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ハガキ授業

今日のおすすめの一冊は、藤原東演(とうえん)氏の『自分らしい死に方』(成美堂出版)です。その中から「生き方が死に方を決める」という題でブログを書きました。

本書の中に「ハガキ授業」という心に響く文章がありました。

三十年ほども昔のことだが、浜松市にある聖隷三方原(せいれいみかたはら)病院のホスピスの所長原義雄医師にお会いしたことがある。 原医師は、高校の英語教師だった患者Aさんの話をした。 

手術を受けたが手遅れだった。ホスピスに移る時、紹介状を見て余命二ヵ月と知ってしまう。朝から晩まで泣き続け、誰にも心を閉ざしていた。しかし、原医師は「大丈夫ですか」「痛みはありませんか」と根気強く話しかけた。

ようやくAさんは、ある日、重い口を開いて余命を改めて聞いた。 「今日の医学では二ヵ月かもしれません。でも、生きようと懸命に治療を受ければ、 延命できるかもしれません。決してあきらめないでください」と原医師は答えた。 

ホスピスでは、時を見て真実を告知する。患者が疑心暗鬼に陥っては、残された時間が空しく過ぎかねないからだ。ベッドで死を待つだけでは生きているとはいえないのではないか、と原医師は考えていた。

だから、「最後まで燃えて生きましょう。張り合いがある仕事を見つけてください」と彼女にくり返し勧めた。 末期がんの患者にそんな気力があるだろうか、と多くの人は疑うはずだ。しかし、原医師は、どんな状況でも、たとえ死に直面していても、自己実現したいという思いは失われないと確信していた。

首をかしげるAさんにも、何度も説き続けた。Aさんの心は徐々に柔軟になっていく。「最後まで英語教師として生きよう。でも、今できることは何か。そうだ。ハガキでアドバイスをすることならできるのではないか」と気づいた。

売店にあるハガキを全部買う。そして、生徒一人一人を思い出しながら、心を込めた「ハガキ授業」を始めたのだ。余命いくばくもない教師からハガキをもらった生徒たちは驚き、感激する。

英語の勉強のことはもとより、学校や友だちのこと、さまざまな心の悩みまで書いて返信した。教師と生徒たちの間に、何百枚ものハガキが往復した。教室でなくても授業ができる。Aさんが教師としての使命感と喜びに満たされていったことは想像に難くない。

亡くなる二日前の写真を拝見したが、実に明るい顔をしていた。彼女はペンが持てなくなるまでハガキ授業をやり抜いた。「原先生、ありがとうございました。お陰で最後まで生きがいを持って生きることができそうです」と感謝を込めてお礼を言ったという。

我々はうかうかと生きていると、自分の使命や天命を忘れてしまう。いや、忘れてしまうというより、ほとんどの人がそれに気づかずに一生を終えてしまう。

自分の使命とは、「自分はどんなことで人のお役に立っているか」ということだ。それをすることで人から感謝されることだ。そしてその使命をまっとうすることが、生きがいとなる。

人生の最後の瞬間まで、生きがいを持って生きることができる人でありたい。

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