垂直統合から水平分業に移行する
今日のおすすめの一冊は、桑島浩彰&川端由美氏の『日本車は生き残れるか』(講談社現代新書)です。ブログの題名も同名の「日本車は生き残れるか」と題して書きました。
本書の中に「垂直統合から水平分業に移行する」という興味深い文章がありました。
EVには、大雑把にいって、根幹となる三つの部品がある。動力をタイヤまで伝える駆動系として電気モーターとリチウムイオン電池に注目が集まりがちだが、実は電圧を変換する制御系の装置であるパワーエレクトロニクス(DC-DCコンバーターやインバーター)も 重要な技術である。
実はこれらの技術の多くはいずれも日本が得意としてきた分野でもある。日本電産は電気モーターでは世界的なプレイヤーだし、パワーエレクトロニクスはもともとエアコンや洗濯機などの家電の技術で広く応用されているものだ。リチウムイオン電池はソニーがビデオカメラの小型化にあわせて開発したという歴史がある。
リチウムイオン電池についてはパナソニック(三洋電機)、東芝、ソニーといった顔ぶれが揃う。つまり、個々の技術では、日本にはまだまだ戦える素地がある。それでも、日本の自動車産業のヒエラルキー構造、垂直統合型の産業構造はこのままでは間違いなく崩壊のプロセスをたどるだろう。生き残る企業はあるが、構造自体は確実に崩れる。
日本の家電産業を思い出していただきたい。自動車産業と並んで、日本経済の牽引役として世界中で活躍していた国内家電メーカーが、1990年代から2000年代にかけ て、中国・韓国系のメーカーに押される形で衰退の道をたどったのは記憶に新しい。日本の家電産業が再編を余儀なくされた一因は、「垂直統合型」から「水平分業型」に生産の現場がシフトしていったからだ。
垂直統合型とは、製品開発から生産・販売まで、すべてのプロセスを1社または一つのグループで行う形態を指す。それに対し、水平分業型とは、製品の中心となるような部分の開発・設計などは自社で行うが、それ以外の製造・販売などを外部に委託するようなビジネスモデルを指す。
アップルは現在、iPhoneを世界中のメーカーに委託生産させている。同社は、新製品の開発・設計や、iPhoneでできるサービスの拡充に注力する。これが水平分業の一例だ。 中国の深圳のような場所へ行くと、家電の産業構造がまるでミルフィーユのように、何層構造にもなっている様を実感できる。
図面、金型、基盤、部品、組み立て製造といった 工程ごとに、それぞれ独立した企業を選んで発注すれば、自社工場がなくてもモノづくりが可能な時代になっている。だからこそ、中国ではもちろん、日本でも家電のスタートアップが増え続けている。それは垂直統合モデルにこだわり続けた日本の大手家電産業の衰退につながった。
家電産業で起こった水平分業という波は、いまも確実に自動車産業を変容させている。EVを、電気モーター、パワーエレクトロニクス、リチウムイオン電池、ギアなどの基幹部品別に分けて、それぞれ別の企業に発注し、すべてをシャシー(車体)に搭載すれば完成してしまう。まるでラジコン車のようなシンプルな構造だ。
そしてこの水平分業モデルを、車の世界でもっとも早く軌道に乗せてしまったのが、いまや株式時価総額ではフォルクスワーゲンやトヨタ自動車など世界最大規模の自動車メーカーを軽々と上回ってしまった、あのテスラなのである(2021年3月時点で時価総額は5700億ドル〔約62兆7000億円)。
2003年にテスラが創業した際、根幹となるEVシステムは、アメリカのEVベンチ ャー・ACプロパルジョンからライセンス供給されたものだった。イギリスのロータスから供給されたエリーゼのシャシーを、自社の「ロードスター」に流用し、電気モーターをはじめ世界中から調達した部品を積んで1台ずつ組み立てていった。すべてはそこから始まったのだ。
筆者は、テスラ創業者であるイーロン・マスク氏に3度にわたって直接インタビューを行ったことがあるが、実は彼は巷で噂されているような自動車マニアではない。どちらかというと、地球環境問題の解決策としてEV専門メーカーであるテスラの操業を開始したといったほうが彼の考えていたことに近いだろう。
「社会課題の解決と持続可能性が重要だ。人類の課題の解決のためには、地球環境の問題、そして、モビリティの問題を解決することが不可欠なんだ」と、インタビュー中に何度か力説していた姿が印象に残っている。
2021年1月には、アマゾンのジェフ・ベゾスを抜いて、世界一の富豪になった(資産1948億ドル〔約21兆4000億円]!)と報じられたマスクだが、社会的な課題から事業構想を練り、コネクテッド、自動運転、電動化といった、未来に求められる自動車の姿を誰よりも鮮明にイメージしていたからこそ、創業から20年足らずでここまでの成長を遂げることができたのだと思う。
時代の変化がゆるやかなときは、「垂直統合」にメリットがあります。なぜなら大きな設備投資や工程の見直しなどをしなくても生産が続けられるからです。しかし、時代の変化が激しくなり、大きく製品を変えざるをえないときには「水平分業」の方が有利になります。設備投資をしなくても、その分野が得意な企業に発注すればいいからです。アップルのような工場を持たないファブレス経営です。
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