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2021年に読んで良かった本

変な一年だった。家で過ごす時間がとても長かったけれど、社会の混乱をそのまま背負ってしまったかのように仕事も子育ても忙しく、過去と比べて読んだ本は減ってしまった。それでも、いくつものいい本に出会えたのは幸運だったと思う。

死ぬまでに行きたい海

焚火の思い出、猫の行方、不遇な駅、魅かれる山、夏の終わり―。“鬼”がつくほどの出不精を自認する著者が、それでも気になるあれこれに誘われて、気の向くままに出かけて綴った22篇。行く先々で出会う風景と脳裏をよぎる記憶があざやかに交錯する、新しくてどこか懐かしい見聞録。
web帯文

"いい風"を感じる小旅行エッセイだと思って読み進めていくと、それぞれの場所の過去の姿、私の過去、他者の過去…そうした数多の過去と記憶の比重が段々と重くなっていく。いや、それが真の主題だったのかと気付かされていく。
僕たちは未来に向かいながら過去を思い出しているのか、それとも沢山の"過去の中を生きている"のか。誰も知らないけれど、自分だけが覚えている出来事、風景、忘れない限りは世界にそれがあったことの証人でい続けられる。記憶は常に頼りないものだけれど…。寂しいような、急き立てられるような、混乱した気持ちで読み終えた。旅行エッセイなのに。一日三篇くらいのペースで読むのがおすすめです。

言語が消滅する前に

ソーシャルメディア以降明らかに変質した社会、その変質とは結局何で、何が欠落しているのか。ポピュリズムはその低劣さとは裏腹に民主主義が正しく機能した結果であるようにも思えるが、どう受け止め何を未来のために築かなければいけないのか。そんな最近ボンヤリと思いがちなことが深く鋭く掘り下げられていて面白かった。今読むべき本だと思う。「中動態の世界」と「勉強の哲学」も併せて読むとさらに楽しい。

掃除婦のための手引き書

短編集。文字が猛スピードで映像になって視界に飛び込んでくる。書き手の思考を強制的に追体験させられるような裸の文章。その体験自体が目的だったかのように、呆気に取られていると一編が終わる。乾いた読後感で、夜中に読むのが良い。

テスカトリポカ

ハードボイルド・サイコ・クリミナルアドベンチャーとでも言うべき大迫力の小説。アステカの神々への信仰、メキシコの麻薬カルテル、そして川崎…異常な物語なのに「途中までノンフィクションなのか?」と思うほど、リアルであることを何よりも大事にした書きぶりも嬉しい。3日で読んじゃいました。主人公らの悪事が倫理的に完全に終わってるものの、文章に迫力がありすぎて嫌な気持ちになる暇がないのも凄かった。

雑草はなぜそこに生えているのか

雑学本。庭等で雑草と戦っている人は特に面白く読めるはず。雑草はなぜそこに生えているのか?そもそも、雑草とは何なのか?実は木が鬱蒼と茂る森林には"雑草"が少ないのって知ってました?

平成金融史

これも雑学本。平成という僕たちが生まれ育ち青春を過ごした暗い時代。その暗さとは一体何だったのか。バブル崩壊の傷が現在まで癒えずに残り続けてきたマクロの経緯と、大蔵省の課長から宰相まで個々人の奮闘がどちらも細やかに記された圧倒的な歴史書。仕事に役立つわけではないが平成という時代を振り返るのにとても良い教養本だと思う。

深夜特急

80年代のバックパッカー旅行記。発行当時、旅行者のバイブルになっただけあってぐいぐい読ませる。土地、人、旅すること…(ヒッピー的な旅行をしていると綺麗事だけではなくなるようで、それもまた面白い)。
でも、それよりも、インターネットがない時代の旅っていいよなあ。どこにも接続せず、接続されてない土地へ行き、その土地を知る…。そんな経験をする機会は、僕たちからは永遠に奪われてしまった。そう強く思った。

嫌われた監督

この通りで笑ってしまった。

漫画

グヤバノ・ホリデー

楽しくボンヤリ無の気持ちになれる。

棒がいっぽん

今のような、この先起こる出来事のような、昔の出来事のような、沢山の時間の間をふきぬける風のような…。これも短編集。「美しきまち」が好きです。

シュナの旅

大作のナウシカ(全七巻の漫画のほう)の合間に描かれたらしい文庫の漫画・・というよりもイラスト物語。静かで暗く、希望が通底する内陸の旅路。短い時間で"物語の世界"に入り込める、良い本でした。

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