの中央周辺となる「ミドルサード」、そして、主に守備時に使われることとなる「ディフェンシブサード」に分かれているが、当然、相手陣内で攻撃の時間が長くなればアタッキングサードの占有率が大きくなるし、守備に奔走していれば、ディフェンシブサードの占有率が大きくなる。

実際のところ、アビスパの各試合のプレーエリアはどうなのだろうか。以下のグラフが各試合における3つのプレーエリアの割合の推移である。

これを見ると、ディフェンシブサードの割合が40%を超えているのは金沢戦のみで、連勝中に限れば、30%台後半を記録したのは北九州戦のみで、概ね20%〜30%前半の間で推移しているのがわかる。

また、直近の町田戦までのすべての試合のアベレージを取ると、アタッキングサードでの割合が26%、ミドルサードでは45%、そしてディフェンシブサードでは29%という数字が出た。

こうした結果から見ても、チームスタイルとして後方からのビルドアップの有無を差し引いても、アビスパが決して「ドン引き」しているとは言えない、ということが導き出せるのではないだろうか。

次は、「アンチフットボール」という指摘についてである。

アンチフットボール?現代サッカー?

アンチフットボールの定義は諸説あるものの、「超守備的なスタイルを取り、点を取ることよりも点を取られないことを優先」し、「戦術などほぼないに等しい」と言えばかなりの理解を得られると思われる。

では、アビスパのサッカーは本当に「アンチフットボール」なのだろうか。

ここでは、アビスパを率いる長谷部監督の書籍やweb記事における発言等から考察していくこととしたい。

まず、彼が志向するサッカーである。「サッカーマガジン2020年9月号」のインタビューで、それを形容する言葉として、プログレッション、というワードを使っている。その中身を引用すると、「前を意識しながら、ゴールを意識しながら、あるいは突破を意識しながらボールを動かす」とある。ここで、長谷部監督は相手ゴールへの「前進」を意識していることが見てとれる。

現代サッカーについての言及もある。「現代サッカーにおけるサポートとは、困っている味方がいたら側に近寄って助けるのではなくて、プレーを発展させていくようなニュアンスだと思います(前掲サッカーマガジン2020年9月号)」

ここでは、海外ではシティ、国内ではセレッソや徳島が標榜しているポジショナルプレーの要素が見てとれる。ポジショナルプレーとは、元々はチェスの概念であるが、端的に言うと、「より良い局面にするために良い位置取りを続けていくこと」であり、これを体現しているプレーヤーの1人がイニエスタである。相手を引き寄せてパスを出せば味方が有利な状況が発生する。これを続けていけば常に良い状況が続くことになり、自ずと得点のチャンスが高まる。長谷部監督の思想の中にこの要素が含まれていることは間違いない。

これを最近現出させているのが石津である。これまでのシーズンでは、ポジショニングが決して良いとは言えなかった同選手であるが、パスを受ける位置等が劇的に改善している。最近良く見られるのが、レーンを意識したポジショニングだ。

下に紹介するコラムにあるように、ポジショナルプレーの根幹となる5レーンの原則にのっとり、攻撃の際には、味方と被らない位置取りでパスコースの確保ができるようになり、サイドで効果的な組み立ての一助となっている。

また、サッカーキングによる web記事の「THIS IS MY CLUB」におけるアビスパの特集においても、あまり大きくふれられてはいないが、「チームには、戦術や最新のサッカーを海外から取り入れる人間がいます」との言及があり、現在採用している戦術などにそのエッセンスが含まれていると推測される。

ただ、ここに違和感を感じる人がいるだろう。アビスパは「縦に速い」相手ゴールに前進する攻撃を志向しており、長谷部監督自身もそれを否定していない。シティとは真逆のサッカーではないか、という疑問だ。

実はここにヒントがある。その前に、前出のサッカーマガジンのインタビューにあるが、長谷部監督が練習中から「攻撃から守備に切り替わったときのプレスの場面で、『自分がファースト・ディフェンダーになります、行きます』という自主性を見せてほしい」と要求していたことにふれておきたい。

これは、昨年プレミア王者となったリバプールが採用している「ストーミング」という概念に近いものであると推察される。

ストーミングとは、また下に参照するコラムに詳しいが、その中の言葉を借りるのであれば、「意識的にボールを手放してでも、手数をかけずに狙ったスペースにボールを運ぶ」戦術である。この戦術で肝となるのが、ゲーゲンプレッシング、つまり、ボールを失った瞬間にスイッチを入れ、ボールに対して強烈なプレスをかけることであり、これは先述した長谷部監督の言にもリンクする。

少し前置きが長くなったが、先に述べた疑問に対して答えいくこととしたい。シティが標榜するポジショナルプレー、リバプールが標榜するストーミング、これらは真逆であり、矛盾しているのではないかと言うことにならないか、ということだ。

答えはNOだ。サッカーは日々進化し続けている。

ここではリバプールを例に出すが、彼らは自分達のサッカーを深め、強くするために、ポジショナルプレーのエッセンスを取り入れ始めた。

遅攻となった時や、相手が引いた場合に最大限自分達の武器であるストーミングを活かすために、もしボールを失ったとしても再奪取し、そしてまたそこから最も有利な形から攻撃がスタートできるように、といった形でより進化を続けているのである。

ここで、先程挙げた「チームには、戦術や最新のサッカーを海外から取り入れる人間がい」るという点に関してもう一度ふれたい。もうここまで読まれた方はお分かりだとは思うが、長谷部監督はより「新しい」戦術を取り入れ、そして落とし込もうとしているのだ。

つまり、そこには、「守備的」かつ「戦術のない」アンチフットボールは存在しないと言っても過言ではないだろう。

ただ、試合をクローズする際の5バック等に苦言を呈する者が一定数居るであろうことも理解できる。「そこまでして勝ちたいのか」と。

答えは「YES」だ。アビスパの選手や、長谷部監督は勝つためにこのチームに来た。哲学に殉ずる者は美しいかもしれないが、何も残らなければ意味がない。

結論

随分と長くなってしまったが、アビスパが「ドン引き」かつ「アンチフットボール」であるか、について考察してみた。これを受けたうえでの自分の結論としては「否」である。いまの長谷部アビスパは「ドン引き」でない、より新しいサッカーを志向しようとしているからだ。

勿論、拙稿を最後まで読んでいただいた方の中には、それでも福岡は「アンチフットボール」だと言う人が居るだろう。人の意見は千差万別であるから当然だ。その人も是非意見を述べてほしい。それだけアビスパ福岡に対する理解や考察が深まれば尚良いと自分は考えている。

停滞ではなく発展。それがサッカーや言論に一番大事なことであり、絶対に忘れてはいけない。

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