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わたしにエロティックなノリを教えてくれたサザン

 はじめて買ったCDはサザンオールスターズの『ステレオ太陽族』でした。このアルバムが発売されたのは、わたしがCDを購入する数年前。アナログ盤のリメイクというわけです。当時はCDの黎明期で、まだまだCDプレーヤーも高価で図体もビデオデッキくらいの大きさがありました。そんなわけで、裕福でも音楽好きでもない私の家にCDプレーヤーがやってくるのはずっとあとのことでした。

プレーヤーもないのにCDを買った理由

 このお題 #はじめて買ったCDに参加している方の多くも書かれていますが 、最初に購入した楽曲メディアはアナログレコードでした。音楽に目ざめた中学生当時、アナログ盤のシングルレコード、通称ドーナツ盤(死語)は¥600ほど、アルバムを収めたLPレコード(これも死語)ともなれば¥2,500前後でしたから、後者を購入するには、なけなしのお小遣い数カ月分が必要になります。それでやっとの思いで購入したアナログ盤がこれ。(ちなみにリンクはアフィリエイトではありませんので、お気軽に踏んでください)

 FMから流れてくるユーミンの名曲『DISTINY』に心を鷲掴みにされてのことでした。曲調はポップですが失恋に至る悲しい偶然を歌ったものですから、まだ本物の恋をしたことのない私には響かない歌詞であるはずなのですが、とにかく好きな楽曲でした。この『歌詞よりも曲のノリ』に惹かれるところが私にはあって、これがあとになって大恥をかく原因になるのです。

貸しレコード屋は神のような存在だった

 同級生のお小遣い事情はみな似たりよったりでしたから、なけなしの小遣いで購入するアルバムがかぶらないようにして、互いに貸し借りするのが普通でした。もちろん借りて聴くのではなく、カセットテープにダビングする。この行為が著作権法に触れるかどうかはグレーゾーンのままだったと記憶しておりますが、音楽好きの人たちの元にハイ・ファイオーディオが行き渡ったタイミングで貸しレコード屋というものが登場、みなが一斉にとびつくことになりました。
 たしか麗光堂という店だったと思いますが、著作権法スレスレのところを突く商売は全国に波及していきます。当然レコード、CDの売上が落ちますから、楽曲を配給する側もダビングできないようCDに妨害信号を入れたり、購入者にはコンサートチケットやグッズ購入の特典を与えたりと失地回復に躍起でしたが、ついには法廷闘争の結果、貸しレコード屋は楽曲配給側の利益を損ねているとの判決がくだされ、新譜が発売されて一定期間を経ないと貸しCDを店頭に並べないこと、レンタルによって発生すると見積もられる損失をレンタル業側は配信業側へ補填する等の取り決めがなされました。現在では普通になった、初回限定盤、初回特典はこの頃からだった気がします。
 借りる側としては、印税で生活しているアーティストには後ろ暗い気持ちはありましたが、なにせ安価で音楽ライブラリが増えるのには替えられませんでした。それほど十代の子供たちにとってレコード・CDは高価だったのです。

 それなのに前述の『歌詞よりノリ』を重視するわたしの感性が、どうしてもCDを購入せざるをえない状況へと導いてしまうのでした。

大ヒット曲『栞のテーマ』のカップリング曲


つれない素振りのロング・ブラウンヘアー ねえどうしてなの なぜに泣けるの?

というサビの歌いだしが印象的なこの曲、たしかスポーツ用品メーカー・ミズノのCMに起用されたバラードでサザンオールスターズの代表曲のひとつですが、貸レコード屋で借りたアルバム『ステレオ太陽族』のなかからシングルカットされた楽曲でした。

そのB面、CDで言うところのカップリング曲に使われたのが『My Foreplay Music』というノイジーなエレキギターによる前奏が印象的なノリのいい曲。桑田佳祐さんのボーカルがグイグイ来る。最初に耳にしたのが、サントリーのトリスウィスキーのCMに起用され、アンクルトリス、通称トリスおじさんが女性とダンスをするアニメの背後に流れていました。
 ノイジーなベースギターが刻むテンポに乗せて、ロックともラテンともつかない、いわゆるクロスオーバー的なノリが大好きで、意味も知らずに、耳から入ったままの歌詞を口ずさんでいました。
 だけど、せめてタイトルの意味くらいは知っておくべきでした!

わたし、なにか変なこと言った?

『ステレオ太陽族』をダビングしたカセットテープは、お気に入りのなかのお気に入りでした。テープが伸びて音質が悪くなるまでウォークマンで何度も何度も聴いたものです。
そして大学へ進んだある日、裕福な同級生が所有するクルマで海辺へドライブに出かけることになりました。同乗していたのは、わたしの他には男子がふたり、女子がひとり。うち、ハンドルを握っていた子が、せっかく海岸を走るんだから、なにかノリのいい曲はない? と言うものですから、わたしはここぞとばかりに、コレクションを収めたポーチから『ステレオ太陽族』のカセットを取り出し、さっそくカーステレオで再生されることになったのです。

『ステレオ太陽族』はかなり売れたアルバムでしたから、みんなが知っているはずでしたが、『My Foreplay Music』やヒット曲『栞のテーマ』以外の曲をソラで歌えるのはわたしだけだったと思います。
 そして、かつてLPレコードのB面に収録されていた『Let's Take a Chance』が流れ始め、わたしが口ずさむと、前席のふたりが肩を小刻みに上下させて笑い始めます。そして助手席のひとり振り向き、
「ヒロミさぁ、おまえ歌詞の意味を知ってて歌っているんだよな?」
 後部座席のとなりに座っている女の子はキョトンとしています。
 なにがどうおかしいのか、訊ねても、
「歌詞カードを見ながら、曲を聴いてみろよ」
 と言うだけで教えてくれません。
 貸しレコード屋から借りてきたアルバムには、すり切れてセロテープで補修された、しかも白黒コピーの歌詞カードが添付されていましたが、そんなものには目もくれていなかったのです。サザンの曲は受験英語風で、なんとなく諳じることができましたから、耳から入った音を知っている単語に当てはめて歌っていました。

 蔦屋に行けばレンタル用に置いてあったでしょうが、貸しレコードの轍を踏まぬよう、CD化された『ステレオ太陽族』を購入することにしました。今ならば、ネット検索で簡単に歌詞が判明するのに……

歌詞カードを確認して愕然となる

 数年前にダビングしたカセットはヨレヨレになっていましたから、新たにダビングするもよし、CDウォークマンを手に入れたらそれで聴くもよし、と気楽な気持ちでCDプレーヤーのトレイにアルバムを挿入。
 サザンの曲には英語が散りばめられていますから、英和辞典を片手にノリノリで聴き始めます。そしてお気に入りの『MY FOREPLAY MUSIC』が再生され始めた時でした。
 “MY“”とMUSIC”はわかりますから、“FOREPLAY”の意味を辞書で調べて、おもわず叫んでいました。
「ぜ、前戯!」
 タイトルの意味を知ってしまうと、歌詞の描写がまさに“前戯”そのものだと理解できました。それまでノリノリで口ずさんでいた自分が恥ずかしくなります。そして、問題の『Let's Take a Chance』の歌詞と実際の歌声を照らし合わせてみます。
 失笑される原因となったであろうろ箇所を抜粋してみますと

よがる間もなく通りすぎてく I am sorrow
指ではじけて恥じらいこめて I am turn to show
心残りがあるとするなら I am O.K
 

直訳すればなんてことはない歌詞なのですが、桑田さんは明らかに日本語に当てて歌っており、その前後の脈絡、特に締めくくりの

ひところよりよさそうな
(そのまま続けてやめないで)
長続きもできそうな
(間違いだらけの妄想タイプ……バカ!)

で、もう決まりでした。
 エロティックな内容を堂々と歌ってきたことに気づいたわけです。
 みなさんもご存じのとおり、サザンオールスターズはその後も、歌詞にさりげない大人のエロを盛り込んだ曲をリリースしていきます。RCサクセションの『雨上がりの夜空に』や、バービーボーイズの『目を閉じておいでよ』なんかよりは直接的でなく、それだけに意味深な歌詞。
 サザンは今も大好きですが、仲間とカラオケで歌う前には必ず歌詞を確かめるようになったという次第です。
 あ~恥ずかし!


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