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ボンド、ジェームズ・ボンド

(ネタバレありです。)

やっと観に行けた、007。なんと上映時間2時間44分。あまりに楽しみだったので何の情報も誰のレビューも読まずに挑んだ3時間弱。大満足ですよ。帰宅したあと皆さんどんな風に褒めてるの?と思ってみたら賛否両論だった。映画には賛否はいつだってあるし、おもしろい映画だからこそ意見が分かれるだろう。

私の感想としては、いつものようにリブートが随所にあり、シリーズへの深い愛情と共に新しいボンドを演じたダニエル・クレイグ最後の花道として大きな花火がぶちあがっていたと思った。

15年間このボンドは常に苦しみ、それを鋼の肉体に押し込めて時折ひどく疲れては隠遁し、進むテクノロジーに戸惑いながらも007としての役割をまっとうしたのだと思うことができた。最後を飾るにふさわしいものだった。

ダニエル・クレイグのボンドが活躍した出演作すべてを集約させたストーリーの今回、脚本家と監督が降板するという困難があったせいか所々流れがぎこちないと感じるところはあった。色々疑問に思う演出もあった。

しかし、後半の中弛みも今回の悪役サフィンがマドレーヌに執着する理由の弱さもなんでマドレーヌ実家に戻ってるんだよそりゃサフィンが追いかけてくるよ、とか、色々あるんですが、別にええがな。

そりゃこれくらいやらなきゃね!とこれでもかとボンドのかっこいいところをカメラは押さえ続けるぞという意思をひしひしと感じ、ダニエル・クレイグ大好きな私は内心「ありがてぇありがてぇ」と拝むに至り、もうラストなんて"ぼくの考えた最強のジェームス・ボンド"といった風情で私は非人間なのでwそのボンド無双てんこ盛りぶりに、かっこいいボンドを映し続ける執念のカメラワークに何度か笑ってしまったくらい。

とてもシリアスな場面なんですけど、スペクターで引退していたボンドをファンのために引っ張り出したんだからそうなりますわね。これはダニエル・クレイグのボンドのためだけの映画だと思えば全然問題ない。

しかし全体から考えるとダニエル・クレイグのボンド1作目の『カジノ・ロワイヤル』でヴェスパーが死んで以降ボンドは失意のままだった。

しかし今回ボンドは家族を持つ。これは『女王陛下の007』のリブートでもあるだろう。こちらの作品でボンドははじめて結婚し家族を持った。しかし、ボンドであるがゆえに妻となったトレイシーはブロフェルドによって殺害されてしまう。

挿入歌としてラストに流れた『愛はすべてを越えて』と、「急ぐ必要はない。時間はいくらでもあるから」の台詞は共に「女王陛下の007」からの引用だった。

しかし、ヴェスパーの死に関係する敵であるホワイトの娘であるマドレーヌがボンドの家族となりボンドと同じ青い目の娘マチルドをもうけるのがとても象徴的。

映画というものは、特に欧米が描く映画は結局家族の物語であるが、このダニエル・クレイグのボンドが傷つき惓んでいる根本は彼の家族への思いだ。お陰で『スカイフォール』の暗さったらない。

そもそもボンド最大の敵スペクターの首領ブロフェルドは(血のつながらない)兄弟でありブロフェルドの一方的な恨みが発端の世界を巻き込んだ兄弟間の諍いですからね。

つまりダニエル・クレイグのボンドは親を亡くした子供として出発し、スパイとして世界と向き合いながら家族により傷ついて、そして家族を守るために最後の死闘を繰り広げるお父ちゃんの理想形としてヒーローのひとつの型として昇華されたのだ。

大好きな映画にX-menシリーズのLOGANがある。これもまた家族の物語だった。うっかり4回も映画館でみたがそのくらい観るべき理由のある映画だった。

この映画の主人公ローガンもボンドもともに世間の常識を相手にしながら、誰かを生かすために命をかけ、道化であることを自分で思い知り、自分のそれまでにある種の後悔や懺悔を持ち、それを芯から自覚する。

だからこそ他者に自分を差し出せるのだ。
そしてそこに生き死にする自分を置くことができた時ローガンは遺伝子上の娘ローラのために、ボンドはマドレーヌとマチルドのために自分を差し出す。

だからこそ物語は人々に感動を生むのだし、海と空がやたらと美しく見えるのだ。ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドの美しさとともに。

でもねぇ。物語はこれでいいとしてもそういう描き方のヒーロー像、もうよくないですかと正直思わないでもない。世界を守るためにひとりの男の命で贖うなんて。とチラッと思う。

どうせならみんなで生き残る世界になればよくないですか、この世界の存続を誰かひとりの命で贖うのはオメラスの人と同じになっちゃう気がして。
もちろんヒーローはこの世に必要。でも彼ひとりに背負わせちゃだめだ。みんなで少しずつ責任持ちましょう。と思いました。え、映画にならない?そりゃ失礼しました。

テクノロジーの描き方をみて。ああ、こう言うエピソードから陰謀論好きな人は想像を拡げて現実に接続させてコロナワクチンを打つと云々という世界に住んでしまうんだなと思った。科学教育、やり直すしかないですね…

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