見出し画像

イケメン、美人で売る歯医者は危ない?

看板にウソ偽りを書いてはいけない

どうして先生は、看板に『痛くない』とか、『○○治療なら当診療所にお任せ!』なんて書かないの?」

 と、定期健診にいらした男性患者に真顔で尋ねられたことがあります。彼が言うには、看板に電話番号と診療科目、受付時間だけでは勿体ないというわけですな。たしかにわたくし、痛みを取り除くということについては頑張っているほうだと思う。そして治療に伴う痛みも極力ちいさくすべく努力しているつもり。彼も、その恩恵に浴しているからこそ定期健診に応じるし、わたくしに直言もするわけです。でも、自分で言うのもなんだけど、痛みはゼロにはできないですよ。少しは痛い。歯を抜くとき、患者に「痛いですか?」と尋ねられる。その時は必ず、「痛いです」と即答いたします。そして患者の引きつった表情を横目に見ながら、笑顔でこうも付け加える。「注射するときにチクリとしますし、抜いたあとは傷口ですから、麻酔が覚めたら傷になった痛みは出てきます。ただし、あなたが予想しているほど痛くはないと思うよ~」と。こんな調子だから、これを『痛くしない』と看板に書いたら嘘になっちゃう。

 たぶんウチの診療所は、他とはずいぶん違うところが多いはず。治療方針も診療形態も独特なんだろうな(自分では王道を行っているつもりだけど)。だから、ある治療分野については強力なリピーターが大勢ついております。ですから先の患者さんは、こんな特色をどうして宣伝しないの? と言っているのですが…………宣伝しないのではありません。できないんです!

医療の広告は法律で厳しく制限されている

 理由は法律に抵触するから。われわれを規制する医療法には、医療の広告は存在広告……すなわち診療所の名称、院長の氏名、所在地、連絡先、診療科目、受付時間以外の広告

は認められていない。ですから、院長が○○学会の理事だとか、博士号があるだとかはもちろん、「痛くない」とか「迅速且つていねい」なんて文言もタブーです。このことを冒頭の患者さんに言ったら、

「えっ、嘘だあ。レーザー光線で治療をするとか、CTスキャン完備って書いてあったぜ……、ほらぁ」

 と、彼が差し出したスマホ画面には、近くの商売がたきのホームページが。それはそれは、歯の浮くようなセールストークがズラリ。『患者様の笑顔が見たい、それがわたしくの生きがい』……ホントか? おまえんとこで入れ歯を作った患者、しっかめっ面して、こっちに大勢押し寄せてきてるぜ。だいいち“患者様”ってのが気に入らない。“お客様”と同じ感覚だよね。がっぽり儲けてやるぞーにしか思えないんですけど。そんなことに憤慨しながらページをスクロールさせていくと、たしかにウン千万円もするレーザーだCTだとかが誇らしげに載っています。で、保険の診療はダメなんだ、と巧みに自費へ誘導……結局はそこかい! 

医療でもネット広告は無法地帯

また別の先生のページ。キャバ嬢かと見紛うほどの院長が、アメリカの有名な教授とのツーショットや、なにやら怪しげな認定証を手に微笑んでいる。やはりインプラントやホワイトニングが主体ですね。一方、予防だとか普通の治療ことは扱いが小さい。この診療所、個人的な興味から、かなり突っ込んだ実態調査をしたことがあるんですが、とてもじゃないですがネットでは語れません。推して知るべし。こんなヒドイ例は珍しい方だけど、検索エンジンの上位にヒットするところには、少なからずこういった傾向があります。検索大手のグーグルによると、上位のページは人気のあるページ、クリック数の多いページということになっていますけど、歯医者のホームページって、そんなに大勢の人が訪れると思いますか? これとは別に、リスティング広告費というカネを払えば、ネット検索大手は上位にヒットするようにしてくれますから、上位でヒット→人気のある歯医者→良い歯医者、とは必ずしもならない、むしろハズしたほうがいいかもしれないぐらいは、頭の隅っこに留め置かれることをお勧めいたします。

もうお気づきでしょうが、ネットの広告には医療法による規制がありません。不特定多数が否応なく目にする看板と違って、ネットは個人が能動的に観に行くものだからというのがその理由ですが、なんだか社会のダークな側面をかいま見たような気分。

ま、それは置いといて看板の話へ。たしかにネットに比べたらおとなしいですが、それでもグレーゾーンのものは多いです。先に申しましたように「痛くない」というのもかなりある。わたしなんか、こんなのを目にするたびに「ホンマかいな?」と思わず口にしてしまう。これじゃあまるで無痛や心のケアをうたい文句にしている豊胸術や包茎治療と似たようなもの。医療というよりはエステに近い感覚なのかな。

一時期、看板がでかいところはヤブ、という法則がテレビで喧伝されたことがあります。たしかに大きい看板が、街のあちこちにある先生は危ないのが多いですが、必ずしもではありません。“看板がでかくて多いのはヤブ”が浸透してからというもの、わざわざ看板を小さくして集客ならぬ“集患”を画策する先生もいるくらいですから。だけど真に注目すべきは、看板に書かれている内容なのです。

まず悪い例から。予約制とうたっておきながら急患随時とも書いてある、これは理論破綻しておりますから真っ先に除外。あとは診療科目。一般歯科と書いてあるのをけっこう見かけるのですが、これは正式な標榜科目ではないですね。一般歯科につづけて小児歯科、矯正歯科、口腔外科とあるもの。これは一見、オールマイティな歯医者のように思えますが、誰だって得て不得手はありますから、各方面いちおうはなんでもやるけど、そんなに深くはないと思っていいかもしれません。次にデザイン。どこから引っ張ってきたんだ? と疑いたくなるような白衣の美女が、歯ブラシくわえてにっこり微笑んでいる。この人が、その診療所にいるなら良心的かもしれませんが、なにかを狙っているのかもしれません。まあキャバクラやホストクラブの玄関にあるアレですな。似たようなもので“女医”と書いてあるもの。どんな患者層を狙っているんでしょうかねえ。70過ぎのおばあちゃん先生でも女医には違いないですからね。この手の看板はハニートラップです。混浴、美女なんて言葉にグラッとくる殿方はご注意を。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?