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玄峰老師と酒

今日のおすすめの一冊は、松原泰道師の『松原泰道の養生訓 戒語(かいご)』(三笠書房)です。その中から「目立たぬよう、際立たぬよう」という題でブログを書きました。

本書の中に「玄峰老師と酒」という心に響く文章がありました。

昭和三十六年に、九十六歳で亡くなった山本玄峰(げんぽう)老師は、近代の臨済禅の高僧で、私が心から尊敬してやまないお方です。老師はまた、つねに酒を親しまれたので、酒にまつわる逸話も少なくありません。老師が折に触れて人に語られた「上手な酒の呑み方」をご紹介しましょう。

一、酒の性は人を楽しませる点にある。故に、酒を呑んだら、自他ともに楽しくなるように呑むこと。人を不愉快にさせたり、家族に苦労をかけたり、二日酔いをして自分の仕事に支障をきたすような呑み方は、酒呑みの下の下だ。

二、酒はきゅっと飲んできゅっとやめることだ。これができたら一人前の酒呑みだ。ちびちび呑んで時間をかける人は、給仕人をはじめ他人に迷惑をかけるから、本当に酒を愛する人ではない。

三、酒に科があるのではない。酒を呑む者に科があるのだ。人を楽しませる酒の性を生かすように呑め。

玄峰老師の名言の一つに「わしは禁酒でなく、近酒だ」があります。飲酒そのものを真っ向から否定するのではなく、むしろ「自他がしあわせになるように酒を呑め」「科は酒にあるのではない、人にある」と、酒を積極的に楽しむことを説く老師の教えは、また酒好きの人たちにとってのよき養生法となりましょう。

良寛の戒語は、この点でも、玄峰老師の名言を先どりするものだったようです。「師常に酒を好む。しかりと云えども量を超て酔狂に至るをみず」と、良寛をよく知る解良栄重(けらよししげ)が『良寛禅師奇話』に書き記しています。

寒さ厳しい雪国の山中に位置し、冬には容赦なく雪が吹きこむ「五合庵」にあって、熱く燗(かん)した酒は、それこそ五臓六腑にしみ渡り、身体を温める効果があったのでしょう。

◆山本玄峰老師は静岡県三島市にある龍澤寺(りゅうたくじ)を再建した方で、昭和天皇の「終戦の詔勅」にも影響を与えたと言われる名僧だ。龍澤寺は、白隠禅師によって開山されたお寺だったが、無住寺となり、境内は荒れ放題になってしまっていた。

かつては山岡鉄舟も参禅のために、江戸から歩いて通ったといわれるほどの名刹だった龍澤寺。玄峰老師は、目が悪かったが、日々托鉢をして、寺を再建していったという。

酒豪の老師は八十歳過ぎても日本酒を一升空けてもケロッとして春風駘蕩のごときであったという。

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