見出し画像

幸せの4因子 ダイナミズム・モデルについて(試案)

幸せになるためには、大きく分けて4つのファクターがあるという。慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科の前野 隆司教授の研究だ。コロナ禍を経て、幸福度がむしろ増加した人たちがかなりの割合で存在したが、それは一体どういう訳か、ということもあり、近年話題になった。
職業柄、その4つのファクターの間の関係性や因果関係、個人の幸福度を高めるために、それらが上手く機能するアプローチの順番などが気になっていた。そこで、今回、システム思考の考え方を応用して考察した。

幸せの4つの因子とは

まず、前野教授の幸せの4因子の説明は以下の通りである。

幸せの4つの因子(前野隆司教授)

<個人の在り方>

  • 「やってみよう」因子:夢・目標、強み、成長、自己肯定感

  • 「ありのままに」因子:独立、自分らしさ

  • 「なんとかなる」因子:前向き、楽観性、自己受容

<関係性の質>

  • 「ありがとう」因子:感謝、利他、許容、承認、信頼、尊敬、自己有用感

<個人の在り方>と<関係性の質>という分類の背景には、国際比較研究に基づく、個人主義の強い国・地域の傾向性と集団主義の強い国・地域の傾向性を割合・バランスとして対比させて考える視点がある。ちなみに日本は、集団主義的傾向が強い国・地域に分類されており、「ありがとう」因子が強く働く社会であると説明されている。

以上が、前野教授の幸せの4因子に関する整理、分析のエッセンスである。

幸せの4因子 ダイナミズム・モデル(試案)

ここで、試案ではあるが、この4つのファクターに注目して、ある人が幸福度を上げたいと思った際に、どのようにアプローチすると良いかを考察してみたい。

まず、ある人が、人生のあるレベル/ステージにいる時を考えると、そこでは、①なんとかなる因子→②ありがとう因子→③ありのままに因子という順番で意識変容が起こりやすく、上手くいけば、それがサイクルとして循環しうるのではないか。そして、そのレベル/ステージをより高めようとする際、④やってみよう因子が、その主要なきっかけとして機能するのではないか(下図参照)。

幸せの4因子 ダイナミズム・モデル(試案)


具体例を示しながら説明しよう。人は誰しも悩みを抱えている生き物だと思う。多くの人は、その悩みを解消したいと思いつつ、漠然と「幸せになりたい」と考えているだろう。

ここで、幸せのサイクルに入るための入り口として、もっとも起こりそうに思うのは、今までの経験、体験を思い出したり、身近な人に相談するなどして、①なんとかなる因子を発動させることではないか。つまり、自分は、これまでもいろいろあったが、結果として、いつも何とかなってきたな・・・と気がつくことである。また例えば、悩みを相談した相手に、「あなたの悩みは、それほど深刻なものではなく、誰もが味わっているものだし、実際に、結果は、いつもなるようになってきたのでは?」と言われて、確かにそうだな、と気が楽になる・・・といったようなことである。そして、そのことを意識すれば、実際になんとかなったことが経験として積み重なる・・・。そうしたことが多いのではないか。この因子は、入り口として、多くの人に最もハードルが低いと考えられる。

次に、②ありがとう因子が来る。自分のために心を砕いてアドバイスをくれた、また、当然と思ってきたが、考えてみると、実はいろいろとやってくれた親や家族、その他の周囲の人たち、また、地域社会や自然環境を含めた他者(日本的な八百万の神など)のありがたさに気がつき、感謝する。上記①の自らのある何とかなった経験、出来事をきっかけとして、感謝に進むというようなことが考えられる。

そして、今度は、現在起きていることを客観視し、落ち着いて自分に向き合うことで、これまでの経験や他者の存在を意識しながらも、結果として、ありのままでいて良いし、それで十分に幸せではないかと思い至る。③ありのまま因子である。ただし、この因子を働かせることは、実は高度であるように思える。上述の①、②から自動的に導かれるようなものではなく、かなり意識的に取り組まないと実感することは難しいと考えられる。誰でも、自分に向き合うことは簡単なことではない。その理由としては、例えば、社会学の大家、故見田宗介先生の言うように、我々の多くは、他者たちの「まなざしの地獄」の中に生きているからだ。他者のまなざしから逃れて、自分自身に向き合うことはとても難しい。別の言い方をすれば、他律的に、人に責められ、人を責めるコミュニケーション構造にはまってしまっている(主観的なシステム内存在※)。

※ただし、社会システム理論的には、人間はシステムの環境に過ぎないことに注意が必要である。このことは、別の機会に説明したい。

④やってみよう因子は、さらに別の次元で、意識を働かせて、発動させる必要のあるファクターであると考えられる。すなわち、自分はこうなりたい、こういうところを目指したい、こんなところに住みたい、こんな人たちの仲間に入りたい・・・と自発的に目的を設定し、その上で、目標をつくり、それを目指して活動を繰り返す。そのことで、自分の人生の対象とする範囲、関心の領域を徐々に、時には、急速に広げようとして試行錯誤し、それに成功したり、失敗したりする。この因子は、そういった位置づけのものではないか。もちろん、現状いるレベル/ステージでとどまることも出来るし、現状から、レベル/ステージを上げて、自分が相手にする世界をさらに広げていくことも出来る。さらに言えば、もっと小さな世界に引きこもってしまう(対象とする世界を縮小させる)ことも出来るのである。


以上、前野教授が提唱している幸せの4因子をもとに、そのダイナミズムを、一つのモデルとして示した。モデルなので、この①~④の順序は、難易度、起こりうる蓋然性の高さを示したものに過ぎない。幸福をめざして、人生に取り組むその人によって、また、それぞれが置かれた状況によって、①~④のどこからでも始めることが出来ると考えている。


個人的には、こういったモデルを設定することで、例えば、幸福(Wellbeing)の状態から遠ざっているような社会事象、例えば、貧困、孤立・孤独、引きこもり、うつ、いじめ・虐待、ハラスメントなどなど、非常に対処することが難しい問題の処方箋を考える際の、ベースになり得ると考えている。また、このようなモデルに基づいて個人の幸福度に関する調査を行い、実証的にエビデンスを結果を積み重ねて、確率論的に上記のモデルの精度を高めていくことなども出来ると考えている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?