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欧州核破砕中性子源と大麻ハウス

(2019年4月14日のブログ記事を転載、編集したものです)

北欧の大学街の欧州随一の研究施設

私の住むスウェーデンのルンド市は北欧の中でも群をぬく歴史と格式を誇る大聖堂が街の中心にあり、そのすぐ隣から神学部を始めとするルンド大学の文系学科の学舎が広がる。そしてその外周には医学部や理系、工学系の学部が大学が発展していった時系列順にわかりやすく並んでいる。

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キャンパスが終わるあたりで大学発の技術シードで起業する人たちにぴったりのサイエンスセンターやメディカル系企業のスタートアップが集まるオフィス施設へと続いていく。

これまではそのさらに外側、街はずれと呼ぶのにふさわしい場所にあったのはソニーやアクシス・コミュニケーション(監視カメラの世界的企業)といった成功したIT関連企業のビル群だった。

ESS(欧州核破砕中性子源)とMAX Ⅳラボ

目下、さらにその外側に建設中なのが、日本語では「欧州核破砕中性子源という名前の「ESSと世界で一番パワフルと言われる高輝度放射光施設である「MAX Ⅳ 」ラボだ。

特にESSは完成すればこの手の研究ではヨーロッパ最大となる施設で、世界中から第一線の研究者が集まってくる場所になる。(ルンドのイノベーション・システムについては日経ビジネスのこちらの記事もどうぞ)

新しい街、ブルンスホーグ 

さて、この新しい巨大研究施設の建設にあわせて今ルンド市では街の中心の鉄道駅からこのESSまで路面電車を建設しておりさらにESSに隣接する場所にブルンスホーグ(Brunnshög)という新しい街を つくっている。

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両研究施設や企業地区に加えて大きなスーパーなども併設した住宅区域を含む地区全体が完成したあかつきには4万人が集まる街になる(現在のルンド市の人口は12万人強)。

ブルンスホーグでは研究施設から排出される熱水を住宅へと循環させる新しい低温地域熱供給のしくみが導入されたり、入居者でシェアする電気自動車付きの集合住宅の建設がはじまっていたりと最新の持続可能なアイデアに満ちた街を建設中だ。

大麻プレハブ建材パネルと大麻断熱材で建てる家

そしてこれからの持続可能な住宅を展示するブルンスホーグの住宅ラボに大麻を使ったプレハブ建材の生産を開始した Ekolution (エコリューション)というスタートアップ企業のモデルハウスが建っている。

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エコリューションが提供しているのは産業用大麻であるヘンプ(精神活性成分をふくまない大麻の品種)と石灰と水をまぜてつくる大麻でできたコンクリートの建材(ヘンプクリート)のプレハブパネル。他にも大麻の繊維を使った断熱材も生産している。

(こちらがヘンプクリート)

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ヘンプクリートは透湿性があり湿度をうまくコントロールし、断熱効果も高い。自然な殺菌効果もありカビなどを防ぐ上、耐火性能も高く火事にも強い。また大麻は成長する過程で二酸化炭素を多く吸収しヘンプリートの生産工程で排出される二酸化炭素と合わせても全体では二酸化酸素排出量を減少させる優れた植物だ。

産業用大麻は100日ほどで4メートル近くまで成長し、スウェーデンの寒冷な気候でも年に3、4回収穫できる。このあたりのスピードと簡易さは「森」が持つ二酸化炭素削減効果を補うものがある。

(こちらはスウェーデン南部ですくすく育つ産業用大麻の畑)

古くて新しくて、誤解されている大麻の未来

大麻は亜麻(リネン)と並んで、スウェーデンでも伝統的に身近な植物だったが、第二次世界大戦後のアメリカの政策の影響で栽培が長らく禁止されていた。

建材だけではなく食用、繊維としても優れた植物であるのにヘンプ栽培はやっと2003年になって解禁されたばかり。今は消滅していた栽培文化の立て直しと同時に精神作用のあるマリファナ大麻(カンナビス)と混同される誤解をとくことが課題でもある。それにしても、まとめてみると言うことなしの古くて新しい大麻は欧州核破砕中性子源施設にも負けないパワーを秘めている。

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(上はヘンプリートと大麻の断熱材で立てた大麻ハウス全景。タイトル画像はエコリューションのナイブ・ボルデマリアムさん)

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