青木宏野

気が向くままに小説を書いています。書きあがったものを読み返すと、30%くらい実体験が入…

青木宏野

気が向くままに小説を書いています。書きあがったものを読み返すと、30%くらい実体験が入っていることにようやく気づきます。ロックバンドを組んでいる登場人物が良く出てくるのも同様です。想像力が貧困だからでしょうか。

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  • 小説『手をつなぐだけの彼女』

  • 小説『時をかける彼女』

最近の記事

小説『君にまた会える』

               BASE  夜7時から9時までの時間指定の荷物は十五個になった。朝の時点で十三個だったが、不在だった家から再配達依頼が二件入ったのだ。  無理な数ではない。しかし、夕方事故渋滞にはまったせいで時間が押し、2軒を残して9時を回ってしまった。2軒とも配達先は同じ住所、最近建ったばかりのタワーマンションだ。  この2軒を最後にもってきたのには、ルートの都合以外にも理由があった。マンションの住人は戸建ての住人より夜更かしの傾向がある。それは経験上わかっ

    • 小説『時をかける彼女』全文

              プロローグ・・・・2019年・・・・  その年の5月の飛石連休が終わった頃から、高校の裏にある公園に幽霊が出るという噂が流れ始めたんだけどさ。 マジ? お前、飛石連休も知らないのかよ。信じられんな。 飛石連休っていうのはさ、休みと休みの間に平日がはさまっている連休のことだって。・・・・平日がはさまっていても連休は連休なんだよ。 いやいや、昔は5月4日は休日じゃなかったんだ。3日が憲法記念日で5日がこどもの日で、その間にはさまった4日は平日だったんだわ。 走っ

      • 小説『時をかける彼女』エピローグ

                  エピローグ・・・・1999年・・・・  1979年の夏、僕たち火縄銃はEAST WESTの川越大会に出場して審査員特別賞をもらった。優勝したわけではないので、埼玉大会に進むことはかなわず、僕たちの高校時代最後の夏は終わった。  僕の両親は恵とのことをあっさり認めてくれたけれど、唯一出された条件は、大学は出ること、そして、授業料は出すけれど、生活費は自分で稼ぐということだった。 親にしてみれば、恵の妊娠はダラダラと毎日を過ごしている息子が立ち直る絶好のチャ

        • 小説『時をかける彼女』⑮

          第15話 Hazuki did it her way. 「ケンジ!」  葉月の呼ぶ声がした。  あわてて立ち上がり、あたりを見回した。恵が駆け寄ってきた。ケンジを呼んだのは葉月ではなく恵だったらしい。 「ケンジ、許してもらえたよ。お父さん、お母さんも一緒にいて、みんな産んでいいって。なんだか拍子抜けしちゃった」 恵は目に涙を浮かべている。 「一緒に来て」  ケンジは葉月のスマホをそっとポケットに入れて、恵とともにその場を離れた。 神社の本殿には恵の両親、祖父母がそろっていた

        小説『君にまた会える』

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        • 小説『手をつなぐだけの彼女』
          30本
        • 小説『時をかける彼女』
          17本

        記事

          小説『時をかける彼女』⑭

          第14話「このダウン、記念にもらってもいい?」  着いた先は夜だった。相変わらず寒い。しかも雪まで降っている。思わず身震いした。 「おい、なんだこの寒さは? 思いっきりずれただろ?」 「ずれてないもんね。最近あたし、タイムワープの能力が格段に上がったんだ」 「じゃあなんで雪が降っているんだよ」 「冬なんだから雪だって降るでしょ」 「1979年の8月に戻って来たんじゃないのかよ」 「ぶっぶ〜、ハズレ」 ケンジをからかうように笑う。 「いまは1998年の12月24日なのです!」

          小説『時をかける彼女』⑭

          小説『時をかける彼女』⑬

          第13話「葉月は21世紀の女の子なんだよ」  ドアを開けるスイッチを探して押し、バスを降りた。外は一瞬のうちに身体が凍りついてしまいそうなほど寒かった。相変わらず雪が舞っている。 「ケンジ、すんごくカッコ良かったよ!」 「イエーイ!」  葉月とハイタッチをする。  ほかの乗客もバスから降りてきてスマホを耳に当てて誰かと話している。スマホが電話だといつか葉月が言っていたが、それは嘘ではなかったらしい。 「葉月!」  葉月を呼ぶ女性の声がした。振り返ると恵が立っていた。 恵はサ

          小説『時をかける彼女』⑬

          小説『時をかける彼女』⑫

          第12話 ケンジは思わず葉月を強く抱きしめた スキーバスはすぐに郊外に出た。関越にのるのかもしれない。ケンジの家にはクルマがないので高速道路のことは詳しくないが、練馬から川越の先の東松山まで通っている高速道路、関越自動車道の存在くらいは知っている。  いちばん前の席なので前方が良く見える。関越のインターが見えてきた。  料金所が近づいてくる。人の気配がない。クルマを通せんぼするかのようにバーが下がっている。しかし運転手はバーが見えないのか、スピードを落とすことなく突っ込んで

          小説『時をかける彼女』⑫

          小説『時をかける彼女』⑪

          第11話「お母さんが死んじゃったんだよ!」  恵がケンジとの間にできた子どもの葉月と二十一世紀に生きていると言われても、二十世紀に生きているケンジはどうしたらいいのかさっぱりわからなかった。EAST WESTはもうすぐだというのに、ギターを弾いていても集中できずにミストーンを出してしまう。 翌日の午後、ケンジはギターの練習をするのをあきらめてインベーダーハウスに向かった。インベーダーばかり置いてあるゲーセンだ。混んでいて待たされる可能性があるが、しけた雰囲気の喫茶店、モカに

          小説『時をかける彼女』⑪

          小説『時をかける彼女』⑩

          第10話「しっかりしてよ、お父さん!」    翌日の午前中は火縄銃の練習日だった。EAST WESTを前にした最後の練習だ。  演奏の準備をしていると、葉月が5分ほど遅れてスタジオに入って来た。その姿を見て、野郎どもはみんな歓声を上げた。 ジョニー・ロットンの顔がプリントされた長袖の白いTシャツにエナメルの黒いミニスカ、赤いピンヒールという出で立ちだ。Tシャツにはところどころ安全ピンがさしてある。髪はショートカットにして、ディップローションを塗っているのかバッチリ立っていた。

          小説『時をかける彼女』⑩

          小説『時をかける彼女』⑨

          第9話「二十世紀が居心地いいのは、自分はみんなとは違うんだとあたしがきちんと意識してるからなんだよね」  薄暗い道を自転車の二人乗りで、葉月を川越公園まで送って行った。  ケンジの頭のなかは大混乱に陥っていた。煙のように消えてしまった恵が、はるか彼方の二十一世紀にいるというのだ。混乱しないほうがおかしい。 「恵はどうやって暮らしてるんだ?」 「ピアノ教室やってるよ、栗原楽器で」  驚いた。火縄銃が練習で使っているスタジオだ。 「お母さん、結局昔の彼氏のケンジを助けに行ったと

          小説『時をかける彼女』⑨

          小説『時をかける彼女』⑧

          第8話「お母さん・・・・」葉月は写真を見ながら静かにつぶやいた 家に戻ると母親も妹もまだ帰宅していなかった。母親は最近パートに出始め、妹も外出しがちなこともあり、昼間自宅にいるのは最近ちょっとボケ始めたばあちゃんとケンジだけ、というパターンが多い。  そのばあちゃんは自室に引っ込んだままだ。自宅謹慎を破って外出したことがバレなくてすんだ。  ケンジは階段を上がって自室に入り、ベッドに寝転んだ。  火事で死ぬはずだった7人のなかに果たして自分は入っていたのだろうか。もし入って

          小説『時をかける彼女』⑧

          小説『時をかける彼女』⑦

          第7話「ケンジはハーちゃんのこと好きなんだろ?」 「ケンジ、今日ヒマ?」  扇風機に当たりながら家でごろごろしていると清水から電話が入った。まだ昼前だというのに、家のなかにいても汗が出る暑さだ。庭の柿の木にたかったアブラゼミの鳴き声が暑さに拍車をかけている。 「ああ、ヒマもヒマ、もろヒマだよ」  今日は塾もなければバイトもない。葉月とは先日タイムワープしたときの「失言キス」で気まずくなっていて、会う予定もない。 「暑くてなにもする気にならん。涼みがてらインベーダーでもやりに

          小説『時をかける彼女』⑦

          小説『時をかける彼女』⑥

           第6話「ケンジ、サイテー!」  その翌日は火縄銃の練習日だった。スタジオに行くと岩澤がいた。何事もなかったような顔をしてベースを肩から下げ、うつむいてチューニングをしている。  ケンジは後からやって来た葉月と顔を見合わせ、ケンジは親指を立てて葉月はVサインをしてお互いをたたえあった。それに気づいた岩澤が「なにしてんだよ、お前ら?」と怪訝そうな顔をしたので、2人同時に吹き出した。 岩澤は葉月とは初対面のはずだが、前から知っている友だちみたいな態度で接している。  すぐに国井

          小説『時をかける彼女』⑥

          小説『時をかける彼女』⑤

          第5話「つくづくめんどくせえ時代だな」  夏休みになった。高校最後の夏休みだ。  旭高校の真面目な3年生は都内の大手予備校の夏期集中講座に通い、忙しい毎日を過ごす。ケンジは、週に1回の火縄銃の練習、週に2回のスーパーでのバイト、週に3回の地元の塾通い、というのがスケジュールのすべてで大して忙しくはない。  そして空いている時間は葉月と過ごした。葉月は未来から来たことをケンジに知られたことで隠し事がなくなったせいか、以前より気を許した態度をとるようになった。  清水と国井には

          小説『時をかける彼女』⑤

          小説『時をかける彼女』④

          第4話「ということは、ノストラダムスの大予言、外れてるじゃん」 7月頭の期末テストが終わった翌々日は久しぶりの火縄銃の練習日だった。  期末テストが終わると夏休みまではクラブ週間だ。朝、出欠をとってホームルームをやると、あとはクラブ活動をやるだけとなる。  3年生はクラブ活動から実質的に引退しているので、ホームルームを終えるとすぐに帰宅するか図書館に行く生徒が多い。  その日、ケンジは一度家に帰ってからギターを担いでスタジオに向かった。8月末に開催されるEAST WESTま

          小説『時をかける彼女』④

          小説『時をかける彼女』③

          第3話「なんでいきなり電話が出てくるんだよ」  火縄銃はケンジが3月にオーストラリアの留学から帰ってきてすぐに結成した。留学する前までは、ケンジはディープ・パープルのコピーバンドを組んでいた。かたや清水はこの3月までレッド・ツェッペリンのコピーバンドを組んでいた。  しかしセックス・ピストルズの登場に衝撃を受けていたケンジたちは、それまでのハードロック路線を捨て去り、パンクに転向したのだ。  練習はこの日でまだ4回目だったが、さすがにセックス・ピストルズの曲はパープルやツェ

          小説『時をかける彼女』③