わたしのはなし/その3 まさかお前が『水滸伝』
中学生のとき
わたしは本を全く読まなくなってしまった。
マンガ以外を除いて。
高校生のとき
高校2年生になってから、わたしはまた本をしっかり読むようになった。
ある友達との出会いがきっかけで。
2年生になってすぐ。
まだ席替えが始まる前の席は名前順で、わたしは廊下から三列目のうちばん後ろの席だった。
わたしの左隣の彼は推薦で高校に入ってきた野球部のいかにも体育会系でがさつそうな男。
「おいうんこ!」
「なんかち◯こはみ出てると思ったら、お前の顔だったわ」
最低&しょーもない発言で友達をいじる。
しかも廊下や教室で大声で叫びながら。
そのくせ人見知りで、女子には自分からあまり話しかけず、話す時もなぜか敬語でしゃべったりする。
ゴリゴリの体育会系だけどどこか憎めない奴。
そんな彼の休み時間の過ごし方が、わたしには衝撃的だった。
普段あんなに低俗な発言を堂々とする体格のいい坊主の男が、見たこともないような集中した顔で本を読んでいる。
お前本読むタイプなんっ!
そのギャップに驚いた。
それと同時に、勉学とは対極にいるはずの野球坊主が本を読むはずがない、というわたし自身の先入観を正された。
彼が読んでいた本は北方謙三著『水滸伝』。
当時わたしは和太鼓部に所属していて、同期と一緒に練習していたプロの憧れの曲名が水滸伝に関係する名前だった。
だからわたしは彼に対して、
「梁山泊って水滸伝に出てくるやんな!?今練習してる曲名が『梁山泊』やねん!」と熱量高めで話しかけたのを今でも鮮明に覚えている。
彼の北方謙三の『水滸伝』の良さを語る表情や言葉を聞いて、わたしはまだ見ぬ彼の心の奥のカーテンに少し触れた気がした。
「うんこ」や「ち◯こ」などを大声で叫ぶ男でも、本の中の登場人物に涙することがあるのだ。
彼の話を聞き「読んでみたら曲の構成や配置などの意味をもっと深く知れるかもしれないなぁ」と思ったわたしは、全19巻という長い旅に出た。
彼がこの本を好きな理由は、文章が教えてくれた。
そして、男だけの体育会系の部活で部長を務めていたわたしとっても、この本はバイブルになった。
男臭くて熱い物語だった。
19巻もの物語を読破し、読書に対して自信を持てたわたしは、また本を読むのが好きになった。
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