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法学の社会人大学生1年目の方に読んで欲しい本

社会人大学院生向けの本は、その多くが自然科学であったり、社会科学であってもMBAなどが多く、学術研究に対する意識の向け方やモチベーションの維持には役立つけど、ちょっと法学の大学院とは違う気がするな・・・。

かといって、法学の先生が書いた大学院生向けの本は、修士論文執筆のためには必須なのはわかるけど、ちょっと専門的過ぎて正直仕事をしながらそこまで手が回らない・・・。

そんな法学の社会人大学院1年目の方にお勧めしたい本が、横田明美先生が書かれた、「カフェパウゼで法学を―対話で見つける<学び方>」です。

この本では、法学部に進んだ大学生に向けて、「高校までの勉強と大学での学びとの違い」を明らかにするところから始まり、実際の大学での講義の受け方、レポートの書き方、ゼミの受け方、卒論の執筆方法などを事細かに教えてくれています。

私が大学生の頃は、「法学」の入門的な本と言えば、分厚い「法学入門」か、大家の先生方が書かれた新書ばかりで、大学の先生がこんなに丁寧に手取り足取り教えてくれる優しい本はなかったはず(私の知る限りですが)。「大学生の頃にこの本に出合っていれば、もっとまじめに大学の講義を受けていたのに・・・。」、と大変悔やまれます。

しかし、今さら大学生には戻れませんから、法学の社会人大学生1年生がどのようにこの本を活用すべきかを、3つのパターンにわけて考えてみたいと思います。

1.法学を本格的に学んだことのない方

社会人大学院の良いところは、何といっても多様性です。今まで法学を本格的に学んでこなかったけれど、法学を学びたい!ということで、社会人大学院に進んだ方もいらっしゃると思います。

そんな方には、是非、第三部の「法学を学ぶあなたに 3年生編」という章を読んでいただきたいです。末広厳太郎先生の言葉を引用しながら、法学学習とは「暗記物」ではなく、「法律的な物事を考える力」の養成にあるということがわかりやすく説明されています。

社会人で法学を学ぼうと思う方は、きっとそのあたりのこと(法学は暗記物ではないということ)を無意識的にわかっていらっしゃる方が多い気がします。でも、社会人大学院で法学を学ぼうとすると、この辺りの基礎的なことを丁寧に説明を受ける機会はほとんどありません。この本は、法学を学ぶにあたっての基礎的なことを余すことなく言語化してくれているので、社会人大学院で法学を学ぶにあたっての一つの指針になるのではないかと思います。

また、「講義、ゼミ、自習をどのようにつなげていくのか」という話であったり、法学は一週目では理解できず、全体を見渡す「鳥の目」細かく理解していく「虫の目」が大切だという話など、法学を学ぶにあたって身につけておきたい考え方が分かりやすく書かれています。

2.法学の学習経験がある人

法学の社会人大学院のメインの層は、法学の学習経験がある人だと思います。法学部出身であったり、企業の法務部や知的財産部などの第一線で活躍されている方々です。

そんな方に是非読んでいただきたい章は、第二部の「レポートをちゃんと書いてみよう 2年生編」という章です。

法学の学習経験がある人は、法律的な考え方がどのようなものであるかについては理解していることが多いですし、講義を受けてもその内容を自分なりに消化できてしまうことが多いと思いますす。

ただ、実務で長年法律を取り扱っていると、実務的な流れであまり深く考えずに事務処理をしてしまうことも多いと思います。また、企業内で何か問題が起きた場合でも、問題をいかに解決するか、という方向に頭が行ってしまうため、自分で問いを立てて論じるという機会はあまりないのではないでしょうか。

しかし、社会人大学院の修士論文では、自ら問いを立てて論じるということが要求されます。この本では、法学のレポート課題を、論文を書く前の練習段階として位置付けて、法学のレポートの型や書き方をわかりやすく説明してくれています。

社会人大学院では各期にレポート課題が課されることが多いと思いますし、レポートの型を身に着けることは、修士論文を書くにあたっても必須のスキルだと思います。法学の学習経験がある人でも、この辺りはよく読んでおくと修士論文の執筆にも、きっと役立つと思います。

3.本格的な法学の論文を執筆したいと考えている人

社会人大学院には、もちろん法学の研究をすることを目的に入学する方もいらっしゃいます。

この本は、大学生向けに書かれたものではあるのですが、本格的な法学の論文を執筆したいと考えている人にも役立つと思います。それは、横田先生のこれまでのご経歴やご経験に基づいて、①実務と研究の違いや、②法学科目間のつながりを意識した研究の方法について書かれているからです。

横田先生は法科大学院から博士課程に進まれたご経歴をお持ちということなので、法科大学院(実務)と研究大学院(研究)との違いを肌感覚でわかっていらっしゃるんだと思います。社会人大学院で論文を執筆しようと思った場合、やはり実務的な視点から切り込んでいくことが多いのではないかと思いますが、実務的な視点をどう研究に活かすのか、研究的な視点をどう実務的に生かすのかという点のヒントが、この本からは得られるのではないかと思います。

また、法学科目間のつながりを意識するということを明確に述べていらっしゃる点も、参考になります。社会人大学院生の利点と言えば、これまでの実務で培った幅広い視点から考えられることだと思います。

たとえば、情報法分野を中心に研究するとしても、消費者法的な視点で考えてみたり、競争法的な視点で考えてみたり、憲法的な視点で考えてみたり、刑事法的な視点で考えてみたりと、いろいろな分野から考えてみるということが、学部生の頃よりはできるようになっていると思います。法学科目間のつながりを意識するということは、これまでも言われているということだとは思いますが、この本ではこの辺りの考え方が分かりやすく述べられており、修士論文のテーマ選定にも役立つはずです。

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ということで、今日、法学の社会人大学院生1年目の方に是非お勧めしたいと本として、「カフェパウゼで法学を―対話で見つける<学び方>」をご紹介しました。興味をお持ちいただいた方は、是非、読んでみていただければと思います。



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